2:家族が出来ました
自己紹介しようとしたら、名前がないことに気づいてどうしようもなくなった私。
そして、どうなったのかというと・・・。
「・・・そうだな、シルヴィアなんて名前はどうだ?」
即決定。
名前:シルヴィア
名付け親:熊オヤジ
なんていうか、もう少し考えて欲しかった。こんなにサクッと決まるなんて・・・。名前は素敵だからいいけど!
え?前世の名前は使わないのか?
やだなぁ。私、前の名前は大っ嫌いだったから、どうしても使いたくなかったんだよね。
そこは多目に見てねくださいネ。
それはともかく。
名前が決まったから、改めて自己紹介。
「私の名前はシルヴィアです。たぶん16歳くらいの、記憶喪失少女です!家族はいません。趣味も特技も、好きな食べ物も嫌いなタイプもありません!これからよろしくお願いします!!」
我ながら情報が無さすぎる自己紹介をした。一応。
すると、熊オヤジが椅子に座って、姿勢を正して口を開いた。
「俺はバルド・リギンディアだ。今年で48で、鍛冶屋をやっている。あと25になる近衛騎士の息子と、教会で働いている妻がいる。あー、趣味とか特技とかは省略な」
省略なんて高度な技をつかうとは!
じゃなくて、奥さんと息子いたんだ。独身だと思ってた。
こちらの失礼な考えを読み取ったのか、少しムッとしながら奥さんについて話し始めた。
「俺とミレディ(奥さんの名前だそうです)はそれぞれ伯爵家の長男と公爵家の長女という、柵だらけの生まれだった。そんな中で俺たちは惹かれあい、いろいろあって今までの身分を捨てて駆け落ちしたんだ。つまり、大恋愛の末に結婚したわけだ」
うんうん、と腕をくんで頷いた熊オヤジ、改めバルドさん。
奥さんもバルドさんも貴族でした。・・・えぇっ、あんなごついのに!?(偏見ありまくり)
それに、『いろいろあって』の内容が凄く気になる。ていうか、駆け落ちしたあと実家はどうなった。跡継ぎがいないって大問題だぞ。
・・・突っ込み所がありすぎる!!(隣で妖精さんが頷いていた)
私がバルドさんのせいで目を回していると、バルドさんは完全にこちらをスルーしながら立ち上がった。
「よし、自己紹介も終わったことだし、家事を手伝ってもらおうか」
え、待ってよ。まだ質問が・・・
「っとまだ服を着替えてないんだったなー。作業着はどこだっけか・・・」
・・・・・・。
絶対わざとだぁぁぁっ。ムッかつく!
私が仕返しのやり方を、手をワキワキさせながら考えていると、バルドさんが何かを持って戻ってきた。
「ホコリだらけだな・・・。昔、息子が鍛冶屋の跡を継いでくれると思って作ったけど、使われてない作業着だ」
え、なにそれ可哀想。
でも使われてないだけあって、ホコリがなければ新品のようだ。
ホ・コ・リ・が・な・け・れ・ば
そう、それはホコリの塊としか言い様のないモノと化していた。500年放置してもこんなにはならない。『ホコリだらけだな・・・。』で、済ませていいものじゃないだろう。普通。
そして、ハッと思い至った。
バルドさんが来た方向を振り返ると・・・。
「嘘でしょ・・・」
自分の目を疑った。
寝室の隣の物置小屋がホコリの山だった。
しかもけっこう広いし、ホコリ以外の様々な物が散らばっていた。
隣で妖精さんも唖然としていた。さっきから気が合うね。
・・・これはもう、やるしかないでしょ。
私と妖精さんは、互いに顔をあわせて頷いた。
「掃除をしますので、顔を覆えるきれいな布と雑巾、水の入ったバケツ、ハタキを用意してください。い・ま・す・ぐ・に!!」
その時の私は、まるで鬼神の様な顔とオーラだったと言う。
冷や汗をダラダラと流しながら去っていったバルドさんの、後ろ姿を見ながら覚悟を決めた。
「絶対に、目が潰れるくらいピッカピカのテッカテカにしてやる!」
私はそう言って、物置小屋に足を踏み入れた。
・・・そして、バルドさんがわざと私を怒らせて掃除をさせたんだと悟った時には、宣言通りに部屋をきれいにした後だった。
バルドさんが、私と妖精さんにこってり絞られたのは言うまでもない。
***************
いろいろなことを終わらせて、私は廃人寸前のバルドさんから貰った作業着を試着していた。
茶色い革で作られた、上下がつながっているタイプの作業着だった。胸元と腰辺りにたくさんのポケットと、ハンマーとかを引っかけるためのベルトがついている。
・・・おもいっきり鍛冶をするための作業着だね。私は家事がしたいんだけど。
ちなみに、元々のサイズは一回り程大きかったけど、巨乳のおかげである程度着られるようになった。巨乳は偉大!
でも、この格好で家事をするのはどうかと思う。
このまま家事をするか、もっとマシな服を探すかでうろうろしながら考えていると、突然玄関の扉が開いた。
入ってきたのは、推定20代後半から30代前半ぐらいの女性。緩やかにカーブした亜麻色の髪とサファイアブルーの瞳がよく似合っていて、可愛らしい印象を与えている。
そして、私を見つけると訝しげな顔をした。
「あなたは、どちら様?」
そう言うと、こてん、と首を傾げた。
か、可愛い!リスか?これはリスだな!!
私が、あまりの可愛さに返事も忘れて悶えていると、バルドさんが代わりに返事をした。
「よぉ、ミレディか。あぁ、こいつは俺が森で拾ってきたんだ。今日から一緒に暮らすから、その辺よろしくな」
色々と説明が足りないんですけどー!
ていうか、奥さんだったんだね。バルドさんにはもったいない。
あ、奥さんが怒りのあまり震えている。
そりゃそうだよね。自分が出かけているうちに、知らない女と旦那が二人きり♪のシュチュエーションはちょっと許せな・・・
「なんてこと!?あなたとうとう犯罪をおかしたのね!」
ん?
「いや、ちょっとまて、そのだな・・・」
「まさかその年で可愛い女の子を誘拐しちゃうなんて!女に餓えているなら、私が相手をしてあげるのに!!」
ええ!?色々とぶっ飛んだことになってる!?
奥さんの発想が豊かすぎてビックリ。
この後、奥さんの誤解を解いてまともに話ができるようになるのに30分ほど掛かってしまいました。(けっこう話が通じなかった・・・)
バルドさんは、私のいろいろな事情について話した上で、奥さん改めミレディさんの意見を聞いた。私の心臓は緊張のあまりびーてぃんぐふぃーばーしてたけど、けっこうあっさり許可がでた。
「それで、この子を家に置いて家事をしてもらうのね。じゃあ、これからよろしくね、シルヴィアちゃん」
そう言ってミレディさんは、優雅な動作で紅茶に口をつけた。
やっぱり育ちがいいんだなぁー、と感心していると、ミレディさんがまた凄い事を言い出した。
「ねぇ、あなた。シルヴィアちゃんを家に置くのなら、私たちの養女にしない?私、前から娘を育ててみたいと思っていたの」
「・・・いいんじゃないか。シルヴィアも、記憶を失って身寄りもない状態では心もとないだろう。よし!今日からお前はシルヴィア・リギンディアだ」
バルドさんが男らしく言い切った。
・・・またまたサクッと決まりました。
でも、すごく嬉しい。前世では家族に恵まれなかったけれど、バルドさんとミレディさんは優しいし、時々暴走するけどしっかりしてるように感じた。きっといい家族になれるだろう。
「ありがとう、ございます。・・・お父さん、お母さん、これからよろしくお願いします!」
こうして、転生して1日目にすてきな家族が出来た。
バルドさんとミレディさんが暴走しました(笑)
バルドさん、最初は無口設定だったんですが・・・。