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第9話青い小花柄のワンピース

気づいたらエンドロールになっていた。

しまった……とても映画どころじゃなかった……この映画凄く観たかったのに……。

 映画のエンディング曲を聴きながら倫は視線をちらりとスクリーンから蓮へと移した。

さっきの事など全く気にしていないという様子で唇に指をトントンとあて、エンドロールを観ながら

エンディング曲のリズムをとっている蓮。

 倫は、蓮の自分に対しての行動が不思議でたまらなかった。

 蓮が軽い人だって事は里香から聞いて知っている。

でも、蓮がイマイチどういう性格なのか倫はまだ判らないし、自分と出会う前の蓮の女の子への接し方

も知らないから蓮の自分に対する態度に一つ一つ困惑する。


「終わったな、出ようぜ」

 ホールが明るくなると、蓮は空の紙コップを手に取り一目散に立ち上がった。

「うーん、飯くいに行こうぜぇ〜」

 続いて直樹も背伸びをして立ち上がる。

「倫ちゃん、いこ」

 唯名は、まだイスに座ってボーっとしている倫に声をかけた。

 倫は色々な考えていて、ホールが明るくなっていた事も蓮達が立ち上がった事も気づかず、唯名の

一言でハッと我に返った。

「あ……うん」

 倫はほとんど蓮に飲まれたジュースの紙コップを持つと席を立った。


 四人は映画館から出ると地下の駐車場へと向かう。

 蓮と唯名は「あの場面が良かった」「あの男のあの台詞はいただけない」とか、映画の感想を楽しそうに討論している。

 そんな二人の後を倫は無言のまま俯き直樹とついて歩く。

「あの二人、映画観に行くといつもああなんだぜ」

 直樹が言った言葉に倫は顔を上げ「そうなんだ……」と漸く口を開いた。

あの二人本当に仲がいいんだ。今更知ったコ事じゃないけど……。

 倫は蓮と唯名の楽しそうに話しながら歩いている後姿を見つめると、胸が苦しくなり小さくため息を吐くとまた俯いた。

 そんな待ち合わせの時とは違う少し暗い倫の事を直樹は気にし「倫ちゃん、調子悪くなった?」と倫

の顔を覗き込んだ。

あ……きっと直樹くんに気づかれる……。

 直樹に蓮への気持ちを気づかれるんじゃないかと思い「あはは、大丈夫だよ〜」と何も無かったような感じの笑顔を作り倫は直樹に返事する。

「そう、ならいいんだけど」

「えへへ、心配かけてごめんね直樹くん」

 今度は倫が心配そうにする直樹の顔を覗き込む。

 そんな二人の仲の良さそうな姿を、唯名の車のドアの前で見ていた蓮はムッとすると、さっき以上複雑でモヤモヤした落ち着かない気分になっていった。


結局、今日、倫と蓮はまともに話す事もなく、目もまともに見ることなく終わった。

 倫は、帰りの電車、一人お気に入りの特等席に座り太ももの上の青い小花柄のワンピースを見つ

めた。

 蓮からこのワンピースの事に関して一言も聞けなかった。

憎まれ口でも言って欲しかった。

でも、自分が蓮を意識し避けた事、蓮が何度か話しかけようとしてくれていた事も分かっている……。

 唯名を送るために帰りも一緒じゃない蓮。

 蓮くん、今唯名ちゃんと何してるんだろう……二人は付き合い始めるのかな?

頭の中をそんな事ばかり駆け巡る。

「はぁ……」

 片思いってこんなにも苦しいんだ……。

こんな事なら今までみたいに恋になんか関心がなかった方のが楽だなと思う。

 揺れる電車と進む電車の音がいつもより、より一層大きく感じさせ倫の心を切なくさせる。

 私の恋は、私のこの想いは、何処まで走っていくんだろう?

 

 次の朝、倫はいつもの場所ではなく駅のホームのベンチで座っている。

今日はなぜかプラットホームにたくさんの高校生がいる。

あー、毎年恒例の社会見学。これじゃぁ、電車に乗れないかも……。

 倫がたくさんの高校生を見回していると、女子生徒が顔を見合わせ、きゃぁきゃぁと騒ぎ始めた。

ん、何があるんだろう?

この騒ぎにベンチから立ち上がった倫は、高校生の頭の中からずば抜けて高い頭が女子高校生達の視

線を浴びながらこっちに歩いて来るのに気づく。

「ふわぁ〜。おはよ〜、なんなんだよ〜これ〜」

 蓮は大あくびをし、眠そうな顔で倫の前で立ち止まった。

あ……。

 いつもと違って少しだらしなさそうな蓮も違った感じで格好いい。

「お、おはよう……」

 蓮と挨拶を交わす倫に周りの女子生徒の視線が一斉に向けられる。

ヤッ、こ、怖い〜どうしよう〜?

「……ちょっ、ちょっと離れてくれる?」

 女子高校生が自分を足の先から頭の天辺まで見上げている。

わわわ、朝からきつい。

「ほえ?なんで〜?」

 蓮はこんな場面に慣れてるのか周りの視線を全く気にすることなく、その場に座り込み、また大あくびをする。

「え、あ、だって〜」

 倫は涙目で恐る恐る女子高校生達を見ると「なんだあんな可愛い彼女がいるやん」と口々に揃え、女

子高校生は向きを変えた。

な、なんなのぉ?

 一瞬にして気が抜けた倫はまたベンチに腰を落とした。

「あ、電車来たぞ」


 電車の中は案の定、ギュウギュ詰で息もするのが苦しいほどの熱気だった。

う、暑い〜。

朝から散々な倫。

二人は込み合う電車の中、出やすいようにとドアの手すりのある位置に立つ。

 蓮は倫を手すりとイスの少し狭い間に立たせ、倫の前に立ち塞がった。

「すごいな、こんなん初めて」

 初めての事態に身長の高い蓮は電車内を見渡して言う。

「あれ、毎年一回だけあるでしょ?」

 毎年一回はあるのに初めてと言う蓮の言葉に倫は顔を見上げる。

「あー、俺、3月まで車で大学行ってたから……」

 蓮はそう答えると顔を倫の顔の前で止めた。

……あ、凄い至近距離。

でも、蓮の長身のおかげで助かったと思い、目線を蓮の顔から胸板へと移すと倫は蓮の身体が自分の身体にぴたっとくっついているコ事と蓮の身体からほのかに香る香水に気づく。

ど、どうしよう〜こんなにくっついてたんだ。

服越しに感じる蓮の体温に倫の心臓の鼓動は早くなり爆発寸前まできている。

ドキッ、ドキッ、ドキドキ……ドキドキッ……。

どうしよう〜こんなに密着してたらこの心臓の音、蓮くんに気づかれちゃうかもしれない。

 倫は辺りをちらっと見て、肩にかけていたバックを胸元に持ち替え真っ赤な顔で俯いた。

あ……。

 急に意識して俯く倫の旋毛を見て今度は蓮がドキッとする。

女にも、女の裸にも慣れているはずなのに、倫の旋毛すらも可愛いと感じてしまった自分に蓮は戸惑っ

た。

そういえば……。

 蓮はぴたっと引っ付いている身体の隙間から倫の足元を見て、今日はジーンズを履いていると確認し

なぜかホットすると、土曜日に着てた膝上までの青い小花柄のワンピース姿の倫を思い出す。

 華奢な倫の身体にすごく似合ってたワンピース。

『似合ってる』何度か言おうとタイミングを見計らっていたけど言えなかった。

心臓の音が蓮に聞こえないように遮ったバックからも、蓮には倫の体温が感じるような気がする。

「なぁ……」

 蓮は緊張して俯く倫の旋毛を見つめ、そっと話しかける。

「……な,何?」

そんな位置から声をかけないで……。

 倫は緊張で張り裂けそうな心臓の鼓動を押さえる為に胸元で持つバックをぎゅっと握り締め俯いたま

ま返事をする。

「土曜日に着てたワンピースさぁ……明日、着てこいよ……」

えっ、ワンピース?

「……」

 気づいてくれてるとは思わなかったワンピースの事が蓮の口から出た事に倫は驚き顔を上げまた蓮の顔を見る。

「あの花柄のワンピース、明日着てこいよ……」

 蓮は珍しく顔を真っ赤にすると鼻の頭を掻きながら照れくさそうに言うと電車の窓の外を見た。




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