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第35話悲しいプレゼント

 新しい年を迎え、新たな気分でスタート?

大学が始まる。

クリスマスから蓮くんに会っていない……。

蓮くんから貰ったクリスマスプレゼントのネックレスは私の首元でキラキラと輝いている。

今でも信じられない。

ウソだったらどんなにいいのか、とも思ってみる……。

でも、どういう方向に進んでも、私にはもうどうするコトもできない……。


 

 「お・は・よ・う!」

弾んだ里香の声。

今はこの里香ちゃんが少し救いかも。

里香は朝からニコニコスマイルの上機嫌。


「どうしたの?」

倫は上機嫌な理由を里香に聞いてみる。


「ふっ、ふっ、ふっ。彼氏できちゃった」


顔を手で押さえ照れくさそうに言う。


「え〜!?いつぅ?良かったね、里香ちゃん」

自分のコトのように素直に喜ぶ倫。


「まぁ、さ、竹下くんよりは落ちるけどさ……」

里香は口を尖らせて言う。


「今度、会わせてよ」


「うんっ!今度、ダブルで行きますか?」

えっ……ダブル?そうか、里香ちゃんにまだ話してなかった。


「う、うん」

倫の表情が急に曇り空のような暗い表情へと変わる。


「そういえば、竹下くんは?」

里香は辺りを見回した。


「あ、今、忙しいみたいよ」

引きつる笑顔と咄嗟に出る言葉うそ……。

少し落ち込みかげんの倫を見て、里香は「喧嘩でもした?」と聞いたが、

倫は思いっきりブルブルっと首を横に振った。


「そう……」

そんな倫にしっくりこない里香は眉間にしわを寄せ倫の顔を覗き込む。


「急ごうっ」


「えっ」


「遅れちゃう〜」

今はまだ何も言えない倫は里香の手を引っ張り教室へと走り出した。



 蓮は今日も図書館で黙々と本を読んでいた。

その隣にいつもかったるそうにいるのは直樹と智史。


「お前、最近勉強しすぎ〜」

智史はぼやく。


「……」


別に勉強してるわけじゃなかった。

ここにいるのは考え事をするのに都合がいいだけ……。

最近、あまり図書館に行かなくなったと思っていたのに、

また図書館でこもりはじめた蓮を少し変だと思い「椎名となんかあった?」

と直樹はポツリと何気なく聞いてみた。


なんかあった?

図星……。

とんでもない図星。


「……」


本から目を離さず何も言わない蓮。


「あー」

直樹は頷きながらやっぱりという顔をしたがそれ以上蓮に何も言わなかった。

もちろん蓮も何があったかなんて直樹達には言わなかった。

言えなかった……。

今度は逃げてはいけないと思う。

今は、本当は誰とも会いたくない……。

でも、少しでも気を紛らわせようと大学に来る。

何も変わらない日。

そんな日が続く……。



 ある日、蓮が図書館へ行こうとすると図書館の入り口にまみが立っていた。

少し痩せた感じのまみ。

まみは蓮の顔を見るなりに突然走り出した。


「ちょっ……」

蓮は自分を見るなりに走り出したまみを追いかける。


「おいってばっ」

追いついた蓮はまみの腕をぎゅっと掴んだ。


「痛いっ」


「走ったら危ないだろぉ」

息をきらしながら心配そうにまみを見る蓮を見てまみの胸はキュンとなる。

好きで好きでたまらない。


「離してっ、先輩には関係ないじゃん!」

まみは蓮から顔をそらし、おもいっきり蓮の手を振り払う。


「お腹に……いるんだろう?」


「……」

まみは振り返り蓮の顔を見上げた。

蓮はまみのお腹をあごでふっと指し「その子、俺の子なんだろ?」と聞く。


「そうだよ。先輩の赤ちゃんだよ」

まみは瞳に涙を浮かべ言う。


「だったら、もう、強がんな……。分かったから……」

蓮はそうまみに優しく言うとそっと微笑む。


「えっ?」

分かったって……?

まみは蓮の言葉に驚いた。

まさか蓮の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

まみの瞳から止まるコトを知らないかのようにたくさんの涙が溢れ出てくる。


「それって?」

分かったというコトは、答えはひとつしかない。

そう思うが、まみは蓮の両腕を掴み白い息を吐き聞いてみる。

蓮はまみの瞳を見て、少し寂しそうな表情を浮かべるとこくりと頷いた。


「ほんとうに?」

泣き顔から徐々に笑顔へと変わるまみの顔を見て、

蓮は優しく微笑むと「ああ……」とまた頷く。

まみは嬉しさのあまりおもいきり蓮を抱きしめた。


「ぐすんっ。嬉しい。まみ、いいお嫁さんになるから。

先輩に似合ういい女になるから」

大泣きするまみの腰に蓮はゆっくりと手をまわした。


 倫の肌の温もりを忘れたくて利用した身体。

倫をこれ以上好きにならないように、無我夢中で無茶苦茶に抱いたまみの身体……。

その行動が、まさか本当に倫を忘れなくてはいけなくなってしまうなんて……

あの時は思いもしなかった。


 蓮はまみを抱きしめそっと瞳を閉じると、

……ごめん……。

ココロの中で自分に向けて優しく微笑んでくれる倫の顔を浮かべ謝った。


 大切なコトを教えてくれた倫。

倫、ごめん。

俺、今度は逃げない……。

今度は逃げない。


 

 一月二十二日。

今日は倫の誕生日。

蓮が出した結論を倫はまだ知らない……。


 朝。

蓮くんから久しぶりのメール。


…今日、帰り図書館で待ってて。…


いつもと変わらない短い蓮くんのメール。

でも、このメール、私には分かった。

誕生日のメッセージを伝えたいんではなく……サヨナラメール。


 

 授業を終わらせ、図書館の前で蓮を待つ倫。

もう、涙は流さない……。

この一ヶ月、たくさん泣いたし、たくさん考えた。

何度か諦め、何度か夢であって欲しいと強く願った。

でも、こない蓮くんからのメール、蓮くんと会えない日々が

やっぱり本当なんだ……と……。


「よぉ……」

一ヶ月ぶり?ぐらいに会う倫と蓮。


 蓮くん、フインキが違う。

目の前で止まる蓮を倫は見上げた。

髪の毛染めたんだ……。


「蓮くん、髪の毛真っ黒にしたんだ」

何も無かったように明るい口調で話す倫。


「あ?ああ……」

でも、蓮の顔からは笑顔はない。


 もう、分かってる。

言葉にしてくれなくても伝わる。

少し震える身体と自分の腕をそっと掴む倫。


「話……あるんだ」

そう言うと蓮はアスファルトに目を向ける。


「……」


 ドクンッ……ドクンっ…………。

もう、分かってるはずなのに、真正面から『話……あるんだ』

なんて言われると今まで以上緊張してしまう。

大きく動く心臓の鼓動が自分を支えきれなくなる。


「俺……」

蓮は閉じていた唇をゆっくりと開き言葉を出そうとする……。

重たく感じる心臓の鼓動が、今度は倫の呼吸を苦しくさせる。


 ドクン……ドクン……ドク……ン。

心臓の鼓動が……物凄い音で聞こえる。

言わないで……もう、分かってるから……。


「分かってるっ!」

倫は咄嗟に蓮の唇に自分の手を押し当てた。


「……」


 泣かない……泣かないって決めてたのに……涙が溢れてくる。

蓮は冷たくなった手で倫の手をそっとどかすと、

泣きそうな震える声で、一言「ごめん」と呟いた。


「……」


…………ごめん…………。


 蓮は倫の手から自分の手を離し、

一瞬、瞳を閉じると握りこぶしを震わせ倫のもとを去って行った。


 溢れ出していた涙が、蓮を諦めたかのようにウソみたいに止まる。

もう、涙さえでないの?

倫は綺麗な青い雲ひとつない空を見上げた。

どうして今日の空はこんなに綺麗……なんだろう?

もう……涙さえでない。

産まれてはじめて蓮くんから貰った誕生日プレゼント。

初めて本当に好きになった人から貰った誕生日プレゼント。

それは、

……サヨナラ−






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