1:転生したら美少女になっていた
ある晴れた日の午後。なんとも気が抜ける声が辺りに響き渡った。
「むぅ~ん・・・明日はカレーでお風呂・・・」
誰だ、こんな意味わからん寝言言ってるやつは。
・・・もしかして私?
意識が覚醒していくのと同時に、左斜め後ろから男性の声が。
「おい、起きたのか?」
そしていつも通りお父さんに起こされて・・・ちょっとまった。私のお父さんは起こしに来るような人じゃないし、こんな野太い声じゃなかったぞ。それに兄や弟、一晩一緒に過ごすような男(笑)もいない(16年間一度もリア充になったことがないなんて言わないからね!)。
・・・ということは、家に侵入したあやしい男だな!
男が近づいた気配がした。よし、家の安全はア⭕ソックじゃなくて私が守る!
「右ストレートぉ!!」
ガシッ!
「・・・助けてやったのにこの仕打ちか。しかも弱い」
・・・あ、あっさり掴まれました。しかもさりげなく馬鹿にしてる!?
「ちょっ!何するんですか!?」
「いや、何するも何も自分の身を守っただけだが」
呆れたようにそう言ったのは、ガタイのいい40歳代後半の男性。その顔はジョリジョリの黒い髭でいっぱいで、鳶色の瞳には呆れを宿しながらも、ごつい顔に感情の色は一切表れていなかった。
・・・つまり、どこからどう見ても怪しい「熊オヤジ」(見た目と言動を9:1の割合で参考)。
「人の家に侵入していてよく言えますね!」
私が熊オヤジの見た目の凶悪さに、負けずに言い返すと、熊オヤジが不思議そうな顔をして
「・・・何を言ってるんだ?ここは俺の家だぞ」
と言った。
それこそ何を言って・・・本当だ。ここ私の家じゃない。もしかして、私この熊オヤジに誘拐された!?
非難の目で熊オヤジを睨みつけると、熊オヤジは目にある呆れをいっそう濃くして話しかけてきた。
「本当に何も覚えてないのか?お前は・・・」
***************
やっと自分に何が起こったかわかりました。
あれですね、転生ってやつです。
・・・赤ちゃんからじゃないのが気になるケド。
前世の私の記憶では、トラックが目の前に―――って所で途切れていたので死んだと判断し、召喚ものでない事を認識しました。
熊オヤジは、私が森で倒れていたところを保護してくれたみたいです。意外といいやつかも(熊オヤジの好感度15%up)。
手に持った鏡に映るのは「金髪・碧眼・巨乳」の3セットが揃った美少女。
前世は貧乳だった私がハンカチ噛みちぎるぐらいのプロポーションだと!?巨乳も、ただデカいだけじゃなく、完璧な形を保っている。もう、羨ましいやら妬ましいやら・・・今は私の身体だけどね。
この身体に育ててくれた元の身体の持ち主に感謝しなきゃ。もしかしたら私が追い出しちゃったかもだけど(・・・テヘペロ♪)。
熊オヤジが言うには、「どこのだか分からんが、家紋がはいっているペンダントを身に付けていた」そうなので、私の為に創造された身体ではないことは分かりました。
ただ、そう言った熊オヤジが探るような視線を向けていたので、私を疑っていて本当のことは言わずにいるのかもしれません。
だから、何とかするために頭の中にむかって何度も話しかけみたんですが、反応が全くナシ。
おかげで熊オヤジに「名前や出身地は?」って聞かれて軽くパニックになりました。
いや、だって「異世界で死んだのでこちらに転生して、誰かの身体を奪いました☆」なんて言っても、頭が大丈夫か心配されるだけだし。さらに、蝶よ花よ(失笑)と育てられたせいで、コミュ力0の私は「あ、えっと・・・・・・うぅ。」と言って手をわたわたさせることしかできなかった。嘘をつくことすらも思いつかなかったよ・・・。
やばい、このままでは「頭が残念な女の子」として認識されてしまう!
しかし、神は私を見捨てなかった。
私の様子を見ていた熊オヤジが、
「もしかしてお前、記憶消失か?」
と顎髭に手をあてながら言ったんです。
そっか、その手があったか!と今更ながらに納得。ありがたくその設定を使わせてもらおう!
「・・・もしかしたら、そうかもしれません。名前も親の顔も、何も思い出せないんです」
私が目尻に涙をためて、しょんぼりとしながら(幼い頃に鍛えた演技力がやっと役に立つ場面がきた)言うと、熊オヤジが疑わしいとでもいうように
「じゃあ、なんで起きたときに『人の家に侵入していてよく言えますね!』なんて言ったんだ?自分の家を知っているとしか思えんが?」
と言ってきた。ふっ、そうくると思ったよ。
「起きたとき、普通は自分の家にいますから、当然です。寝起きは意識がはっきりしてないですし。それに、目の前に見たことない怪しいオジサンがいたら、家に侵入されたとしか思えないじゃないですか!」
ドヤ顔で言ってやった。
よく見たら熊オヤジの顔がひきつっている。
あれ?なにか変なコト言ったっけ?
「・・・まぁ、嘘は言って無さそうだな」
あ、信じてもらえたかも!やったね!
・・・ん?熊オヤジが何か言いたそうにしてる。
「一応聞くが、その、俺の顔はそんなに怪しいのか?」
頭を項垂れて、少し落ち込んだ様子の熊オヤジ。
そんなことしても、ぜんぜん可愛くないよ!
「そこまで怪しいってことはないですよ。ただ、私が今まで見たことのないくらい凶悪な顔をしているだけです!」
日本人はみんなノペーっとした顔だから、ごつい顔って怖いというか、圧迫感があるんだよね。
・・・なんだかさらに落ち込んでいるんだけど。私、ちゃんとフォローしたよね?
「いや、いい。慣れたことだ。それより、お前はこれからどうするんだ?」
私の様子を伺う熊オヤジ。
・・・ぜんっぜん考えてなかったけど、私ってこれからどうすればいいんだろう?
「・・・選択肢は3つだ。1つ、そのペンダントを頼りにお前の家族を探す。2つ、ここで俺と一緒に暮らす。3つ、ここを出ていって好きなように暮らす。もちろん、ここで暮らすならそれなりに働いてもらうし、出ていくならそれなりの金は渡してやる。どうするんだ?」
お金くれるんだ。太っ腹なのはいいことだ!(熊オヤジの好感度30%up)
それはともかく。
まず、ここを出ていくにしても、この世界の常識がぜんぜん分からないから、もちろん無理。
私の身体の持ち主の家族のことも気になるけど、まだいろいろと感情の整理がついてないから会えない。
それに、家族が見つかるまでは結局熊オヤジと一緒にいなきゃいけない。
つまり、選択肢は一つだけ。
「私は、ここに残ります。いいえ、掃除・洗濯・炊事など、何でもやるので残らせてください!」
元日本人は必殺技の『ド・ゲ・ザ!!』を繰り出した!効果は抜群!のはず?
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
長ぁぁい沈黙に耐えきれずに顔をあげると、呆れたような、はたまた驚いたような、変な顔をしている熊オヤジがいた。
私がそのままジッと見つめてると、我に返った熊オヤジが頭をガシガシと掻きながら困惑気味に口を開いた。
「あのなぁ、本当にそれでいいのか?自分で言うのもなんだが、年食ったおっちゃんと一緒に暮らしても楽しくないと思うが」
確かにそれはすごくつまらない。
普通だったら。
でも、ここは私が以前生きていた世界とは全く違う。
なぜなら私の目の前には妖精さんがフワフワと浮いていて、熊オヤジの腰には剣があるからだ。
ここは、明らかに剣と魔法のあるファンタジーな世界なのだ!!
熊オヤジから聞き出せば、この世界に関する物事をたくさん学ぶことができるだろうし、剣術や魔法だって使うことは夢ではないかも!
これが退屈な生活に繋がる訳がない。
人付き合いがないという意味では、確かにつまらなそうだけど、私は人見知りなので逆に有難い環境である。(ついさっきまで熊オヤジを不審者扱いしていたことは忘れている)
「ぜんぜん構いません。むしろこのままの方がいいです!」
私が堂々と宣言すると、今度は熊オヤジが挙動不審になった。
「そ、そうか。このままの方がいい、か」
・・・なんだか凄く誤解されてる気がする。
いや、いいんだけど。
あ、そうだ。一緒に住むんだから自己紹介ぐらいしないと。(現実逃避)
「えぇっと、自己紹介しますね。私の名前は・・・」
・・・・・・。
そういえば、名前分かんないんだった!
自己紹介すらできない(orz
どうする私!?
初心者+趣味でやっているので、あまり作品の完成度は高くないですが、楽しんで読んでいただけると幸いです!
また、主人公が凄まじく鈍感なので、温かい目で見守ってあげてください。