4:地味チートキター(いや、可能性は大きいはずだ!)
明るい光が満ちている、そんな夢。
これはきっと、私が来る前の記憶だ。
唐突に浮かんだそれは、深く考える必要が無いくらいスッと頭に入っていった。
『おはよう、○○○。今日は何の日か知ってるかい?』
暖くて力強い、全てを慈しむかのような声が聞こえる。はっきりとは見えないが、体格からして『彼女』の父親だろう。
『んふふっ、今日はね・・・私の誕生日!』
楽しげに返す、鈴のような可愛らしい声。少し幼いが、私が『こちら』に来てからずっと耳にしている『彼女』の声だ。
『正解よ!私の愛しい○○○、お誕生日おめでとう!』
そう言って私を抱きしめた人は、母親のようだ。
言動が少しぎこちないが、『彼女』に対してはいつもそうなので、特に気には止めなかった。
『おめでとう、○○○!プレゼントは皆で用意したんだよ』
母親から降ろされた『彼女』の後ろから、青年の声が聞こえた。そちらに駆けていくと、『彼女』の兄と姉のような人がいた。姉の方が『彼女』に近づいていく。
『○○○、この箱を開けてごらん?』
そう言って、姉は『彼女』の頭をなでながら綺麗な装飾をされた小さな箱を手渡した。
『彼女』は、その箱を小さな手でペタペタと触って堪能した後に、そっと蓋を開けた。
箱の中にあったのは――――
「・・・・・・んぅ?」
「おい、目が覚めたか?」
心配そうなバルドさんの声が聞こえる。
目を開くと二つのシルエット、たぶんバルドさんとミレディさんの姿が入ってきた。
体を動かそうとしたらまったく力が入らず、激しい頭痛がした。
思わず呻き声をあげたが、思考を纏めるために痛みを意識の外に追いやる。
・・・頑張った末に、竪琴をひいてたらぶっ倒れた、ということは思い出したが、こんなことになった原因がよく分からない。
すると、ミレディさんが私の疑問を察してくれたのか、私が倒れた後のことを丁寧に語ってくれた。
それによると、私は体内魔力の不足によって意識を失ったらしい。正式名は『魔力欠乏性失神』。まんまだな。
・・・てか、いつの間に魔力使ったの!?え、もしかして私の魔法の才能が開花しちゃった的な?ついに私の時代がキタな!ヤッホー!!
気分と体の状態が正反対な私が、魔法についての説明を必死に目で訴えかけると、今度はバルドさんが気付いてくれた。
バルドさんは一旦私の視界から外れ、再び戻ってくると、竪琴のようなモノを持ってきた。
それは一応原型は留めているものの、竪琴と呼んでいいのか分からないくらい芸術的なものになっていた。
クリスタルのようなもので出来ていて、月の女神っぽいのと、狩人っぽいのが上下に彫られていた。一番凄いのは、不思議な光(あえて例えるならオーロラみたいな)が回りから溢れていることだ。なんだコレ?
すると、バルドさんが驚くべきことを言った。
「これは、お前が倒れる前に使っていた木の竪琴だ」
ナ、ナンデスト?
私が口を開けて呆然としていると、何故かバルドさんがドヤ顔をしながら説明し始めた。
「前に魔法の才能が無いと言ったが、あれは攻撃魔法に関してだった。だが、お前には付与魔法の才能があるらしい。しかも、今までの付与魔法や錬金術の歴史を変えかねないほど異質なものだ」
ここで、ミレディさんが補足説明。
「付与魔法というのは、魔法によってある物体に特定の効果や性能を追加させるものなの。例えば、只の石を魔力を流すと光る石にしたり、剣を錆びにくくしたり。と言っても、物質によって魔法の影響が出やすいのとそうでないのかあるから、大きい魔法を付与することは凄く難しくて、あまり一般的な魔法ではないわ。それに、あくまで『付与』するのであって、物質自体を別のものに変化させたり、『無』から新しく創りだすことはできないの。錬金術は学問の名前で、物質の性質や、構造を研究するだけで、魔法は全く使わないわ。彼らの信念は、『魔法を使わずに石から金を創る』だそうよ」
また、バルドさんに戻る。
「そしてシルヴィ、お前の付与魔法は『物質そのものを全く別のものに変化させる』ことができるんだ」
・・・のわー!?(色々と理解が追い付いていない)
つ、つまり私が、あの竪琴を常識はずれな付与魔法で変化させたと。そういうこと?
「そういうことだ」
また、バルドさんが謎のドヤ顔を浮かべて言った。
凄い!凄いけど!!
・・・なんて地味なんだ!!
攻撃魔法がダメなら、召喚魔法とか防御魔法とか(攻撃魔法の類ダソウデス)いけるかなーとか思ってたのに!なぜ付与魔法!?
しかも一回使っただけで魔力切れを起こしてぶっ倒れるし。効率悪くね?
「無詠唱だったり、はっきりとした指示を言葉で表さなかったりすると、魔力消費が通常の5~7倍になるのよ。さらに、イメージが曖昧だったりすると10~12倍になることもあるのわ。魔力消費が保有量を上回ると、生命力が奪われて最悪死に至るから、絶対に今日のようなことはしないのよ!」
ミレディさんに答えてもらったけど、ついでに釘を刺されてしまった。また死ぬのは御免だけどね。
「だ・か・ら、今日と明日は絶対にベットから出ちゃダメよ!!」
そ、それは嫌だ!暇すぎて死んじゃう!
・・・それに、また悪夢を見るかもしれない。
しかし、私が涙目で懇願したにも関わらず、2日間ベットでゴロゴロすることになってしまった。
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「はぁ・・・」
ただいま二日目の朝です。
結局悪夢が怖くて眠れませんでした。しかも暇。
前世では、寝ることが音楽の次くらいに好きだったのに、寝られないとか拷問だ拷問!!
私が、何度目か分からない溜め息をつくと、ベットの側の窓から何かが高速で私に突っ込んできた。
慌てて受け止めると、赤く光ったり青く光ったりしながら、涙目のフィリアちゃんが仁王立ちしていた。
「なんであたしがいないときに限って、危なっかしいことをするのよ!あたし凄く心配したんだから!!」
フィリアちゃんは早口で捲し立てると、私の顔を覗き込んで心配そうな顔をした。
「・・・もしかして、悪夢のせいで眠れなかった?」
私が頷いて答えると、フィリアちゃんは来たときの2倍くらいの速さで飛び出して、3秒で戻ってきた。息切れしてフラフラだったけど、両腕に金の鎖がかかってて、その20センチ下ぐらいで青い宝石が淡く輝いていた。縦3センチ横2センチの楕円形で、ドラゴンのようなものが彫られていた。そして、あの竪琴と同じ虹色の光が回りに漂っていた。
これは・・・私が唯一持っていたペンダント?
「保有魔力が少なかったから、あたしが補充しといたわ。これね、あなたにしか使えない凄く強力な守護魔法が組み込まれていて、悪夢にもきくの!これをかけて寝れば、きっと安眠できるわ!」
そう言って、フィリアちゃんは私の首にかけてくれた。
身に付けた途端、安心感と強烈な眠気がわき上がり、私はいつの間にか目を閉じていた。
「何かあっても、あたしが絶対守るから安心して寝なさいよ!」
フィリアちゃんの頼もしい声を最後に、久々の深い眠りについた。
そして、その日から悪夢を見ることは無くなった。
次回は、とうとうシルヴィアちゃんが憑依している体の持ち主の謎が明らかに!・・・なるかな?
バルドさん視点にする予定です。