5:ランディア神竜国(バルド+アレン視点)
シルヴィアちゃんがこちらに来る少し前のバルドさんです。
昔々あるところに、いくつもの国々に別れた土地がありました。
それぞれの国が互いに争うせいで、民は食べ物や住む場所さえも満足に与えられず、悲しみに暮れていました。
ある時、そのことに哀れみをいだいた1人の王女が、森の深くに住む『力ある者』に助けを乞いに行きました。
『力ある者』は、人々から『黒の魔物』と恐れられたり、『古の賢竜』と敬われることのある黒竜でした。
黒竜は、最初は只の小娘と侮り相手にしませんでしたが、何度も訪れては真摯に頼むその姿に心奪われ、遂にはその王女を愛するようになっていました。
黒竜は、王女が自分の妻となるならば助けてやると言い、王女はそれを承諾しました。
それから、黒竜は次々と他国を制圧して一つの国にし、その国の王となりました。
その頃には、王女も黒竜を愛するようになり、二人は幸せに暮らすようになりました。
・・・しかし、その事をよく思わない女がおりました。
彼女は黒竜を深く、とても深く愛していました。
しかし、黒竜は王女と恋に落ち、結ばれてしまいました。
一旦は黒竜の幸せを思い身を引きましたが、激しく燃える嫉妬の炎に耐えきれず、とうとう罪を犯してしまいました。
最後には、黒竜と『賢者』、『深淵の魔女』の3人によって封印されましたが、3人ともそれぞれ呪いをかけられてしまいました。
黒竜は、その呪いのせいで人と同じ寿命になってしまいましたが、その生涯にわたって国を守り、発展させ続けました。
そして、王妃となった王女との間に何人も子をもうけ、その内の最も優秀な子に対してだけ光輝くペンダントを渡しました。
以後、その国はペンダントを光らせる者を王として即位させ、民も幸せに暮らせるようになり、とても発展していきました。
その国の名は、『ランディア神竜国』。
初代国王と王妃の名から名付けられたのだそうです。
―――――――――
歴史書にはこれしか書かれていなかったが、地元に残っている昔話から、黒竜達に封印された女のことを『狂愛の魔女』と呼んでいたことや、王妃が金髪碧眼の絶世の美女だったということ(どうでもいい)などが分かった。
しかし、物語の所々に違和感を感じる。
なぜ『嫉妬の魔女』ではないのか。
魔女の犯した罪とは何なのか。
『賢者』と『深淵の魔女』はどうなったのか。
そもそもこの歴史書に書かれていることは事実なのか。
非常に研究しがいのある歴史書である。
・・・これならば、我が人生を掛けて研究してもいいかもしれない。
―――――――――(リデル皇国研究所所長・マリアルの日記より)
ピピ・・・ピーチクチク・・・
んぁ、朝になったのか?・・・眠い。
ピーピーピーピー・・・ピピー!!
なんだ?うるせぇなぁ、後1分寝させ・・・
・・・コツコツコツコツコツコツコツコツ
「痛ぇぇぇぇ!?何だよ!起きたから止めろよ!おい、聞いてんのか!」
コツコツコツコツコツコツコツコツ
「分かった!分かったから!ちゃんと話聞くから!!(涙目)」
悲鳴を上げながらベットから起き上がる熊男もといバルド・リギンディア。彼の傍らには、ついさっきまで彼の額を嘴で連打していた小鳥がいて、その円らな瞳で彼を見つめて(睨んで)いた。
この小鳥は、只の鳥ではない。聞いたものをそのまま再生することができる便利な連絡係、リルティンという魔物だ。
バルドがリルティンに特殊な餌を与えると、リルティンは大きく口を開けて喉を震わせた。そして、そこから聞こえてきた内容にバルドは目を見開いた。
『親父、緊急の連絡だ。ランディア神竜国が壊滅した。・・・いや、氷に覆われた、が正しいか。昨日の夜、国境付近に氷の壁が発生し、ランディア神竜国にいる者達との連絡も途絶えた。飛竜に様子を見に行かせたが、ほとんどが戻ってこなかった。唯一戻ってきた竜は極度の恐怖で発狂していて、うわ言で《魔女・・・解かれ・・・闇があああ》ということを言っていた。その他のうわ言からも検証した結果、歴史学者達は《狂愛の魔女》の封印が解かれたのではないか、と言っていた。それが事実だとすると、非常に厄介なことになる。黒竜はすでに他界しているし、《賢者》や《深淵の魔女》もどこにいるか把握していない。
・・・取り敢えず国の方で割ける軍を全てランディアとの国境に当ててはいるが、何が起こるか分からない今では何の解決にもならない。
まぁ、つまりはいざとなったときのために逃げる、もしくは戦う準備をしといてくれ、ということだ。
あぁ、もしランディア神竜国について知っていることがあったらこのリルティンに録音してくれ。幸い、後4日ほど借りることができるから、それまでに帰してもらえるとありがたい。
では、母さんにも宜しく言っといてくれ。《録音終了》』
暫く微動だにしなかったが、ようやく再起動したバルドは、その厳つい顔を険しくしながら書庫に駆けようとし、その背に大量の何が勢いよくぶつかってきたのを感じた。
条件反射で振り向くと、十数匹の妖精達がへばりついてきた。急いでひっぺがすと、バルドにむかって必死に何かを喋り出した。しかし、妖精の声は魔力でできていて、バルドは魔力を音として認識するタイプではないので、何を言っているのかさっぱり分からない。
バルドが身ぶり手振りを使ってその事を伝えると、妖精達はバルドの家に入り毛布を引っ張ってきて、バルドに持たせ、一番偉い妖精がバルドについてくるように示して飛んでいった。
「ランディア国といい、妖精達といい、今日はいったい何なんだ?」
ひとり悪態をついていると、先程の妖精が戻ってきて、妖精とは思えないほどの力――おそらく魔力を使った模様――でバルドを引っ張って、森の中に消えていった。
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白い塗り壁に囲まれた頑強な城の一角に、1人の男がいた。そこは執務室のようだが、異常な量の書類が所狭しと積み上げられている。そして、先程の男は執務室にいるにしては些か似つかわしくない格好、つまりは鎧に身を固めて、頭を抱えていた。
身長は約180cmで、いわゆる細マッチョとよばれる引き締まった体をしている。亜麻色の髪は緩くウェーブして顔にかかっていて、これまたどこの王子様かと叫んでしまいそうな整った顔立ちをしている。が、父親に似ているのはその鳶色の瞳だけであるというのは、本人も含めて多くの人々の共通認識である。
そう、彼の名はアレン・リギンディア。正真正銘バルドの息子である。その点についてはバルドとミレディの熱愛っぷりを見れば疑いようがないため、そういった噂はほとんど出ない。
それはともかく、彼は今次々と投げ込まれる書類の束に頭を悩ませていた。
それらの多くは、ランディア神竜国についての真偽を問うものだったが、魔物や盗賊の討伐依頼や自然災害への対応、果ては誰かへの見合い話とかいうくだらない物まで混じってる。こうした書類が部屋の8割を埋め尽くしているのだから、これらに一人で対応させるのは最早虐待である。
軍に属している者の中で、書類を扱える人間が彼しかいないために起きた(彼にとっての)悲劇であった。
ちなみに、彼以外に書類の扱いができる者達は皆、一番若い彼に全てを押し付けてどこかしらの戦場で戦っている。
アレンは先輩への呪いの言葉を吐きながら、ノロノロと書類に向かって動き出した。
すると、聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。
「・・・リルティンか?」
いつの間にか開いていた窓に、小首を傾げたリルティンが止まっていた。それは、ちょうど4日前にバルドへ送ったリルティンだった。
「チッ、ギリギリに返しやがって。それ相応の情報が入ってるんだろうな」
バルドに似た調子で悪態をついたが、腕に乗せたリルティンから聞こえてきたのは、予想以上どころか範囲外の言葉だった。
『先日、ランディア神竜国の第二王女を保護した。詳細は追って連絡する《録音終了》』
「・・・は?」
後には、驚愕のあまりフリーズしているイケメン近衛騎士1名と多数の書類だけが残されていた。
シルヴィアちゃんの正体がわかるなんて言った人は誰なんでしょうね(;゜∀゜)
次回こそは!!