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年上のお姉さんに愛されたい一人ぼっちの僕です

 僕は一人で公園にいる。

 回りには人が一人もいなくて、それが寂しさや悲しみをより大きくしている。

 まるでこの世界には僕だけしかいないかのような、そんな気がしてきて人恋しくなってくる。さっきさようならをしたばっかりなのにもう会いたい、サヤカお姉ちゃんに今すぐ会いたい。そして愛されたい。

 風が吹いて木が揺れて、空き缶が転がって、落ち葉やチラシが宙を舞っていて、さっきまで暖かかったのにこんなに肌寒くなって。おの暖かいのは何だったんだろう。


 ドキドキ? 恥じらい? 興奮? よろこび? 欲望? 愛? いったいどれなのかよくわからないけど、サヤカお姉ちゃんが居なくなった途端に寒くなってきたから答えはすぐに導き出された。

 暖かくしてくれたのはサヤカお姉ちゃんなんだ。僕はサヤカお姉ちゃんが好きで、お話をするだけでドキドキするし、手を繋ぐだけでドキドキするし、頭を撫でられたら安心するし、体を触られると愛されているから嬉しくなる。

 それが暖かくなることに繋がっているんだ。暖かくなるというのはサヤカお姉ちゃんの暖かさを感じていたからなんだ。

 えへへ、何だかくすぐったい。嬉しくて嬉しくてくすぐったい。


「それにしても寒いな……」


 寒いからトイレに行きたくなってきた。僕は辺りをキョロキョロと見回してトイレを探す。しかしトイレらしきものは見えない。

 僕は仕方なく少し遠くに見えている公園の案内図まで歩くことにした。そこにはこの公園のことが全部書いているだろう。

 そこを目指している途中、さっきまでサヤカお姉ちゃんといた木に囲まれた秘密の馬車を見た。するとそこに向かって歩いている男女がいた。

 そっかあの場所はカップルにとっては知られている場所だったんだ。それなら先客がいた場合はどうするんだ、順番が来るまで待っているのだろうか。


 カップルはバカみたいにくっついて歩いている。そんなにくっついていたら歩きにくそうだけど。そんなことは愛で溢れている二人にとってはどうでもいいことなのだろう。

 その気持ちが僕にも何故かわかる、サヤカお姉ちゃんと仲良くなったからわかるのかな。僕はサヤカお姉ちゃんのおかげで少し大人になったということなのかな。

 男は若くて大学生ぐらいに見える。女性はそれよりも若くて、年齢に少し差がありそうだ。年齢だけじゃなくて背も違う。男は背が高くて女性は背が低い。


 二人の声が聞こえてくる。誰もいないかな、いないよこんな寒い日に、それならいいんだけどな、本当にここで大丈夫なの、さあわからないけどスリルがあって良いじゃん。

 あれ? 女性の声は聞いたことがあるような気がする。気のせいかな。顔が見えないからよくわからないけど。

 何でそういつもスリルを求めるのよ、男の子は冒険が好きなんだよ知らなかったのか、少年漫画的な冒険なら可愛らしいけどさ、何言ってんだよ俺よりスリル好きなくせに、好きじゃないよ好きになっちゃんだよ。

 女性は恥ずかしそうにしながら横を向いて男を軽く叩いた。その時顔を見ることができた。女性は僕が知っている人だった。

 男女問わず皆から人気があって、可愛いランキングは常に上位で、夏までバスケ部のキャプテンだった同じクラスの女の子だ。


 そっか君もこういうことをしていたんだ。自分の中にある欲を満たしたくて扉を開いたんだね。

 本当ならこんなことをしていると知ってショックになるんだけど、びっくりするぐらい僕は冷静で落ち着いていた。僕も年上のお姉さんに愛されているから。人のことをとやかく言う筋合いはないのだ。

 こんなことを皆が知ったらどうなるかな。びっくりするかな、汚いと思うのかな、興味がなくなるのかな、ショックが大きくて泣いてしまうかな。

 明日学校で話しかけてみよう。同じ年上好きとして通じるものがあるかもしれないから、同じ仲間として仲良くしたいから。


「それよりトイレだ」


 僕は何事もなく案内図へと歩くことにした。振り向くともうそこに二人はいなかった。あの場所へとスリルを求めに行ったのだろう。

 案内図の前にやってきた僕はこの公園が意外と広いことがわかった。池があったり、野球やサッカーができる広い場所が幾つかあったり、遊具がある場所も幾つかあったり、ちょっとした食べ物や飲み物を買える売店や自動販売機があったり。あの秘密の場所は描いていなかった。

 トイレは何処だろう。僕は上や右や下や左。色んなところに目を動かす。そして見つけた、ここからそう遠くない場所にあった。

 よし急ごう。走りはしないけどはや歩きで目指す。


 トイレへと向かいながら僕は時間を確認するために、ポケットに入っているスマートフォンを取り出す。その時に小さな紙が一緒に出てきた。こんなの入っていたっけ、入れた覚えはない。

 何だろうこの紙と思いながら見た。するとそこには綺麗な文字と数字とアルファベットが書いてあった。僕はこの文字を見てドキドキしてきた、数字を見てドキドキしてきた、アルファベットを見てドキドキしてきた。

 小さな紙にはこう書かれていた。私のアドレスと電話番号教えてなかったから書いておくね、これでいつでも遥介君と繋がっていられるね。

 サヤカお姉ちゃんありがとう、サヤカお姉ちゃん大好きです、サヤカお姉ちゃんサヤカお姉ちゃん!


 僕は小さな紙を両手で大事に包んだ。この風で飛ばされるわけにはいかない、いや僕のこの気持ちはこんな風程度で飛ばされない。スマートフォンに登録しておこう、そうすれば番号がわからなくなることはない。

 画面が忙しなくなる。早く登録したいから、今すぐ一秒でも早くサヤカお姉ちゃんと繋がりたいから。だから間違った場所を押してしまう、そうじゃないこっちだそうそう。

 メールで何を話そう、声が聞きたくなったら電話してもいいなのかな、ああそれを考えるだけで楽しい。


 そんなことを考えていたらトイレが見えてきた。公園のトイレって汚そうだから嫌だな。でも贅沢は言ってられない状況だ。

 僕が走ろうと思ったその瞬間、視界に二人の姿が入った。だから何故か僕は足を止めた。だってその二人のうち、一人は友達だから。こんな所で何をしているんだろ、休みの日だからお出掛けをしているのだろうけど。

 でも手を繋いでお出掛けするかな、三十代ぐらいの男の人と何故手を繋いでいるんだ。あの人は友達のお父さんではない、じゃあいったい誰なのか。


 友達は楽しそうに笑っている。男の人も楽しそうに笑っている。二人とも笑顔で、手を繋ぎながらトイレに入っていった。

 何だ連れしょんか、てっきり友達も僕と同じような事をしているのかなと思ったよ。僕は年上のお兄さんじゃなくて、年上のお姉さんだけどね。

 例え友達にそんな趣味があったとしても僕は別に嫌わない。明日学校で会ったら今まで通り接する。だってそれが友達の欲なんだから。欲には色んな形があるのだから。

 友達は女子に人気があって、バレンタインのチョコとかも貰えるぐらいだ。スポーツは苦手だけど勉強ができるから、よく教えてよーと女子が教科書とノートを持ってきている。

 そんな女子達が友達の趣味を知ってしまったらどうなるだろう。ショックで泣いてしまうでは済まないかもしれない。だからバレないように頑張ってほしい。

 明日学校で話しかけてみよう。同じ変態として通じるものがあるかもしれないから、同じ仲間として仲良くしたいから。


「急ごう」


 僕はトイレへと向かう。二人が入っていったけどこっちにもこっちの都合があるんだからしょうがない。鉢合わせになったら気まずいかもしれないけど。

 トイレは思ってたより綺麗で明るい。汚くて薄暗いイメージだったけど違った。そしてそんなに広くはないのに二人の姿がなかった。あれ何処に行ったのだろう、ひょっとして見間違いだったのかな。

 僕は何気なく個室の方を見た。すると一番奥の個室が赤色のマークになっていた。どうやら鍵がかかっているみたいだ。

 僕はそれで何となくわかって、みんなみんな変態なんだなとしみじみと思った。

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