表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

第36話後悔という名の責任

最近、また図書館に入りびたる元気のない蓮。

 直樹はそんな蓮に「今度、四人で温泉にでも行かねぇ?」と誘う。

「ん、二人で行っておいでよ」

 本を読みながら蓮は言う。

「……なぁ、蓮?」

「ん?」

「そういえばさ……」

 蓮の隣に倫の姿がなくなったコトを不思議に思い、直樹は、椎名は?と訊こうとした。

 その時、「お待たせ」

 本を読む蓮に声をかけたその声の主を見て直樹は驚いた。

 は、なんで?

「ああ……」

 蓮は、当然驚く様子もなく、冷めた瞳で顔を上げると本を閉じ席を立った。

 蓮の前に現れたのは倫ではなく須藤まみだった。

 どういうコト?

 直樹は驚きのあまり声を失い蓮の顔を見上げた。

「夜、お前んち行くわ」

 蓮は直樹にそう言い、机の周りを片付けるとバックを肩にかけた。

「あ、うん……」

「直樹先輩、すみません。私、蓮と一緒に帰るんで……」とまみはニッコリと言う。

「あ、そう。じゃぁ……」

 直樹はこの状況が読めず困惑した表情を浮かべる。

「じゃぁな、直樹。また後で」

「……」

 蓮はまみと図書館を後にした。


 どういうコト?何がなんだか直樹には理解できない。

 やっとの思いで椎名と通じ合えたと思ったら、いつの間にか須藤まみと一緒にいる。

「訳が分かんねぇ」

 直樹は机に肘をつくと大きくため息をついた。



 夜。

 蓮は、久しぶりに直樹の家へ行く。

「どういうコトだよ?」

 直樹は、自分の部屋に入ってすぐに蓮の顔を見てムッとしたように訊く。

「……」

 蓮は、何も言わず、缶ビールとつまみが入ったビニール袋をローテーブルの上に置くとクッショ

ンの上に座った。

「椎名倫は?」

 直樹は、あえてフルネームで倫の名前を口にし、腕を組み単刀直入に訊く。

 さっき図書館で聞きたかったが、まみが現れ聞けなかった。

「……」

 プシュ。

 ビールの缶を開け俯く蓮。

「間違っても、やっぱ好き過ぎて付き合えないなんて、俺には言うなよ」怒り口調気味に訊く。

「……」

 それでも何も言おうとはしない蓮。

 直樹は、ビニール袋の中に入った缶ビールを荒々しく取り出すと、ビールを一気に飲み干した。

「っぱー。言いたいコトがあるならさっさと言えよ」珍しく苛立つ直樹。

 蓮は、缶ビールをビニール袋の中からまた取り出し「子供ができたから、須藤まみと一緒にな

る……」と直樹の顔を真っ直ぐ見つめ真剣な表情で告白した。

「はぁ?」

 直樹は、耳障りになったうるさいテレビの電源を切ると、蓮の前にどかっと座った。

「……」

「あほか、お前?」

 いつも穏やかな直樹が物凄い荒々しい口調で蓮に言い放つ。

「あほ……だな?」

 ふと諦め笑いをしながら缶ビールの栓を開けまたビールを飲む蓮。

「好きでもない女と結婚したって上手くいくわけないだろうがっ」

「好きな女と結婚したって分かんないよ。そんなの……」

 直樹の言葉に反論するように蓮は答えた。

「なっ……」

 直樹は、蓮の言葉に首を傾げ呆れ果てる。

「……直樹、俺が今までしてきたコトって、いつかはこうなるん運命だったんだろうな」

 蓮は、直樹の部屋の天井を見つめ、深くため息をつく。

「……」

「こんなんなるんだったら、もっと早く倫に素直になっとけばよかった。……こんなんなるんだっ

たら、ウチの親みたいにお互いが嫌いになってから別れた方がなんぼか楽だよな」

 蓮は、悲しげに笑った。

「蓮……」

「結局、少ししか始まらないうちに自分から倫を失うハメになっちゃったよ」

 苦笑から徐々に泣き顔へ変わっていく。

「蓮……」

「やべぇ……うそ。俺……ごめん……」

 蓮の瞳から涙がこぼれた。

 倫が、好きで好きでたまらない。

 あんなに好きになれる女はもう現れない。

 蓮は、おでこに手をあてるとビールを一気に飲みほし、たえきれず泣いた。


 ……なんて声をかけたらいいのか分からない。

 直樹はしばらく泣く蓮の姿を、ただ黙って見ていた。


 しばらくし、黙っていた直樹が口を開いた。

「認知って、カタチじゃぁ……いけないのか?」

 蓮は、直樹の顔を見た。

 それでもいいかもと、蓮も一度は思った。

「……」

 でも……。

『……子供には両親が必要だよね』倫の言った言葉が頭をよぎる。

「別に、結婚までしなくてもいいんじゃないか?」

 そう言う直樹に、蓮は首を横に振った。

「ダメ……なんだ」

「なんで?分かんねーよ」

「そんなコト、あいつが許すわけない……」

「そんなコトないだろ?だってお前達は……」

 蓮は、直樹の言葉を遮るようにばっと立ち上がると、カーテンを開け曇る窓を手で拭き外

を見つめた。


 祖父母の家の自分の部屋の窓から、いつ迎えに来るんだろう?と待つ小学生の自分がいる。

 きっと、母親を失った倫も父親の帰りを窓の外を見て待っていたんだと思う。

 会ったコトがない小さい頃の倫を想像し、思い浮かべてみる……。

 窓の外、景色は違うけど……。きっと二人は同じ気持ち。

 同じ寂しさ……。

「俺達……小さい頃、お互いに寂しい思いをしてきたんだ」

「……」

「俺は両親と離れ、倫は母親を亡くして……」

 蓮が、両親のせいで寂しい思いをしてきたコトは、小さい頃からずっと一緒にいたから直樹も

知っている。

「蓮……」

「だから、自分の子供にはそんな思いをさせたくない……」

 倫だけじゃなく、それは俺でも強く思う。

「本当にお前の子なのか?」

 直樹の疑いに蓮はそっと頷く。

「ああ……。俺は、倫を忘れたくてあいつを無茶苦茶に何度か抱いた」

「だからって……」

「だから……」

 蓮は、曇り始めた窓ガラスを拭き、また窓の外を見つめた。

「だから?」

「……責任」


 今さら、後悔しても、後  後悔という名の責任。



悔しきれない……。

 責任……。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ