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第33話私達は何処に行くのだろう?

いっこうに止まない雨……。

あれから私はどうしたんだろう……?。

雨に濡れたバックを拾って、蓮くんの顔を見て

……そこまでしか覚えていない……。

もう、どのくらい時間が経ったんだろう?



ー「私、産むから……」

まみはそう言い放つと、その場を去ろうとした。


「ちょっ、ちょっと待てよ」

まみの腕をぎゅっと掴む蓮。


痛っ!

凄い力と怖い表情の蓮。


「私、産むから。絶対、産むからっ」

まみは蓮の手を払いのけ、蓮を睨むと立ち去った。



「……」


傘を地面に落としたまま愕然とする蓮。


「……なんなんだよ……」

握りこぶしを震わせ自分の太ももを何度も叩く蓮。


「畜生……何なんだよ。今になってツケかよ」

蓮はそう言うと、下唇をぎゅっと噛みしめた。



 次の日、蓮は大学を休み、

まみのバイト先のコンビニの顔見知りの店員にまみの携帯電話の番号を聞き出し、

まみの家近くの喫茶店にまみを呼び出した。


「ごめんな、呼び出して……」

蓮はタバコを灰皿に押し火を消す。


まみは首を振った。


「俺とさ、お前……。お互いなんの気持ちもないのに、

ただ子供ができたからって産むのは変じゃないか?」

まみには何の感情もない冷めた瞳で蓮はまみを見る。


「……」


「お互い何も知らないのに産むなんて簡単に決めるなよ……」


「先輩にはなくても私には、気持ちあるから……」

まみはきっぱりと答える。


凍りつきそうな蓮の瞳。

蓮は、またタバコに火をつけると大きくため息をつく。


「私、一人でも産むから……」

強く言い切るまみ。


「……」

蓮は呆れた表情で灰皿にタバコを擦り、テーブルの上の伝票を取るとまみを置いて店を出た。


 

 心臓がドキドキする……。

怖かった……先輩の顔。

でも、もう後戻りはできない。

行くところまで行ってしまおう。

自分で決めたコトだから……。

まみは灰皿の中に捨ててある蓮の吸ったタバコの吸殻を見つめた。



 今日、蓮くん大学に来なかったな。

あれから連絡もないし……どうしたんだろう?

倫は不安を抱え、駅までの道を一人俯きながら歩く。


「倫……」

自分を呼ぶ優しい声に倫は顔を上げると、目の前に蓮が立っていた。

見つめ合う二人。


「今日、大学に来なかったね」

倫は少し微笑んだ。


辛そうな蓮の顔。


「ん……」


続かない……。


「……」


……会話。


「話……したんだ。……あいつと……」


「そう……」

倫は俯く。


「産むって、いってんばりで……」


その言葉に、倫の胸は張り裂けそうになった。

いつもとは違う、ド……ン。とした重い心臓の鼓動。


このまま二人で何処かへ行ってしまおう……。

そんな言葉を口にしてしまいたくなる。

でも……二人とも口にはできない。


 倫は震える言葉にならない声で「蓮くん……どうするの?」と聞いた。


「……俺、産むなんて言われても……別にあいつとは……

あいつのコト、全然知らないし……」


あいつのコト全然知らない……。

蓮のその言葉に倫は顔を上げ、

「蓮くん、赤ちゃんって、一人じゃ……できないよ」

と悲しそうに瞳に涙を浮かべ言う。


「……分かってる」


「蓮くんがしたコト……もう、あなたひとりの問題じゃないし、

あなた達だけの問題じゃないよ」真剣な顔の倫。


あなたひとりの問題じゃないし、あなた達だけの問題じゃない……。

倫の言葉が蓮の肩にドンと重く圧し掛かる。

きっと、自分以上にショックを受けているはずの倫。

その倫の口からその言葉を言わせるのはとても惨いコト……。

俺は……。


「……」


「赤ちゃん……もう、お腹で生きてる」


「……」


「蓮くん」


「ん?」

蓮は、涙で溢れた倫の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「私は大丈夫だから、彼女のコト、真剣に考えてあげて……ね」


倫は瞳いっぱいの涙を零し、本当は言いたくない言葉を、口に……する。


倫は涙を拭い歩き出す。


「……」


 倫に出会って、初めて好きな女を他のヤツに渡したくないと思った。

この恋を、この女を……産まれて初めて、大切に、大事にしたいと…そう思った。

そんな大事なコトを、大切なコトを気づかせてくれた倫を、

自分がしたいい加減なコトで、一番傷つけるコトになってしまった。


悔やんでも、悔やみきれない……。


私達は何処へ行くのだろう?












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