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どうしたのだろう?

それから数日後、木村の下に榊原はやってきた。榊原の車が工場の前を通るのを、優しい目でじっと見ている木村だった。車から降りた榊原は、木村の前までくると目に一杯の涙を溜めていた。

その時、少し困った顔を見せる木村だった。

それもその筈、ここで榊原さんが泣きだしたらおれはどうすればいい、そう思ったからだ。木村は、榊原を工場の中まで連れて行った。そして、さっき買った缶コーヒーで乾杯をした。

二人とも心から喜びあっていた。そして、榊原が木村に言った。

「本当に有難う御座いました。木村さんは、ああ言ってくれましたけど、やっぱり木村さんのメールの御蔭で結果を出せたと思います」

「いいや、あなたの実力ですよ。もっと自信を持って下さい」

二人は、お互いを誉めていたのだった。

そして、榊原が言った。

「また、お願いがあるのですが」

「何でしょうか?」

「もう一軒、工場を紹介して頂けないでしょうか?それでまた一緒に行って下さい」

木村は考えたが、また承知した。

数日後、木村が紹介する工場から了解を得た事で、二人はそこに行った。今回の紹介は、そこの従業員は顔見知りの木村だったが、そこの社長と木村とは面識が無かったのだ。その為に、木村はその工場の中に入る事は無かった。だが、榊原の頼みに、木村は同行していたのだ。

二人が目的地である工場の前に到着すると、車から降りた木村は、榊原の所に歩み寄ってきた。そんな木村を見て慌てて車から出てきた榊原は、余りの勢いに車の天井で頭をぶつけていた。

「大丈夫」

 心配そうに榊原を見る木村に、恥ずかしそうに頭に手をやっていた榊原だった。すると木村が、笑いながら榊原の頭を撫でていた。

その時、二人は自然に接近していた。だが、我に帰った二人は真っ赤な顔でさっと離れた。

そして木村は言った。

「ここからは、一人で行かないといけません。一緒に行きたいのですが、ここの社長とは面識がないから」

木村は、申し訳なさそうにそう言った。しかし榊原は微笑んで、

「ここまで来て頂いただけで嬉しいです。大丈夫ですよ。木村さんが言っていた通り、自信を持ってぶつかってきますから。有難う御座いました」

榊原はそうお礼を言うと、工場の中に入って行った。榊原の後姿をしばらく見ていた木村は、自分の車の方に歩いて行った。

木村が去って行く所を、紹介された工場の入り口で気付いた榊原は、その後ろ姿をずっと見送りながら小さく頭を下げていた。その後、工場に入った榊原だったが、そこの事務員と名刺交換を済ませると、今後の訪問の許可を取る事なく出てきた。

榊原は、工場を紹介してもらうのが、目的ではなかった。それは前回と同じ、木村と二人きりになりたかったのである。

その後榊原は、木村にメールを送った。

『木村さんの帰っていく後姿を、じっと見ていました。男性の背中だと、男らしさを感じていました』

その内容に、木村は照れながら読んでいた。そして、

『そんな事言ったら、どこかに攫って行くよ。なんてね。僕は小心者だから、そんな事は出来ませんよ。それに又、榊原さんに叱られるかもしれませんから』

 といった内容のメールを返信していた。すると、

『木村さんならいいかも』

 と、榊原からの返信メールが来たのだ。

もちろん、木村はハイテンションマックス状態だった。

それから暫くは、榊原の姿は無かった。

木村はメールを送った。

『お仕事忙しいみたいですね。時間が開いた時で良いので来て下さい。可愛い顔が見たいです。逢いたいです』

そんな、初めの頃の内容のメールを送った。すると、直ぐに返信メールが返ってきた。

『ごめんなさい。そちらにお伺いしたいのですが、仕事が忙しいのと、体調が優れないのとで、中々そちらにいけません。出来るだけ時間を作って行きたいと思っています。私も逢いたいです』

木村はそのメールを読んだ時、直ぐに返信したいと思ったが、考えてそれを止めていた。榊原の事を考えての事だった。体調不良の時に、あまりメールを送るのは良くないと判断したのだ。

数日後、榊原の自宅がある町で花火大会がある情報を入手した。

木村はそれを題材に、メールを送った。

『今日は花火大会ですね。日頃の疲れを癒すのと、子供さんも楽しみにしているでしょうから、観覧に行ったらいいですよ』

という内容だった。

メールは直ぐに返って来た。

『メール有難う御座います。いつもながら、優しいお心遣い有難う御座います。私もそうしようと思っていました。気持ちが合いましたね。それじゃ、また後でメールします』

榊原との気持ちの一致で、木村は喜んでいた。というよりは、自宅の近くで花火大会があれば、行くのは当然の事なのだ。

しかし、榊原は敢えてそう書いたのだ。当たり前の事だが、それでも木村との気持ちが重なった事が、榊原にとっては嬉しかったのだ。そして木村も、そんな榊原の心遣いに喜んでいたのである。

そして、夕方にメールが届いた。

『今から行ってきます。今日は旦那が出張で居ないので、子供と三人で行ってきます。側に木村さんが居たらなぁ』

榊原からのメールは、最後にそう書いてあった。そこで木村のテンションが上がったのは言うまでも無い。

だが、それからも榊原は姿を見せなかった。

仕事があまりに忙しすぎて、体調不良で寝込んではいないか。そう心配した木村は、榊原が喜びそうな内容のメールを送ろうと思った。そこで考えた挙句、好きな食べ物の紹介を書こうと思い、

『この前、凄く辛いカレーを食べました。30倍の辛さのカレーですよ。子供達に、そのカレーを少しだけ食べさせたら、水を一杯飲んで叫んでいました。WWW

だけど、とっても美味しかったですよ。榊原さんも、一度食べてみたらいいかも。WWW』

そう書かくと、カレーの写真をまで添付して送ったのである。すると、直ぐに返信メールが届いた。

『凄く美味しそうですね。私は辛いのが好きだから食べたいです』

そう書いてあったのだが、その後の内容に、木村は驚愕の表情のまま固まっていた。

『木村さん、私は木村さんのメールを読んでいるだけで、涙が溢れて来るのです。どうすれば良いでしょうか? 私は病気なのでしょうか? 病院に行った方が良いのでしょうか?』

そのメールを読んだ木村は、直ぐに榊原に電話をした。だが、榊原は電話に出ることは無かった。

メールを送信したのだから、携帯電話は持っている筈だ。それに、電話が鳴っている事も気付いている筈なのだ。それなのに、榊原は電話に出ない。

木村は、榊原の身に何かが起きているのではと心配だった。そして、翌日の朝早くにもう一度電話をしてみると、直ぐに電話に出た榊原だった。その時、木村は必死に訴えていた。

「大丈夫ですか? 何かあったのですか? もしそうだとしたら、何でも言って下さい」

あまりの木村の必死な言葉に、榊原は驚いていた。

「はい。大丈夫です」

榊原がそう言った。だが、木村はその後も言葉を続けた。

「困った事があれば何でも言って下さい。僕は、直ぐにあなたの所に駆けつけますから。家の場所が解らない時は、どんな事をしてでも探し出して、あなたの所に駆けつけますから。だから、何でも言って下さい。僕を信じて、僕を信じて。僕が付いていますから安心して」

自分が何を言っているのかが解らない木村だった。それでも、一生懸命に榊原の事を考えての言葉だったのだ。榊原は、必死になって訴えている木村の言葉に、いつしか返事をしていた。

『はい。有難う御座います。本当に、有難う。何でも相談しますね』

 榊原がそう言うと、木村は電話を切った。

木村の心は動揺していた。そして心配だった。

その日の昼、榊原は木村の所にやってきた。しかし、榊原は何かを考え事がある様で、気力の無い表情をしていた。

そんな榊原に、木村は周りの事も忘れて、榊原の手を引っ張って工場の裏に向かったのだ。

「本当に大丈夫なんですか? 何でも言って下さい。僕は何でもしますから」

木村は必死だった。すると、榊原は木村のそんな気持ちに、そして、木村を安心させようと思い、

「この前に言っていた、あの山の上に行きたいな。来週でも行きましょう」

 と、笑顔でそう言った。

木村は、思ってもいない言葉に頭の中が真っ白になっていた。

そんな木村の事を他所に、榊原は尚も言った。

「来週の水曜日に、もしも雨が降ったら翌日にでも。木村さん、私をそこに連れて行って下さいますか」

 そう言ったのだ。

その榊原の言葉に、木村は大きく頷いた。木村の心の中では“あなたがそうして欲しいなら、どんな事をしてでも連れて行くよ”と、そう思っていたのである。



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