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二人…出会えたから

最終回です。

 一年後。


 意識不明な祖父と残された椎名医院と祖母の為、倫達は日本に帰国した。

まさかこんなに早くこの空の下に立つとは倫は思いもしなかった。

蓮と彼女が子供と暮らしているかもしれないこの街に……。



 春の日差しが心地良く照らしている。

倫は、今、語学教室のフランス語教師をしている。

 電車のドアが開き、倫はいつものように一両目の真ん中の二人用のイスに座る。

このセキは大学生だった倫がお気に入りだったトクトウセキ。

もちろん今もそう……。

 倫はバックから本を取り出し読みかけのページを開く。

発車時刻になり電車のドアが閉まりかけたと同時にスーツを着た男が

駆け込み乗車し倫の隣にドカッと座った。

その拍子に倫の読んでいた本の一ページが折れた。


あっ……。


男はそんなコトは知らずバックで自分を仰ぎ始める。


もぉ……。


 倫は本を読みながら隣に座った男に腹をたてたが、

前にもこんなコトがあったコトを思い出す。


そういえば前にもこんなコトがあった。

初めて蓮と会った時のコトを思い出す。

丁度こんな頃。

暖かい日差しが窓の外から私を照らしてくれてた……。

今でも鮮明に覚えてる……。


「ふふっ」

倫は思い出し笑いをし、微笑みながら隣に座る男の横顔を見た。


「……」


男は、蓮……だった。


 倫は声もかけずに、ただ黙ってじーっと蓮を見つめる。

蓮はバックで扇ぐのを止めるとふーっと大きく息を吐いた。

何か視線を感じる……。

蓮はまたかと思い迷惑そうに隣に座る女の顔を見た。


「……」


倫……だった。


 二人は思いかけない再会に無言のまま見つめ合う。

倫と蓮、二人の間の空気だけが止まっているそんな感じがする。


 電車に乗っていればいつかは会えるんじゃないかと

思っていた倫の姿が目の前にある。

蓮は嬉しさのあまりニッコリ笑いかけると「お前、笑った方が可愛いと思うよ」

初めて会った時のように倫に声をかけた。


「まだそんなコト言ってるの?」

倫は呆れた顔で蓮を睨む。


「まぁね」

おもいっきりニッコリと笑う蓮


 一年以上ぶり。

変わらない二人。


「一年ぶりだね」

そんな蓮に倫はニッコリと微笑んだ。


「ああ……」


 倫は色々聞こうと思った。

蓮の子供のコトとか、幸せ?とか……。

 蓮は言おうと思った。

結婚はしなかったとか、あの日、空港へ行ったんだ……とか。

二人は何を話したらいいか分からず色々考えてると電車は次の駅で止まった。


「あっ!」

倫は辺りを見回し、慌ててバックに本をしまう。


「どうした?」


「私、ここで降りなきゃ。じゃぁ……」

後ろ髪ひかれる思いでセキを立つ倫。


「えっ?ああ……」

なぜか蓮も倫につられ慌てて一緒にセキを立つ。


「さよなら……」

倫は少し寂しそうな表情を浮かべると蓮に頭を下げた。


「あ、うん……」

また蓮も何か物足りず、寂しげな表情をするとゆっくイスに腰を下ろす。


 電車の中の蓮にニッコリと笑い手を振り歩いていく倫。


蓮が結婚をしていないというコトも知らずに……。


「はぁ……」

蓮は倫が見えなくなるまで見送ると俯き大きくため息をついた。

突然の倫との予期せぬ再会に何も話せなかった。

 「ダメだ、俺……」


 倫の心臓の鼓動はあの時のように壊れそうなくらい早く動いている。

今も蓮くんが好き。

蓮くんを愛してる。

帰国し、いつかは再会するかもしれない蓮に、いざ再会してみると、

前以上に蓮が好きだと思い知らされる。

倫の頬を一粒の涙が流れ落ちた。

「やだ……」

どうしよう……。

泣くのを必死で堪える。

苦しくて胸が張り裂けそう……。

けど、倫は前を向いた。

もう、終わったコト……だよ。……そう自分に言い聞かせ。



 午後六時三十分。

仕事を終えた倫は急いで駅に向かう。

改札で駅員に急いで定期入れを見せ、階段を駆け上がる。

 四十分。

この電車に乗らないと間に合わない。

 倫には、杏という八ヶ月になる女の子がいる。

そう、蓮との間にできた大切な子供。


 駅に着き、電車のドアが開くと今度は一目散に電車を降り歩き出す。

早く杏に会いたい。

早く会って、『ママ、今日、あなたのパパに会ったんだよ』って言いたい。


 急いで歩く倫らしき姿を、後部車両から降りた蓮は見つけた。

改札口を抜け、家とは違う方向へと歩いていく倫。

自分のマンションと同じ方向。

同じ方向を歩く二人。

蓮はタイミングを見計らい行き急ぐ倫に声をかけようと、足早に倫の後ろをついて歩く。


「あいつ、急いで何処に行くんだろう?」

あまりにも急ぐ倫のコトを不思議に思う。


 しばらくあとをつけていると、倫はあるマンションの一階の店舗の前で足を止め、

中に入っていった。

蓮も立ち止まりその店の中を覗いてみる。

えっ?

その場所に蓮は驚き、店舗の看板を見上げる。


「あ……」


そこは託児所だった。

保母らしき女性から渡され倫に抱きかかえられる女の子らしき赤ちゃん。

その倫の姿を見て蓮の頭の中は真っ白になった。

どういうコト……?

頭の中が混乱してる蓮。

蓮がしばらく考えていると、託児所から倫が出てきた。


「今日ね、ママ、杏のパパに会ったんだよぉ〜」

嬉しそうに子供に話しかける倫。

倫は目の前に立っている蓮に全く気がつかない。

嬉しそうに話している倫の首もとから杏は何かを引っ張った。


「あっ」


その何かは、倫の首元からパーンと離れ蓮の足元に落ちた。

蓮は自分の足元に落ちた何かを見つめた。

それは、自分がクリスマスに倫にあげたピンクシェルでできた

バラのクロスのネックレスだった。

しゃがみ込み蓮はネックレスを拾う。


「イヤだ。きちんと留めてなかったんだ」

倫もしゃがみ込みネックレスを拾おうと手を伸ばす。


倫は蓮を見て驚き立ち上がった。

「いつから……そこに?」


「はい、ネックレス」

蓮はゆっくり立ち上がり、倫にネックレスを手渡すと倫と杏の顔を見た。


「あ、ありがとう」


「もしかして、その子……?」


蓮の問いかけに、戸惑い首を振る倫。


「ち、違うよ。この子は、私がフランスで……」

言葉と一緒にこぼれ落ちる涙。

倫は慌てて涙を手で拭った。

そんな倫を見つめ蓮は切なそうに小さな声で「もう、いいよ……」と言う。

切なそうな蓮の顔。


「あっ、違うの。今の彼氏の……本当に……」

杏が自分の子だと知ったら蓮を苦しめると思い、倫は懸命にウソをつこうとする。

必死にウソをつく倫と自分の小さい頃に似た杏を蓮は優しい顔で見つめると、

杏も蓮を顔を見てニコニコと笑いかけた。

そんな杏のほっぺを蓮はそっと摘むと「もう、隠さなくても大丈夫だよ」と言った。


 大丈夫だよ。

それがどう意味なのか分からない倫。

倫は少し考え、恐る恐る蓮に聞いてみた。


「もしかして、彼女と別れ……たの?」


首をふる蓮。


「はじめからいなかったみたいなんだ。子供……」


「えっ?」


はじめから……いなかった?

その言葉を聞き、今までココロにいい聞かせてきた強がりが、

シャボン玉を割ったように倫のココロの中でパンッとはじけ散った。

 蓮は倫の手の中からネックレスを取ると、倫の首につける。


「倫、いっぱい、いっぱい傷つけてごめん」

倫の溢れ出る涙を親指でそっと拭う蓮。


「……」

今、私の目の前には蓮くんがいる。

もうなんの諦めもいらない蓮くんが目の前にいる。


「いっぱい、いっぱい、辛い思いさせてごめん」

もう、会えないかもと思っていた倫が目の前にいる。

蓮は優しくそっと二人を抱きしめる。


「蓮……くん」

倫はもたれるように蓮の胸に顔をうずめ泣いた。

小刻みに揺れる倫の華奢な身体。

こんな細い身体でがんばろうとしていた倫を今まで以上愛しく想う。


「もう、大丈夫だよ。これからはずっとそばにいるから」


「……」

倫は蓮の顔を見上げた。

優しく微笑む蓮がいる。


「今までの分、ずっとそばにいるから……」

手放したくなかった倫が、今、自分の腕の中にいる。


ずっと、そばにいるから……。

ずっと……。


 蓮くんと出会って、本当の恋を知った。

倫に出会って、本当に人を愛するというコトを知った。


辛くて苦しかったけどこれからは二人(三人)で歩いて行けれる。


二人…出会えたから。


           




最後まで読んでくださった方ありがとうございました。

前回なかったストーリを入れ直しました。

よかったら感想など頂けると嬉しく思います。

(あまり厳しい評価はへこむけど。。。)


**近々、続編を公開したいと思います**


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