年上のお姉さんに今から会います
夏の暑さがもうスッカリどこかに消えてしまった秋の夜、木の葉が赤みがかっていることに気づいたのはついさっきだ。
待ち合わせの公園のベンチに座っているけど約束の時間まで暇で、なんとなく目に入った木を見てそう思った。
どうして秋になると葉っぱは赤くなるの?
僕は色んな考えを頭のなかに出していく。しかし色んな考えは緊張のせいなのかどんどん消えていく。
一つだけ残った考え、それは寒さでほっぺたが赤くなるのと同じ感じかなっていうことだった。
きっと本当の理由はそんな可愛らしいものではないだろうけど。そう思っていたほうがなんとなく良い、夢があるっていうか。
行き交う人達の白い息が季節の変化を実感させる。服装は半袖から長袖に変わって、あんなに長かった一年もあと少しかと思っていたり、今からクリスマスの予定をしっかり押さえて二人のパーティーを楽しもうと計画しているリア充がそこら辺にいる。
今思ったんだけどそんな奴等ばっかりのような気がする。何あの楽しそうな顔、視界に入ると何だかイライラしてくる。別に羨ましいからとかじゃない、人前で抱き合ったりキスしたりそんなのは家でやれって思う。
そう思うのはやっぱり羨ましいのからなのかな。だから何だかドキドキしているのかもしれない。誰か知らない人のハグやキスを見て興奮しているなんて変態なんじゃないかと恥ずかしくなってくる。
でもそれも今日までかもしれない。そうやって頭の中に色んな妄想というものを描いていくのは。だって僕は出会い系サイトで、年上のお姉さんと出会うことができたのだから。
僕は年上のお姉さんにしか興奮しない。同級生なんてまだまだ子どもだ、胸もお尻も全然エロくないし立ち居振舞いやしゃべり方も全然大人じゃない。
例えそれらが当てはまっていたとしても、年上のお姉さんじゃないから論外だ。全く興味が出ないし、相手にもしたくない。そりゃ話しかけてきたらそれなりの対応はするけど。
その出会い系サイトで知り合ったお姉さんと今日初めて会う。だからドキドキしている、決してそこらへんにいるリア充のハグやキスを見て興奮しているわけではない。
お姉さんはサヤカさんという名前だ。僕とサイトでやりとりをしている時はサヤカとずっも片仮名表示だったから、いったいどんな漢字なのかはわからない。それを考えている時は少し自分が気持ち悪いと思った。
いくら年上のお姉さんが好きでも、ネット上でのやりとりだけで会ったこともないないのに、そこまで考えるのはやりすぎなのかなって。
本当は夏休み中に会いたかったけどそれができなかった。僕は中学生で、しかも三年生で、受験生だから。夏期講習という名の地獄が夏休みを埋め尽くしてしまった。
もう毎日毎日勉強勉強、朝が来るのが憂鬱で頭が痛くなったり吐きそうになったりした。また今日も長い一日が始まるのかと、はぁとため息が出まくる。
そんな時サイトを確認すると、サヤカさんからメッセージが来ているのだ。
今日もお仕事行ってらっしゃい! 私もこれから仕事、この暑さにやられないように気をつけるよ。
僕は一気に元気になった。精神的にも肉体的にも。年上のお姉さんの言葉はどんなことでも色っぽく見えてしまう。とくに最後らへんの文字がもうそれにしか見えてこない。
そうして僕は地獄へと向かうのだ。皆の足取りは重くて重くてしょうがないだろうけど、僕はとっても軽くて空を飛んでしまいそうな勢い。
空を飛べたらサヤカさんを何処へでも連れていける。誰にも邪魔されない二人だけの秘密の場所へと飛んでいける。そこで僕は何をする、何をされる?
そんなのサヤカさんに優しくされたいに決まってるじゃないか、それ以外に何があるっていうんだ。僕は年上のお姉さんと色んなことをしたいんだ! 色んなことをされたいんだ!
まだ顔も見たことがない相手にここまで妄想できる自分が恐ろしくなってくる。でもこれが僕という人間だからしょうがない。皆もきっとあるはずだよ、誰にも言いたくないしバレたくないことは。
因みに年上のお姉さんが好きということは別に誰かに知られてもいい。だっておかしなことではないから。誰が誰を好きになろうが良いじゃない、年上でも同い年でも年下でもさ。
ああ、早く会いたいな。サヤカさんは自分のことを、そんなに可愛くないよと言っていたけどそんなの絶対に嘘だ。下げてから上げる作戦にしか思えない。
どんな顔だろうな、可愛い感じなのか大人な感じなのか。体型はどんなんだろうな、痩せてるのかそうじゃないのか。胸はどれぐらいの大きさなのかな、小さいのか大きいのか。
僕は年上のお姉さんのことは好きだけど、誰でもいいってわけじゃない。僕にだって好みはある。何だか偉そうな気がするけど好みじゃない年上のお姉さんに、頭の中に思い描いている欲望を満たしてもらおうなんて思わない。
だからサヤカさんは好みであってほしい。そうじゃないと出会い系サイトを使った意味がなくなってしまう。地獄へと向かう前に見ると元気が出たあのメッセージも意味がなくなってしまう。いやそれは意味があったね、地獄で頑張れたから。
とにかく早く顔を見たい。まだかなまだかな、年上のお姉さんサヤカさんはまだかな。焦らせているみたいでとても辛い、これもサヤカさんのテクニックだったりするのかな。大人ってスゴい。
僕は辺りを見回してみた。相変わらずそこら辺にはリア充達がバカみたいに愛し合っている。だからそれは家かホテルでやってくれと思う。日本人はシャイではなかったのか、いつからそんな大胆になったんだ。
そういえばサヤカさんは、目立つように真っ赤な服を着てくるねと言っていたっけ。でもその目立つはずの真っ赤な服を着ている人はいがいと多いのですが。この中にサヤカさんはいるのかな。
サヤカさん! サヤカさん! 呼べば来てくれないかな。サイトは今メンテナンス中だから使えなくて、メールアドレスとかも知らないから探すしかない。
胸の辺りは物凄くドキドキしている。それは興奮しているから、早く会いたいから、優しくされたいから、そのどれもが僕の中で一斉に駆け回っているからだ。
友達にはこんな事をしているやつはいないだろう、他のクラスのやつにもいない、きっとこんな事をしているのは僕だけだ。だから自分が偉くなったような気がしてきた。出会い系は危ない場所だけど、そうとわかってそれでも自分から向かっていくのだから。
でもこんな事をしているのが、もし親にバレたら怒られるだろうな。お前は何をやっているんだと、事件に巻き込まれたらどうするんだと、恥ずかしくて外も歩けないじゃないかと。
そうはなりたくないけど、年上のお姉さんを求めてしまう衝動は押さえられない。心と体が欲しているんだよ、早くどうにかしないとダメになってしまう、そうもなりたくはない。
危ないことをされそうになったらどうしよう。ていうか危ないことって何? 真っ白な薬だとか、誰かを殺めるとか、そんな事なら関わりたくないけどそうじゃなかったら……。
余計なことは考えずにサヤカさんを探そう。余計なことはそのあとでも考えられる。まず出会わなければ、真っ赤な服を見付けなければ。
僕は真っ赤な服を着ている女性を一人一人確認していった。この人は違う、この人も違う、この人は絶対に違う、あっちにいる人はサヤカさんかなと思ったけど違った。なかなか見付けられない。
ひょっとしてここには来ていないのかな。サヤカさんからのメッセージには、楽しみにしているねと書かれてあった。だからここには来ていると思う。
ねえサヤカさん、何処にいるのる? いたら返事してよ。もう一人寂しくこの場所にいるのは耐えられない。ここにはリア充が何故か多いからさ、そんな中に僕は一人だから場違いな気もしてきたしさ。
そう思いながら僕はふと横を見た。するとそこには真っ赤な服を着ている女性がいた。
余計なことは考えずにサヤカさんを探そう。余計なことはそのあとでも考えられる。まず出会わなければ、真っ赤な服を見付けなければ。
僕は真っ赤な服を着ている女性を一人一人確認していった。この人は違う、この人も違う、この人は絶対に違う、あっちにいる人はサヤカさんかなと思ったけど違った。なかなか見付けられない。
ひょっとしてここには来ていないのかな。サヤカさんからのメッセージには、楽しみにしているねと書かれてあった。だからここには来ていると思う。
ねえサヤカさん、何処にいるのる? いたら返事してよ。もう一人寂しくこの場所にいるのは耐えられない。ここにはリア充が何故か多いからさ、そんな中に僕は一人だから場違いな気もしてきたしさ。
そう思いながら僕はふと横を見た。するとそこには真っ赤な服を着ている女性がいた。
赤いワンピースに、茶色のコートを着ているお姉さんがいた。
サヤカさんだ! 僕はすぐにわかった。キラキラしているからわかったのかな、それとも好みの顔だったから。
僕はサヤカさんであろうお姉さんの側へと近づく。近くで見るとより可愛くて綺麗だった。早く声をかけたい、でも違ったらどうしよう、僕とは関係ない人と待ち合わせしているだけだったらどうしよう。
風がびゅーっと吹いて、どこかで空き缶がコロコロと転がる音が聞こえた。
そんなことを考えていても意味ないね。違っていたらスミマセン人違いでしたって言えばいいんだよ。
僕は一息入れて、そして真っ赤な服を着ている年上のお姉さんに話しかけた。
「あの……サヤカさんですか?」