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別れ・・・・・・

それからは、体調に合わせて仕事のスケジュールを組む榊原だった。体調が優れる時は、会社訪問で出掛けて行き工場を周って、体調が悪い日は、社内の事務的な仕事をやっていた。

会社訪問で榊原が訪れる時は、榊原の状況を知らない元気だったが、二人を気遣って工場の中に入って行く様になった。そして木村と榊原が二人きりになると、大切な時間をより大事に過ごしていた。

榊原は、自分が肥って行く事に恥ずかしい気持ちでいた。丸くなったほっぺに手を当ててたこ焼きの仕草をすると、それを見た木村は声に出さずに口だけで『か・わ・い・い』といっていた。

二人の行動は、周りから見ると馬鹿げている様な、幼い行動に移っていたのかもしれない。だが、二人にとっては、その時が一番新鮮な気持ちで、自分の想いをそのままぶつけていた瞬間だったのだ。

ある時は、喫煙所の椅子に二人で並んで、ジュースを飲みながら笑って話をしていた。お互いが認め合って、自然に肩と肩が触れ合うほど接近していても、全く離れようとはしなかった。話をしている時の二人は、この時間が長く続く様にと心の底から思っていた。

メールの中でも、ハートやLOVEの字といったデコメを使って、気持ちを伝えていた。漸く、二人にとって最高の時が来たのだ。


そんな幸せな時間も、刻一刻と過ぎ去って行く。そして等々、あの時がやってきた。


榊原は、次第に社内の仕事をする事が多くなってきていた。もう、産み月が近くなったのだ。その為に、木村と逢う事が少なくなった。

ただ、メールだけは続けていた。

だが、そのメールですら途絶え始めていた。そして、等々仕事にも行けなくなっていたのである。

木村は、そんな榊原の事が心配で、何度もメールを送った。しかし、返信のメールはこなかった。やはり、自宅では旦那の眼があったのかメールが出来なかった。

木村は、いつかはこの時が来る事を解っていた。いや、そのつもりだったのだ。いざその時がやって来ると、やはり気持ちの整理が付かなかったのだ。

木村は電話も試みた。だが、榊原が電話に出る事は無かった。

思い留まった木村は、お別れのメールを送る事にした。

『お早う御座います。恐らく、もうこちらには来られなくなったと思うので、メールを送ります。

今からが、大変な毎日になってきます。なるべく無茶はせずに、身体を大事にして下さい。もう自分だけの身体じゃないのですから。

それと、旦那さんに色々な事をして貰う様にして下さいね。もしも旦那さんが手伝わない時は、僕に電話下さい。僕が、旦那さんにしっかりと言って聞かせますから。まあ、そんな事はないかな。

あなたが愛した人だから。

もう、これからはメールをするどころじゃなくなりますので、最後のメールにしますね。

あなたは、僕にとって一番大切な人です。だから最後に言います。

身体だけは大事にして下さい。そして、どんな小さな事でも構いませんので、何かあれば直ぐにメールを下さい。僕は何時でも、あなたの所に駆けつけますから。

それじゃ、さようなら』

木村のメールは、かなりの長文になった。想いを全て書いたつもりだったからだ。しかし心の中では、言い尽せない想いが他にも沢山あった。

一番言いたかった事も。

しかし、その想いを気持ちの奥底に仕舞い込んでいた。

木村は、仕事を始めようとした。

その時、木村の電話がなった。

木村は直ぐに外に行くと、電話に出た。

「もしもし、木村ですが」

その言葉の後、暫く沈黙が続いた。そして、小さな声が聞こえてきた。

「メールありがとう御座います。もう、そちらに行けなくなりました」

その声は震えていた。

木村は、黙って榊原の言葉を聞いていた。

「職場にも、産休で休む様に言いました。だけど、私……」

その時、木村が話し始めた。

「解っています。これからが、あなたにとって大変になるのですよ。

そんな弱弱しい声では、駄目じゃないですか。

元気な赤ちゃんを産むんでしょ。もっと、しっかりしなきゃ。

あなただったら大丈夫です。僕も他のお客さんも、あなたが元気な姿で戻って来るのを待っていますよ」

木村は、榊原を元気づける様に言った。そんな木村の一言一言に、震える声で小さく返事をする榊原だった。

木村の話は続いた。

「一年くらい、あっという間です。頑張って、今度来る時は、その子を見せに来て下さい。

それと、旦那さんをしっかり使ってね。まあ、これは僕が言う事じゃないかな」

ユーモアを交えての木村の言葉だった。だが、榊原の返事の声は、次第に涙声になっていた。そして、

「木村さん! 私、木村さんの事が好……」

と叫ぼうとした。

その時だった。

木村は、榊原の言葉を止めた。

「駄目! 駄目です。それを言っては、その先を言っては駄目です。

僕も、僕も我慢しているんですよ。だから、それ以上は駄目です」

「だ、だって、だって本当に」

 必死に自分御気持を伝えようとする榊原だった。しかし、

「駄目です。前も言いましたでしょ、お互いが距離をって。

ただ、次に逢った時に僕等が同じ気持ちのままだったら、責任は持てませんけどね」

木村も辛かったのだ。

それで、最後にこんな言葉を残したのだろう。それが、木村からの最高の想いの伝え方だったに違いない。

そして最後に、

「また、次に逢う時までさよならですね。僕は、あなたが再びここを訪れる事を信じて待っていますね。その時は、今の様に笑顔でお会いしましょう」

木村はそう言った。

すると榊原は、

「は、はい。エッ、ほん、エッ、とうに、ありがとう、エッ、ございました。それじゃ、おげん、エエッ、きで」

と、泣きじゃくりながらそう言ったのである。

そして、二人は電話を切った。

木村は自分の携帯電話を黙って見ていた。気持ちの中では、凄く切ない辛い気持ちでいっぱいだった。だが、涙は出て来なかった。

そこへ、元気がやってきた。すると小さな声で、

「終ったよ」

と、そう言った。




それから二年後のある日……。

プルプルプル。プルプルプル。

「はい、もしもし木村ですが」

「あっ、榊原です。今日そちらに」


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