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中編

 長い長い廊下。

 豪奢な造りの其処が、今は何処か荒廃していた。

 大捕物があったからだ。兵士達が縦横無尽に動き回り熱り立った証が、此の荒廃だ。

 でも、と、彼女は些か忌々しげに呟いた。

「もう少し、考えて動く事は出来なかったのかしら」

 少女の言葉にぐうと殺気が膨れるが、小さな体は怯えも見せず、只淡々と言葉を続けた。

「ああ、あんな処に穴が開いてるわ。此れでは、売りに出す時の値段が下がってしまうじゃないの。折角の王都中心部に在る豪邸だと云うのに……此の内装は、直しを考えると、売れ難いでしょうし」

 ちらりと視線を遣り遣り、少女は呟く。

「ああ、あの絨毯は高価で人気なのよ。其れなのに、あんなに泥で汚れて……あれも……まあ、あの絵も、あんな状態じゃあ売れないわね」

 困った事だわ、と少女が呟く度に、じわりじわりとメイド長から漏れ出た冷気が、背後の男共の首筋を撫でて行く。

 此の道中に同行したのは、突入して来た兵士騎士全員。

 保護した筈の者達が、一人残らず土塊と化した事の顛末を、皆、己の目で見て耳で聞き肌で感じたいと願ったからだ。

 華姫と持て囃された少女は、今、長い廊下をゆっくりとゆっくりと歩いている。

「何故、金の心配をする」

 騎士団長の言葉に、少女は振り返りもせず眉を寄せて呆れた様に声を出した。

「人的被害は抑えていたとは云え、賠償金とか必要でしょう。あの者達が手を染めていた悪事は、奴隷売買や悪徳高利貸しだけではなかったと思うのだけれど」

 齢十の少女の言葉に、騎士団長は勿論、其の傍に控える騎士達は一様に驚きの表情を浮かべる。

「あの性根ならば、きっと王宮内でも密やかに善人を嬲り者にする位の事はしていた筈。不当に所領や仕事を奪われた者への正式な賠償は、しなくてはならない事だわ」

「……華姫」

 此の少女は、異常だと。騎士団長は僅かに其の目に険しさ以外の警戒を滲ませた。よもや、此の少女が黒幕ではと其の場に居た男達誰もが訝しんだ其の刹那。

「おやめなさい、と云っているのに」

 騎士団長の喉元に、白刃の切っ先が僅かに沈んでいた。

 仕掛けたのは、メイド長。手にした掌程の大きさの短剣は、突く事に特化している様で、細く鋭く尖っていた。

 メイド長の動きが、見えた者はいない。

 人一人が動くのだから、其の場の空気位は動こうものなのに、其れすら感じさせず、メイド長は的確に獲物の急所を捉えていた。

 騎士団長の喉元……沈んだ切っ先の根元から赤い雫が垂れる段になり漸く周囲が色めき立ち其々に剣を抜こうとした。――――――当に、其の時。


「だから、やめよと」


 苛々とした声音と共に、全員が廊下に沈みこんだ。

 何があったのか、解からない。だが、歴戦の勇者達は、戦場の荒くれ者共は、何の術も無く腰砕けで廊下に沈みこんでしまった。立っていたのは……少女、のみ。

 綺麗で綺麗な顔が、呆れかえった様子で大人達を見下ろす。其の視線は透徹で、恥を怒りに変える術に長けている筈の男共の気勢を見事に殺ぎ切り、そして、其の場に堂々と君臨していた。

「貴方達は、あの子達を助けに来たのではないの」

 疑問の様な、叱責。

「我が伯爵家に踏み入ったは、私怨なの」

 柔らかな声音の、静かな痛罵。

 冷酷な悪姫と嘲られていた少女から発せられるのは、悉く正道だった。

 男達は……殊、騎士達は、礼に則った所作で立ち上がる。勿論、其の筆頭は騎士団長だ。戦場に在って泥に塗れようと、王国の剣として盾として、強く気高くあれと定められたが故に、其の絶対の信頼を王国民から得る、歴戦の(つはもの)。其の矜持を示す彼らに、小さな貴婦人は小首を傾げて目を細めた。

「メイド長、ごめんなさい、しなさい」

 さらり、と紡がれた言葉はたいそう幼く。

 漸う立ち上がった男達の毒気を抜くに十分だった。

 呆気にとられる男達の前で、凛とした美女であるメイド長は、既に無いも持たない両の掌を基本通りの立ち姿に沿わせ、僅かに眉根を寄せた。

 使用人が、主に反抗する。

 此の非常識な光景に、全員が完全に瞠目する。

 使用人とは、家具だ。家具には、何の権利も無い。言葉を発する必要すらない。時と場合に因っては、意思すら認められないのだ。使用人は動く家具として、唯只管に主に仕えるのみ。そんな事は、市井の幼子ですら知っている常識なのだ。だが、少女は其の常識を壊し、メイド長は壊されたモノを常識として享受している。

 思えば、と、騎士団長は述懐する。

 最初に侍っていたメイド達も、此の幼子を案ずる様な言葉を紡いでいたなと。

 其れは、彼女とメイド達の間に、明らかな情の交感が在ったと云う証なのではなかろうか、と。

「姫様ヲ、愚弄しタ、(やから)ナドニ、謝罪、ナど」

 嫌ですと頑なに凛と立つ姿に、少女は器用に片方の眉だけを上げ、じゃあと無邪気に呟く。

「私が謝るわね」

「御無礼、致しマシタ。申シ訳、アリま、セン」

 唐突に頭を下げられ、思わず動揺した騎士団長が些か慌てた様子で鷹揚に頷けば、少女は満足した様子でうんうんと頷いた。

「さ、行きましょう」

 事は終わったと歩み始める少女を追う様に、一団が動く。勿論、騎士団長の周囲ではメイド長の蛮行とも云うべき行為に対し、声を上げようとした者が居たのだが、其れ等は年嵩の騎士であったり、騎士団長自らの視線によって抑え込まれた。何故ならば、メイド長の行動原因が明解だからだ。メイド長は、醜悪極まりない性根の伯爵夫妻の、更に上を行く悪辣な存在が此の娘ではと男達が訝しんだ事に腹をたてた……只、其れだけの事。ならば、非は此方に在ると、男達は其々の胸の内で頷いた。

 少女の部屋は、豪華にして広大な伯爵邸の最上階……三階に在った。東と西に大きな窓を持ち、南に植物園の様なテラスを持つ。其の豪華絢爛な部屋から地下は、余りにも遠い。

 男達にとっては、気にならない距離でも、幼子……しかも令嬢にとっては、重労働ですらあるのではと、或る者は嘲り、或る者は心配していたのだが、其れはあらゆる意味で全くの無駄になっていた。

 長い廊下を歩き、大きく優雅な階段を降りる段になっても、少女は息一つ乱さずに優美に歩く。

「あのね、メイド長は此の家に憑いていた悪霊の中でも、別格の古参なの」

 唐突に語りだした内容は、其れなりに物騒で。

 男達は何が始まるんだと顔を引きつらせながら静聴する。

「実際、何人か伯爵家の人間を取殺してもいるの。まあ、本懐だった伯爵家直系が殺せなかったから、今迄ずっと我が家にいたのだけれど」

 さらり、さらりと紡がれる内容の、想像以上の物騒さに、兵士達の中から「貴族を取殺したあ!?」「本物じゃねえか!」「魔物だろ其れ!!!」等の悲鳴が上がるが、少女も当人であるメイド長も全く動じない。

「だから、嫌な事があると、すぐに抹消しようとしてしまうの。悪気はないのよ? 純粋な、瞬間的な殺意しかないの」

 許してやってね、と少女の大きな瞳が云っていた。「謝る」事を脅しとして使用した手前、メイド長が謝ったのだから重ねての謝罪は出来ないのだろうと察した騎士達は、其々に了承を示す。

 と、云うより。

 示さざる負えない。

 少女は何でもない事の様に云っているが、要は、此のメイド長の核である悪霊は、最早人を殺す事に何の躊躇いも無く、しかも、或る意味守護の側面すら持っているのだろうと察しがつく為だ。

 貴族の血は、悪霊・怨霊の害意を退ける力を大なり小なり有している。貴族出身が基本の騎士達も勿論血の加護を有している……が、しかし。守護の力を排する存在は、此の世に存在していない。つまり、悪霊の害意と守護の属性を併せ持つメイド長の殺意を退ける術を持つ者は、此の一団には――――――無い。

 頼みの綱は、少女だけ。

「笑い話にもならんな」

 一等年嵩の騎士が嘆く。

「訊きたい」

 階段を降り切り、二階の廊下を渡り行く道すがら、騎士団長は徐に少女へ声をかけた。

「答えられる事であれば」

 小鳥の囀りの様な声音で返し、少女は透徹な視線をちらりと投げる。

「人的被害を抑えた、と云ったが、具体的には何をしていた」

「連れて来られた奴隷(しようにん)商品(にんげん)の身柄確保と入れ替え。希望があれば逃がして、逃げ場がない……あれね、家族に売られたものに関しては、今向かう地下に保護しているわ」

「全てか」

「そうよ」

 当たり前でしょう、と何でもない事の様に云う少女の傍らで、メイド長が誇らしげに胸を張りながら怒気を伴う冷気を男共に吹き付ける。

 疑うなら殺す。

 そういう事、らしい。

 一様に顔色を無くしつつ、だが、男達は毅然と前を向いて歩いていた。其れ位の矜持は、あるのだ。

 部下の強がりに内心同情を向け、騎士団長は更に言葉を続けた。

「何時からだ」

「生まれた時から」

 正確には、生後、一週間程から、かしら。

 そう云った少女に、男達は今度こそ「嘘だ」「出来る訳がない」と拒絶の声を上げた。

「おやめなさい」

 騎士兵士問わず、男達の間に何輪か血の花が咲く――――――が、其れ等は致命傷には至っていない様だった。……明らかに、少女の声の影響だろう。

 乱れない黒髪と、凛とした美貌。だが其の瞳が、冴え冴えとした新月の夜空の様に酷薄で不気味な色を映している。

 底が、見えない。

 其の双眸に、騎士団長は戦慄を覚えた。

 だが、少女は呆れた様な溜息を吐いて、やれやれと言外で云いつつ言葉を紡ぐ。

「普通は、信じられない事よ。貴方だって、最初はそうだったでしょう」

 ちらりと見上げられ、メイド長は一瞬瞑目して呟いた。

「アノ時の、自分ヲ、殺シタイ、デス」

「だめよ」

 些か慌てた様に宥め、少女は騎士団長達へ視線を向けた。

「歩けるかしら」

 歩けないなら捨てていく。そう云い切っている柔らかな美貌に、全員が速やかに止血を終えて立ち上がる。

 流石は王国の剣ねと嘯いて、少女は再び歩き出した。

「最初の一週間は、意識が曖昧なの。だから、動けたのは、一週間後からよ。……そうね、其の間は、多分、被害らしい被害はなかったと思うわ。一応伯爵家直系が生まれたのだもの。体面を保つ為にも、総力を挙げてお祝いしていたと思うし……」

 云いながら、少女が僅かに焦ったような感情(いろ)を浮かべ、メイド長を見遣る。

「乱交とか、してないわよね?」

「女ノ方ガ、産褥デ、楽シメナイ、ノデ」

 精々が商売女と商売男を呼んでのストリップ迄だったと云われ、少女はほっとしたようだった。

 ほっとするなと大人達が内心絶叫する。

 予想外の伯爵家の悪辣さと少女の苦労を垣間見た気がしたとは、其の後に騎士団長が語った言葉だ。己の生誕祝いに裸の男女と戯れる父母と云うのは、もうなんと云うか、酷過ぎる。

 引きつった男達の様子を気配で察し、少女はほほと笑って言葉を紡ぐ。

「お祝いも一週間経って、赤ん坊のお披露目をして終わりになるでしょう。私はね、其の時絹の蒲団に包って寝ていたらしいのだけれど、あんまり私が美しいからって其の絹の蒲団で盛り出した莫迦が居たらしくて。盛った男は其の時人気の役者か何かだったらしくてね。マニアに売れるからと其の場で絹の蒲団から出されたらしいの……まあ、其れが私の最初の記憶なのだけど。寒さに震えたら、己の傍から栗の花の香りでしょう。……あの時は本当に如何しようかと思ったのよ。吃驚しすぎて泣くに泣けなかったわ」

 笑えるでしょうと軽く云う少女の言葉に、兵士の間からは啜り泣く声すら聞こえ始めた。

「あ、あら? 面白くなかったかしら? 此れ、意外と笑ってくれるんだけど」

「姫様。其レは、悪霊限定ノ、笑イ処、デす」

「そうだったの!」

 吃驚した、と告げる表情に影は無い。

 ……つまりは、伯爵家の最低あるあるだったらしい。

 最早、騎士の間にも眉を顰めて涙を堪える姿が現れ始めた。

「で、ね? 意識がはっきりしたら、周囲で沢山私を覗き込んでいる存在に気が付いたの。きらきらしてるのは精霊だって云ってくれて。怖い表情(かお)の人は悪霊だって教えてくれて」

 精霊と、悪霊。

 人ならざるものと云う意味では近しいが、根本が全く違う。

 精霊は、或る意味、神に準じる存在だ。其れを使役する事は非常に難しく、稀有。下法使いと違い、精霊術師が貴族に生まれれば、間違いなく王族へ献上される。

「悪霊と、精霊を、使うのか」

「使うんじゃないわ。助けて貰うのよ」

 騎士団長の言葉に少女は呆れを滲ませた。

 伯爵家だから、新しい貴族の血に惹かれて精霊が来ていた。

 伯爵家だから、新旧の悪行に因る悪霊達が新たな怨敵に成り得る者の傍に寄り集まって来た。

 其の双方が、彼女の味方になった。

 生まれてすぐ、下卑た情動に晒されたにも変わらず、賢明な輝きを見せた赤子に、人ならぬ存在(もの)が手を差し伸べた。

「寒いから暖かくしてくれたのは精霊で、其の場から適当な使用人を操て部屋に連れて行ってくれたのは悪霊。自分の部屋で皆が世話をしてくれて、今の私があるわ」

 云いながら、少女はメイド長のお仕着せを小さく指先で掴んだ。

「メイド長が、一番最初からいてくれたのよ」

「ハイ。私ガ、守リマス」

 一番の悪霊だったから、其の強い力で赤ん坊を殺そうと思ったから一番先に来たのだと云うメイド長は、だが、彼女を見て、助けてと震えながらも剛く笑った彼女(あかご)を見て庇護を決めたのだと云う。

 凛とした涼やかな目が、少女を優しく見つめる。……そして、男達へ殺意と云う名の冷気を吹き付ける。

 牽制が殺意って! と歴戦の猛者達が恐怖で引きつる中、騎士団長は徐に口を開いた。

「良く、無事だったな」

 其処まで酷い親ならば……と云い淀む騎士団長へ、少女は何でもない様に口を開く。

「部屋に戻ってすぐ、使用人を集めたの。先ずは精霊に土を持ってきて貰って、メイド長の体を作って貰って、次にテラスに植物園を作って私の食物を確保したりして、色々して貰ってる間に憑かれて来た使用人からメイド長が事情を聴いて逃げるか留まるかで対処を決めて。性根が腐りきってる悪党の類以外の使用人は、其の日の内に対処しきってね。私は安全を確保したという訳」

「良く、気づかれなかったな」

「あらだって」

 楽しげに眼を眇める少女は、美貌に似合いの優雅さで笑った。

「精霊って、神様の次だから。あまり干渉は出来ないけれど、多少ならやっても大丈夫なのですって」

 記憶を少しだけ書き換えるくらいなら、大丈夫なのだと。そう云った少女は、如何やら事の大きさに気が付いていない様だった。精霊が、人に其処迄手を貸す事は皆無に等しい。其れこそ神話の時代からありえず、夢物語である伝承に書かれた聖者や始祖王位しか、そんな事が可能な存在は居ない。

 ならば。

 大人達は思う。

 此の少女は、最早伝承の中の生き物なのだと。

 其れを告げたいが、如何せん、傍らの美影が其れを許さず、絶え間なく殺気を放っている。少女(あるじ)への視線は何処迄も優しいのに、彼女以外への態度は何処迄も酷い。

「多分、私は病なのよ」

 唐突にすら感じる其の言葉に男達が訝しげにするより早く、少女は淡々と言葉を紡ぎ始めた。

「名前を付けるとしたら、先天性多重記憶症。……そんな感じかしら」

 うん、と頷く其の愛らしい姿に、だが騎士団長は訝しげに眉根を寄せる。

「どんな病だ、其れは」

 丁度問うた処で、階下へ向かう階段となり、言葉は一旦途切れた。

 踊り場から階下を望めば、ダンスホールにすら成り得るだろう広い広い空間が広がっていた。だが、其処から外に通じる扉は打ち壊され、優美な曲線を描いていた扉は跡形も無い。

「ああ、こんな処まで。本当に、売れなかったら如何してくれるのかしら」

 其の惨状に眉を潜め、少女は小さく吐息した。

「ああ、あの壺は良い物だったのに。ああ、あそこの……まあ、あれも、壊れてるわ」

 瓦礫を愛でる趣味は、此の国には無いと云うのに……そう嘆く少女へメイド長が労る様な視線を向け、男達は一様に押し黙る。

 仕方がないわと首を振り、少女はホールをぐるりと回ると、内庭に面した大きな柱を叩いた。大きな石造りの柱は少女のノックに応じる様に、音も無く大きな入り口を開ける。其の中には、暗い闇へ続く階段が存在していた。覗き見ていた男達がぎょっとするが少女は全く意に介さず、其の階段へ歩を進める。少女が歩く度に、階段は不可思議で清涼な光を放ち……あっという間に闇は駆逐され、狭い螺旋階段が光の中で浮かび上がった。

 精々、二列。

 狭い螺旋階段を騎士と兵士がぞろぞろと降りていく。と、途中からじわりじわりと階段の幅が広がり、最後尾の人間が外の光が感じられなくなる頃には、先頭の階段の幅はほぼ伯爵家邸の廊下の広さになっていた。

 広く明るい階段を降り切り、土色をしているのに妙に滑々とした質感の廊下を行く。

 其の先に、扉が在った。

 白金の細工扉。其の左右には、美しい白銀の甲冑に身を包み、得物を構えた騎士が二人、立っている。

 男達がざわりとする中、少女は満面の笑みを白銀の騎士達へと向けた。

「迎えが来たの」

 其の言葉に、白銀の騎士達は然様でと同時に言葉を返す。兜を被る騎士の顔は全く見えないが、少女への敬愛と忠誠は何気ない所作に溢れんばかりだ。

「貴方達も、解き放たれるわね」

 嬉しげだが寂しげな声音に、騎士達は再度然様でと返す。だが、其の視線はメイド長に据えられ、白銀の騎士達は忌々しげに云った。

「「何故、消えない」」

「私ガ、護ルワ」

 がしゃんと鎧が鳴き、騎士の得物である大剣と戦斧が危険な輝きを見せる。

「「悪霊風情が」」

「守護、ノ、成リ損ナイ」

 明らかに、険悪な雰囲気。

 だが、少女は慣れてる様で、呆れを強く含んだ声音で双方の意識を戻す。

「喧嘩は良いわ。早く開けて頂戴」

「「御意」」

「申シ訳、アリまセン」

 メイド長が控え、白銀の騎士達が其の拳で扉を叩く。

 体を真正面に向け、背後の壁を殴る様に。思い切り、思い切り。だが、音は不思議と響かず、騎士達が扉を叩く度に、其の色合いは薄れ、段々と消えていった。

 そして。

 大きく振り被られた手が、消えかけた扉に叩きつけられた瞬間。硬質な何かが砕かれる音が響き――――――眼前に、大きな大きな入り口が、口を開けていた。

 其の入り口の上には、白銀造りの、大剣と戦斧。

 掲げられ飾られた其れは、誇らしげに輝いている。

 だが、男達は其れに気が付かなかった。

 大きな入り口の向こう――――――其処には、広く長閑な村が広がっていたのだ。

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