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平塚志之の日常-5

「まあそんなわけだから、シノさんのことは私が責任を持って仲間に引き入れるので安心してね」

 それを聞いてどう安心しろというのかわからないが、宇宙人の味方というのは頼もしい。情報の面でより優位に立てるし、技術的な支援も見込める。

 まずは先程の騒動で集まってくるであろう同類と接触し、できれば協力関係を築き上げる。それらの協力者達と独自のネットワークを構築し、いずれ現れるであろう『敵』に対抗する。それが普通の人間なのか他の改造人間なのかは、その時にならなければわからない。しかし、現れることは確実だ。

「それで、シノさんこの後どうするの? 今からでも家に帰れば、アリバイ作れるかもよ。それとも、世捨て人になって私と暮らす?」

「……いや、帰ろう。まだ私が今回の件の犯人であると疑われてすらいない段階だろう。メディアで報道されれば私に対する疑いは濃くなるだろうが、証拠を固めない限りは逮捕できない。まだ少しは時間がある」

「ふーん、そう」

 御厨は残念そうに顔をしかめ、何かを訴えるように上目遣いで私を見つめてきた。彼女の言動から言いたいことはある程度予測できるが、それを理由に私の行動が変わるわけではない。何を思うでもなくその視線を受け止めていると、やがて諦めたのか視線を反らして立ち上がった。

「まあ……仕様がないか。家まで送っていこうか?」

「いや、問題ない。身体も回復してきたし、何とか帰れるだろう」

「そう。じゃあ私は現場にいって証拠隠滅してくるね。連絡は、この通信機でよろしく」

 そう言って、御厨は小さな長方形の形をした金属片のような物を投げてよこした。厚さは一センチもなく、全体の大きさは手のひらに収まってしまうくらいだ。

「それ、無線機ね。側面にあるボタンを押すとスイッチが入る。私の名前を呼ぶと繋がるから、それで話ができるわ」

「わかった。用がある時は連絡する」

 私はそれ以上何も言わずに椅子から立ち上がり、出口へ向かった。アパートを出て、記憶を頼りに家路を急ぐ。

 例のごとくナノマシンで強化された五感を元に、通行人と接触しないよう気を付けながら、できる限り速く進んでいく。やがて十数分後には、自宅周辺数百メートル以内にまで近づいていた。行きと同じく赤外線感知で辺りを確認してみると、刑事達が乗っていると思われる車はまだ停車していて、中に人影らしきものもあった。彼らの視界に入らないよう気をつけながら、建物の屋根伝いに移動して二階の窓から中に入る。

 近くで起きた事件のことを彼らが知らないはずはないが、おそらく張り込みの方を優先したのだろう。家の中に入られて留守にしていることを知られたら一大事だったが、考えてみればたとえ警察と言えども他人の家に理由もなく侵入できるわけがなかった。

 身に付けていた衣類を、靴を含めすべてビニール袋に詰め込み、後で処分できるように部屋の隅に置いておく。

 さて、どうにか目的を達成することができたわけだが、問題は山積みだ。例えば今回の騒動で集まってくるであろう同類達をどう見分けるか。人物検索ソフトで場所がわかったとしても、その人物が抱える任務が倫理的に問題のあるものでないと、仲間に誘うことは難しい。それに今日会った青年などは確実に近くに住んでいるだろうし、下手をすれば再び痛い目を見ることとなる。

 どうしたものかと悩む私だったが、その問題も検索ソフトを使えば解決できることに気がついた。この前調べた東京都内の数人の候補者。その中から犯罪行為、もしくはそれに準じたことに手を染めている人物がいないかどうかを調べればいいのだ。

 肉体的にも精神的にも疲れていた私はさっさとベッドに入ってしまいたかったが、こればっかりは先伸ばしにできない。パソコンの電源を入れて検索ソフトを起動し、東京都付近に住む四人の候補者の中から条件に当てはまる人物がいないか検索する。幾度かの試みを経て、一人の人間が浮かび上がってきた。犯罪行為に対する拒絶的な感情はなく、むしろ日常的に犯罪に手を染めている。それが超人的な力を手にしたことの代償なのか元々そういう人間なのかは不明だが、接触してみる価値はある。

 私は翌日に向けて大まかな計画を立てると、その日は早めに就寝することにした。相手はナノマシンを体内に宿す超人だ。できる限り万全な体調に近づけておいた方がいい。

 今日私がやったことは、単なるきっかけに過ぎない。これを皮切りに、少なくとも日本という国は揺れるだろう。いや、昨今の情報化社会の実情を考慮すると、もはや国という小さな単位では計れない。

 ベッドに寝転んで明かりを消すと、何か時代のうねりのような途方もない流れに飲み込まれているような錯覚を覚え、私は軽く目眩がした。誰よりも普通の人間であると自負している私にとって、さながら舞台の主役にでも抜擢されたかのような一連の出来事は、言うまでもなく苦痛であり、抑圧であった。逃れるには、知恵を絞りうまく順応するしかない。


 徐々に暗転してゆく意識の片隅で、私は初めて『特別』という言葉について思考を巡らせていた。

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