年上のお姉さんから愛を貰います
目を閉じていると何をされるのかわからないから怖い、でもそれが興奮となって僕の体と心に電流を走らせる。ゾクゾクするというか、イケナイことをしているという罪悪感というか。
いやこれはイケナイことじゃない。誰もがすることだ、みんなみんな変態なんだから。この世は変態だらけだ、変態しかいないんだ、変態で出来ているんだ。
姿は見えないけど目の前にはサヤカお姉ちゃんがいる。どんな表情をしているのかな、僕を見るときのその表情はとても優しくてとても妖しいけど。僕を大切に扱いたいけどその反面壊してしまいたいという思いもあるはず。
壊すっていうのは心を壊すってわけではない。綺麗なものを汚すとか、白の中に黒を塗るとか、一度入ってしまうと帰ってこられない世界へと連れていこうって意味だ。
その世界にはまだ僕が見たことも体験したこともない世界が果てしなく広がっているはず。そこで求めるものはきりがない、手に入れたと思ったらすぐに消えてしまう。だから次々に求め続けなければならない。
それで満たされるとどんな気持ちになるのだろう。満たされても満たされても、より良いものを求める旅へと出掛けて、そこで見える景色とはいったいどんなものだろう。
サヤカお姉ちゃんの良いにおいが僕を刺激する。体も心も頭の中もぜんぶぜんぶ。
僕はサヤカお姉ちゃんに支配されている、僕はサヤカお姉ちゃんの物なんだ、僕はサヤカお姉ちゃんを喜ばすための――――。
「遥介君は何でそんなに熱くなっているの?」
耳元で聞こえるサヤカお姉ちゃんの声は少しこしょばい。
「だって……何をされるのかわからないし……」
僕は扉にそっと手を当てている。新しい世界を冒険するため開くんだ。
「そんなのいちいち言わなくてもわかるでしよ?」
サヤカお姉ちゃんの声が僕にまとわりつく。体に触られることなくドキドキする。
「はい、わかります。だからドキドキしています」
僕はなんて変態なんだ。自分でもびっくりしてきた。僕がこうなったのは全部サヤカお姉ちゃんのおかげ。
「ふふふ、こんなに変態になっちゃって遥介君悪い子ね」
サヤカお姉ちゃんの声が僕に絡み付く。体と心にくねくねと蛇のように絡み付いて、身動きをとれないように自由を奪われる。
「ごめんなさい、僕は悪い子です、許してください」
ほっぺたに感じる優しさ、手に感じる優しさ、胸元に感じる優しさ。その優しさは僕を新しい世界へと連れていく準備段階。
「ホンとにね。こんなに可愛い子が、こんなに悪い子だなんて信じられない」
世の中には信じられないことなんて無限にある。僕がこんなことをしているなんて誰も信じないだろう。でもこれが僕なんだ、信じられないだろうけど僕の本当の姿はこうなんだ。
「どうすればこの悪は許されますか? 許されるなら僕は何でもします。言うこと聞きます、断りません、そうして素直な良い子になります」
ゾクゾクする。僕の中の何かがあちこちでパチパチと弾けていく。それに興奮している、それがもっと欲しいと思えてくる、これが快感というやつなのかな。
「それもわかっているよね、遥介君は賢いからさ。自分は何をしたいの、何を求めているの、心の中にあるその欲を我慢せずに出しなさい」
扉に両手を付けて力を入れた。思っていたより重いけど頑張れば開くことができる。僕は振り向いたりしない、ただこれだけは言っておく、今までの僕さようなら。
「サヤカお姉ちゃん……僕は、もう……」
扉が少しずつ開いている、眩しい光が射し込んでくる、その光の中にサヤカお姉ちゃんがいた。僕のことを待っている、笑顔で待っている。
「遥介君可愛いね、そんな表情されたらこっちも我慢できないよ」
扉が完全に開いた。僕は迷わずに新しい世界へと飛び込んだ。僕の中の天使と悪魔はもう出てこない、この選択が正しいか間違っているかなんて、誰かが決めることじゃないから。
僕は僕がやりたいことをするだけだ、僕は僕だから僕にその権利はある。誰にもその邪魔はできない、邪魔なんてしたら許さない。僕のことは僕が決める。
後から扉が閉まった音が聞こえてきた。もう引き返すことなんてできない、元に戻すことなんてできない、あの日あの時の僕にはもう帰れない。
そんなの別に気にしない、だって引き返すことも元に戻すこともあの日あの時に帰ることも考えていないから。僕は自分の意思で新しい世界へと来た、僕は自分でこの選択をした、誰にも邪魔されずに心が動いた。
だからこそ思うことがある。ここに来て良かったと、ここに来ることができて嬉しいと、ここで僕は欲に満たされていくんだと思うと興奮すると。
サヤカお姉ちゃんに出会えて良かった。サヤカお姉ちゃんがいたから僕は変われた、こっちに来ることができた。嬉しい、とても嬉しい、この感謝をどうにかして返したい。そのためにはサヤカお姉ちゃんの要求を何でも受け入れる。
僕にはそれしかできないから……いやそれをされたいから。
体がふわふわしている。まるで夢の中にいるみたいだ。ここが現実なのかそうじゃないのかよくわからなくなってくる。
何だかとても暖かい、春のあの眠くなりそうな感じに似ている。このぽかぽかとした太陽の光は気持ちが良い、僕を癒してくれるし優しくされているような感じがする。
ずっとここにいたい、ここから離れたくはない、今までここのことを知らなかったのが勿体ない。
「遥介君のこと好き」
「僕も……僕も好きです」
「ありがとう、嬉しいな」
「僕も嬉しいです……幸せです」
「皆にちゃんと紹介しなくちゃね、私の彼氏の遥介君ですって」
「うー、恥ずかしい」
「顔が赤いよ、照れなくていいよ。可愛いなあ」
「可愛いのはサヤカお姉ちゃんですよ」
「私の顔見えていないのはそろそろ辛そうね。何も見えないのは怖いもんね」
「はい、開けていいんですか?」
「いいよ」
ドキドキしながら、暖かい優しさに包まれながら、僕は目を開いた。
すると目の前にはサヤカお姉ちゃんがいて、僕は顔を見ることができて嬉しくてしょうがなくなった。
この思いは僕の中に留めておくことはできなかった。溢れ続けているから、溢れるぐらいそれは多いんだ。だから早くこの思いをサヤカお姉ちゃんに受け取ってもらいたい、そうしないとどうにかなってしまいそうだ。
「サヤカお姉ちゃんをみることができて嬉しい」
「目を閉じていたのは少しの間でしょ、それまではずっと見てたじゃない」
「寂しかったです、少しの間でも顔見えなかったから」
「そんなに見たかったの? じゃあ近くでじっくり見てよ」
「はい」
僕はまたサヤカお姉ちゃんの優しさに包まれる。さっきとは違うけどこれも嬉しい、優しさには色々あるだなと実感する。優しさが愛というやつなんだと実感している。
僕は愛されている。誰かに愛されているのはとても嬉しくてとても幸せだ。僕が愛されることによって、相手にも愛をあげているんだなと思うと役に立っているような感じがする。
愛して愛されて愛し合うのはとても良いことだね。僕は愛に満たされているからそれがよりよくわかる。
ここが公園だと忘れてしまいそうになるほど、僕はサヤカお姉ちゃんしか見えていない。サヤカお姉ちゃんだけいればそれでいい、サヤカお姉ちゃんが愛をくれるから、僕もサヤカお姉ちゃんに愛をあげるから。
この時間がもっともっと続いて欲しい。できれば終わりなんてなくて永遠に。そうしていればずっとずっとサヤカお姉ちゃんの愛を貰える。それを想像するだけでドキドキが止まらない。
もう何もいらない、僕はサヤカお姉ちゃんがいればそれでいい。大好きです、愛しています、もっと僕に愛をください。