目覚め
-在るのは、どこまでも続く闇ばかり……。
突然、暗闇だけの世界に光が射した。
(何だろう。眩しい……。)
俺は、あまりの眩しさに目を覆う。一瞬にして辺りが白い世界に変わった。カメラのフラッシュをたいたような光。
いきなりの事で驚いたが、このままではいられない。光の正体を確かめねば。
覆っていた手を離して、恐る恐る目を開けてみる。
そこは、いつも見慣れた自分の部屋。
あの暗闇は何だったのだろうと、ぼーっとした頭で考える。確か少女が……。
しばらくベッドでジッとしていると、徐々に目が覚めてきた。
頭もはっきりしてくる。
ああ、そうか。夢か。
充分に目が覚めたところで、ようやくベッドから出る。
部屋には、清々しい日の光が差し込んでいた。
あの夢の中では、考えられないくらい綺麗な光。
しばらく、光の世界に出られた喜びを噛み締める。
すると、腹が鳴った。どうやら、朝食が待ちきれないらしい。
俺は体に従い、素直にリビングに行ってみることにした。
リビングに行くと、母さんが既に朝食を用意してくれていた。
ト-ストの焼ける良い香りがする。
「あら、アラン。今日は早いのね。ご飯出来てるわよ。」
母さんがト-ストを運んでくる。
「ありがとう、母さん。妙にお腹空いちゃって。」
俺は苦笑いする。
そして、母さんが持ってきたト-ストに、すぐさまかぶりつく。
(美味い。)
あっという間に食べ終えると、コップにフルーツジュースを次いで飲む。
これでやっと、腹は満たされる。
「そういえば、父さんとス-ザンはどうしたの?」
食事が一段落したところで、疑問に思っていたことを尋ねた。
ス-ザンというのは、俺の妹だ。
いつもなら、二人は既に起きていて、朝食を食べているはずだ。
しかし、二人の姿はみえない。
「アラン、時計見てないの?まだ、寝てるわよ。あなたの方が早いの。」
母さんが、クスクスと笑いながら答えた。
(そういうことか。)
俺は時計を見ながら、納得する。
いつもの起床時間よりも、明らかに早い。たまには、こういう日があっても良いだろう。
食器類を片付けた所で支度をし、学校へ向かう。
「母さん、行ってくるね。」
「行ってらっしゃい。」
母さんが笑顔で言う。
「行って来ます。」
俺も笑顔で返す。
そして、通い慣れた道を行く。
俺の名前は、アラン・ノリス。
のどかな田舎町に暮らす、普通の少年だ。
温かい家族に恵まれ、仲の良い友達もいる。
比較的幸せな人生を過ごしていると、自分でも実感している。
「アラン、随分と早いな。」
歩いていたら、声をかけられた。
ぼーっとしていた俺は、声の主を確かめる。
声の主は、俺の親友の《レニー・ア-チャ-》だ。
レニーとは幼なじみで、子供の頃から仲が良い。
学校で一番喧嘩が強く、上級生三十人を一人でボコボコにした事がある。そんな事もあり、上級生であろうと、彼に喧嘩を挑もうとするものはいない。
だが、根は良い奴で、俺にとっては頼れる親友だ。
「珍しく目が覚めたんだ。」
俺は質問に答える。
「自分では、絶対起きないお前がか?」
レニーは驚いたような顔をする。
よっぽど珍しいのだろう。
「俺でも目が覚める事くらいあるさ。」
相変わらず、ぼーっとしたまま答える。
「そりゃあ、そうだろうけどよ。もしかして、いつもみるっていう夢か?」
「あぁ。」
俺は昔から、今日みたいな夢をよくみる。今日みたいに現実感のある夢は、初めてだが。
「そうか。お前も大変だな。」
こんな風に話しをしながら歩いていると、学校が見えてきた。
歴史を感じさせる、古い造りの校舎だ。
俺達は門をくぐり、校舎の中に入る。
校舎の中はシ-ンとしていて、生徒はほとんど登校していない。朝だというのに、薄暗く静かな校舎は、少し不気味だ。
「早く登校してみての感想はどうだ。」
レニーが聞いてくる。
「何か不気味だな。」
俺は苦笑しながら答えた。
「そうか?普通だぜ。」
レニーは全然感じていないようだ。何か出そうな雰囲気なのに。まぁ、出てもレニーなら大丈夫か。俺は、勝手に納得する。
「レニーだもんな。頼もしい。」
苦笑しながら答える。
「なんだよ。それ。」
レニーは拗ねたように答える。
「そのままの意味さ。」
しばらくして、生徒の数も増え、校舎は活気に満ちてきた。さっきまでも静けさが嘘のようだ。
すると、「アラン、どうしたの?」と次々とみんなから声を掛けられる。説明するのが嫌になるくらいだ。
俺が居るのが、そんなに珍しいのだろうか。
レニーはニヤニヤしているだけで、全然助けてくれないし。
俺は、早く登校した自分を少し恨んだ。