第8話蓮の作戦
映画館に着いた四人は、あらかじめ蓮がネットで予約をしておいたチケットに記載してあるシアター1への席へと向かう。
「Fの7と……」
蓮はチケットを見てジュースを置くと席に着く。
私は……Fの8……。
倫はチケットに書いてある番号を見て席を見ると蓮が隣の席に座っている。
あ……蓮くんの隣の席。
座席は、倫、蓮、直樹、唯名の順だった。
いつも電車の中では蓮の隣に一緒に座っているけど、今日の倫の心臓はなぜかいつもの慣れている事
にすべて過剰に反応してしまう。
どうしよう……また、心臓がドキドキする……。
倫は俯きながら先に座る蓮の前を通り蓮の隣の席に座った。
「……」
自分の事を気にせずにさっさと先に座る蓮と倫を見て唯名は少しムッとする。
「おい、蓮、席、変わってやろうか?」
どうしよう…どうしよう、話しかけられたらどうしよう……倫がスクリーンを見ながら心の中で考えていると、丁度いい具合に唯名と蓮に気を利かせた直樹が蓮に声をかけた。
「……」
ナイス、直樹くん。ナイス直樹。
倫と唯名が直樹の言葉にホッとし、蓮の横顔を見た時、「んにゃ、面倒だからいい」と蓮は口にする。
えっ?
「……」
蓮以外の三人は蓮の返事に戸惑った。
「そ、そうか?唯名、蓮の隣に行く?」
直樹は今度、落ち込む唯名に気を利かせる。
「あ、うんん、いい」
唯名は蓮と仲良くする所を本当は倫に見せつけようとしていたのだけれど、蓮の一言で無駄になってしまう。
蓮のバカ…少しぐらい気を利かせてよ。
唯名は意地で直樹の横に座り真っ直ぐスクリーンを見ている蓮を不満そうな顔で見つめた。
一方、面倒くさいと言う蓮のただの言葉にすごく意識してる倫は、隣は壁状態。といった感じで依然蓮と話そうともしないし、顔も見ようとしない。
そんな倫に、珍しく話しをかけたくても話しかけられない蓮はホールが暗くなり映画が始まったと同時に倫のジュースにわざと手を伸ばした。
「はぁ〜、美味し!」
蓮の作戦で、自分のジュースが飲まれている事に倫は映画に夢中で気づかない。
「……」
蓮はまた倫のジュースを口にするが倫はまだまだ気づかない。
早く気づかないとジュースがなくなるぞぉ。蓮は映画そっちのけで倫の顔を見てる。
映画が始まって十分ぐらい経った頃、喉が少し渇いた倫がジュースに手を伸ばした。
今だ!
倫は自分のジュースの紙コップを掴もうとした瞬間、倫の手から紙コップがするりとすり抜けた。
「えっ?」
倫は驚き、何も気づかないような顔で自分のジュースを飲んでいる蓮を見た。
あ……それ、私のジュース。
蓮は倫が自分を見ている事に気づいてるが、わざと気づかないフリをして飲んだジュースの紙コップ
を元の位置に戻す。
「……」
う……。
いつもの倫ならすぐに何でも言えるけど,今日の倫は何も言えずただ飲まれたジュースの紙コップを見ていた。
そんな全く何も言ってこない倫に蓮はまた同じ事を繰り返す。
あ……。
今度は二度も自分のジュースを飲んでいる事に気づかない蓮の肩を倫は叩き「このジュース、私の」
と映画を観ているフリをしている蓮に言うが、蓮は「はぁ?」と聞こえないフリをする。
もぉ!倫は蓮が聞こえないんだと思い、蓮の耳元で話そうと近づいた時、蓮がふと横を向いた。
「……!?」
近づいた倫の唇に振り向いた蓮の唇がすっと触れる。
「わぁ」
倫は驚き、何も言えなく俯く。
やった!作戦成功で満足げにニコッリ笑う蓮。
そんな蓮とは反対に、どうしてこんな事ばかりするんだろう……?と倫は思う。
唯名が好きなはずの蓮が自分の事をからかって楽しんでるように感じ、倫は落ち込み泣きそうになる。




