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年上のお姉さんとさようならです

「今日はここまでにしよっか」


「えっ」


 その言葉は聞き間違いかなと思った。サヤカお姉ちゃんは僕をこんなにも可愛がってくれている、愛してくれている、まだ僕が見たことも体験したこともないドキドキとわくわくの世界に連れ出してくれると思っていた。

 だからこそ今言った言葉は信じられなかった。ねえどうして、僕何か気にさわるようなことしたかな、それなら謝るから許してほしい。許してくれるなら何でもするからさ。

 僕を見るその表情は可愛くて綺麗でエロい。だから僕のことが嫌になったわけではなさそうだ。それならどうしてこの先のことをしないの? 僕は何も怖がっていないよ、むしろ楽しみなんだよ。

 サヤカお姉ちゃんなら安心できるから、サヤカお姉ちゃんと一緒なら嬉しいから、サヤカお姉ちゃんの愛が僕に伝わってくるから。


「遥介君は今日色んなことを体験したでしょ。サイトでの交流で私のことを気になって、そしてネットから飛び出して実際に会うことになった」


「うん……」


「それで心はどうなったかな? そんなのすぐにわかるよね」


「ドキドキした」


「そう、ドキドキしたよね。いっぱいドキドキしたよね。だから体に物凄く負担かかったんじゃないかな」


「……そんなの若いから大丈夫です。僕はもっとサヤカお姉ちゃんに愛されたいです!」


「そんな大きな声を出すとここにいる事が誰かにバレちゃうよ。こんな姿誰かに見られたくないしね」


「うー……ごめんなさい」


「ふふふ、シュンとなってる遥介君も可愛いね。さっきの切ない表情のほうが好きだけど」


「あ、ありがとうございます。嬉しいです誉めてくれて」


 胸の辺りがドキドキしている。サヤカお姉ちゃんの言う通り、ここを休ませてあげないといけない。だからちゃんと言うことを聞こう。逆らうのはよくないことだ、反論するのはよくないことだ、もっと欲しかったから欲張ってしまった。

 サヤカお姉ちゃんは僕のことを思ってやめてくれた。相手のことを気遣えるなんて大人だ、僕はそれがあまりできていない気がするからまだまだ子供だ。

 自分の欲を押し付けてばかりなのは良くない。でもすぐに欲しくなってくる。こういう時はどうすればいいのかな、ただひたすら我慢するしかないのかな。


「もうこんな時間。私このあと用事あるんだよね」


「えっ」


 その言葉は聞き間違いかなと思った。サヤカお姉ちゃんは僕をこんなにも可愛がってくれている、愛してくれている、まだ僕が見たことも体験したこともないドキドキとわくわくの世界に連れ出してくれると思っていた。

 だからこそ今言った言葉は信じられなかった。まだ離れたくないよ、まだ帰りたくないよ、さようならは何だか寂しいよ。

 サヤカお姉ちゃんがいないと僕は不安だ、サヤカお姉ちゃんに心を奪われていないと辛い、サヤカお姉ちゃんのその優しい手で僕を触ってくれないと苦しい。


 僕は悲しくなってきた。もう二度と会えないんじゃないかという不安でいっぱいになった。だからまだ一緒にいたい、まだサヤカお姉ちゃんの熱を感じていたい。

 そう思っていたらサヤカお姉ちゃんの手が僕の目の辺りを優しく触れた。よしよしと頭も撫でてくれている。柔らかな感触が僕の心を落ち着かせる。

 サヤカお姉ちゃんに包まれているととても安心する。守ってくれているみたいで安心するのかな。本当はその役目は僕の役目なのかな。


「泣かなくてもいいよ。また会えるから、サイトで交流もできるから寂しくないでしょ」


「本当にまた会えますか?」


「その顔良いね。潤んでいる瞳で切ない顔をして、私に甘えているその可愛い顔」


「何でもしますからまだ一緒にいたいです」


「もう遥介君は私に虜ね。私には見えるよ、遥介君の首に付いているソレが」


 サヤカお姉ちゃんが僕の首を優しく触る。くすぐったい、でもそれが嬉しいことで幸せなことだからもっとしてほしい。


「サヤカお姉ちゃん大好きです」


「私も遥介君のことが好きだよ。私の欲望をちゃんと満たしてくれそうだからね」


「えへへ、サヤカお姉ちゃんに好きって言われた! 嬉しいなあ僕は幸せものだなあ」


「真っ白だったものを黒に染めるのは楽しそう。でもそれは次回ね、今日はこれでいい」


「えへへ、えへへ、えへへ」


「ゾクゾクする、遥介君をどう私好みにしていくのかを考えるだけで。うふふ、ホントに私って変態」


 サヤカお姉ちゃんは僕のほっぺたを触りながら言った、言うことを聞かない子は好きじゃないなと。僕はその時ハッとして、言うことを聞いていないことに気が付いた。

 ごめんなさい、僕は謝った。また身勝手に僕の欲を押し付けてしまった、サヤカお姉ちゃんとまださようならしたくないからわがままを言ってしまった。

 いいのよ、じゃあ帰る準備をしましょうか。サヤカお姉ちゃんは優しくそう言って僕のわがままをすんなり許してくれた。

 僕は涙を拭って、うんと元気よく頷いた。


 帰る準備をしながら今日のことを思い返していた。

 そこにはサヤカお姉ちゃんがいて、緊張している僕がいて、どっからどう見ても兄弟のようにしか見えないけど実は出会い系サイトで出会った二人。

 二人にはそれぞれ好があった。僕は年上のお姉さんが好きで、サヤカお姉ちゃんは年下の男の子が好き。だから二人が出会ったのは、出会うべくして出会ったのだろうと思えてきた。

 二人は次第に仲良くなっていた、好きという感情を押さえることはできなかった、だから愛を互いにあげることにした。それは二人が望んでいるものだった、だから後ろめたさなんて何もない罪悪感もモチロンない、ただ好きだから大好きだからこうなったのだ。

 僕はそうして新しい世界へと足を踏み入れた。新参者の僕にはわからないことだらけだから、サヤカお姉ちゃんに教えてもらったりお任せしたりする。そうやって少しずつこの世界のことを知っていけば良い。

 それを知らないからって恥なんかじゃない。誰もが皆初めからこの世界を知っているわけではない。だから大丈夫、焦ることなんて一つもない。


 帰る準備が終わってサヤカお姉ちゃんはこの場所から出ていく。僕はここであった出来事を胸にそっと置いて後に続いた。

 もうさようならだ、寂しいな悲しいな不安だな。また会ってくれるかな、会ってくれなきゃ辛いよ苦しいよ。僕はサヤカお姉ちゃんが好きだ、大好きだ。この手を離したくないよ。

 サヤカお姉ちゃんの手はあたたかくて柔らかい。手を繋ぐことよりももっと凄いことをしたのに、ドキドキが止まらないのは何故だろう。わからないよそんなの、ていうか考えている余裕なんてないよ。


「今日は会ってくれてありがとう、楽しかったよ」


「僕も……楽しかったです」


「そのわりには元気がないね、ちょっと疲れたかな?」


「だってもうさようならだから……」


「いつでも会えるよ、だからそんなに寂しがらない」


「でも……でも……」


「でもじゃない、私の言うことは何でも聞くんでしょ?」


「……はい」


「遥介君とさようならするのは私も辛いのよ、だからその寂しさは二人だけのものなのよ」


「二人だけのもの?」


「私と遥介君二人のもの。寂しさだけじゃない、愛をお互いにあげたことも二人だけのもの」


「うん」


「じゃあまた会いましょうね、それまで私の言うことを聞いておくように」


「わかりました」


「うふふ、遥介君大好き」


 サヤカお姉ちゃんの口が僕へと近づいてきた。腰のあたりに手を付けながら、僕を安心させるためにしてくれている。

 そして口が僕から離れて、頭を優しく撫でられて、サヤカお姉ちゃんは歩いていった。後ろから足音が聞こえている。

 僕は急いで振り向いた。サヤカお姉ちゃんの顔は見えないけど後ろ姿は見ることができた。今ここでもう一度顔を見たら、手を掴んで絶対に離さないだろう。だから顔を見ないほうがいい、後ろ姿でいい。


 だんだん遠くになっていくサヤカお姉ちゃん、だんだん小さくなっていくサヤカお姉ちゃん。僕は見えなくなるまでここを動かない。

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