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第32話降り出した、雨

もうじきクリスマス。

嬉しくて気持ちが弾む。

蓮くんとこうして、ずっと、ずっと、一緒にいたいなぁ……。

こんなに幸せでいいのかな?


 十二月二十一日。

倫は蓮といつものように一両目の真ん中の倫のお気に入りのトクトウセキに座る。

前のように一本遅い電車。

大学までは早足で行かないといけないけれど、

この時間ならサラリーマンが少なくてお気に入りのトクトウセキに座れる可能性が多い。

この席で倫は蓮と出会った。

今はもう、電車で本を読むコトはない……。



 駅に着き、改札をぬけ、大学までの道を二人で歩く。


「おはよう」

里香が歩く倫の背中をポンッと叩く。

「「おはよう、里香ちゃん」」

倫と蓮はお互いに呼吸を整えたかのように口を揃えると

「あー、もぉ、嫌だっ。この二人」里香は口を尖らせ言う。


「もぉー、何?里香ちゃん」


「別にぃ〜、竹下くんも倫もなんかフインキ変わったね。いい感じになった。

まぁー私は、前の軽い感じの竹下くんの方が好きだけど……」

里香はニヤリと笑った。


「じゃぁ、戻ろうっかなぁ?」

倫の方を見て蓮は悪戯っぽく笑う。


「やめてよ」

怒りながら蓮の腰を叩く倫。


「あーもうっ!熱い、この二人っ。私、先行くね〜」

里香はそう言うと手を振って走って行ってしまった。


「里香ちゃんって、いっつも明るいね」


「うん。いい子でしょ?」

倫は里香の後ろ姿を見ながら微笑んだ。



 午後になり、窓の外は急に暗くなりあやしい空模様なる。


「嫌だな……本当に降るのかなぁ……」

里香は不安そうに空を見る。


「うーん。なんか嫌な感じの空だね」

倫も空を見上げた。


グレーの雨雲を見ていたら、なぜだか胸騒ぎがしてきた。

空模様と同じように、なぜかすごく嫌な気分になる……。

なんでだろう?



 倫は里香と別れ、まだ講義中の蓮を図書館で本を読みながら待っていると、

後ろから何か視線を感じた。

身体がぞっとする。

嫌な視線に後ろを振り返って見ると一人の女の子が自分をじーっと見ている。


えっ、ヤダ、何?


突き刺さるような視線。

けど、倫はまた本を読み始めた。

倫は彼女が誰だか知らない。



 しばらくすると講義を終え、蓮が図書館にやって来た。


「ごめんな、雨降ってきたよ。帰ろう」


「あ、うん」

倫は蓮の顔を見てホッとするともう一度女の子がいた方をチラッと見た。


はぁ……。

女の子はもういなかった。

誰だったんだろう?

倫は首を傾げ、本をバックにしまうと席を立った。



 外は凄い雨……。

傘をさしてもダメな感じ。

電車に乗り、倫と蓮はびしょびしょのコートを脱いだ。


「すごかったね」

倫は長い髪の毛をハンカチで拭く。


「あーほんと」

濡れた頭を軽く揺する蓮。


あ、蓮くんの髪の毛が雨に濡れてストレートになってる。

倫はうっとりと蓮を見つめた。


「タバコ吸いてぇ」


倫は急に寒くなり身震いをした。

「寒い……」


「大丈夫?」

蓮は心配そうに倫を見た。


「あ、うん」

吸い込まれそうな澄んだ瞳。

私、この瞳に惹かれたのかな……。

ずっと自分を心配そうに見る蓮に倫の顔は急に真っ赤になり、

心臓の鼓動はドキドキと早く打ち始める。


「倫、顔が赤いぞっ。熱がでてきたんじゃないか?」

蓮は慌てて倫のおでこに手をあてた。


「……」


ドキ……ドキ、ドキッ……。

触れる蓮くんの手。

気が遠くなりそう……。

トローンとした瞳で倫は蓮を見つめる。

少しずつ開く桜色の唇……。

そんな倫の顔を見て、ドキッとした蓮は倫のおでこからパッと手を離した。


「熱……は、ないな……」


「あ……うん……」

どうしよう。

心臓がドキドキして……破裂しそう……。

二人はこんな場をどうしていいのか分からず俯いた。


 ずっと一緒にいるのに、いまだにこんなフインキに慣れない。

ただ瞳を見ただけでもすごく意識してしまう……。

恋愛初心者の自分を恥ずかしいと思ってしまう。

こんな私に気づかないでね。

倫は自分の胸に拳をあて、蓮に気づかれないようにそっと深呼吸をした。


 どんな女と一緒にいても、

何人かの女のあんな表情を見てきてもこんな気持ちにならなかった。

今すぐ抱きしめてしまいたい…。

いつもそう思う。

倫の表情、仕草、一つ一つが愛しくてたまらない。

……俺……倫と一秒でも離れたくないと思う。


「今日も……うち、来る?」

珍しく照れくさそうに蓮はポツリと言う。


「え、あ……うんっ」

そんな蓮の誘いの言葉に倫は嬉しそうにニッコリと微笑むと頷いた。


 駅に着いてもいっこうに止む気配のない雨。

倫と蓮は傘をさし、蓮のマンショへ帰ろうとする。


「蓮先輩っ!」

歩く二人の後ろから、雨の中、誰かが蓮を呼んだ。

倫と蓮は同時に振り返る。


「あ……」

さっき図書館にいたショートカットの女の子?

倫は図書館にいた女の子の姿を思い出す。


「須藤……」

蓮は、最近自分の前に姿を現さなかったまみが久しぶりに現れて、

またかという表情を浮かべる。


「蓮くんの知り合いだったんだ」


「なんで、お前知ってんの?」

不思議に思った蓮は倫に聞く。


「あ、さっき図書館で見かけたから……」


「ふーん、そうなんだ」


 まみは倫にニッコリと微笑み丁寧にお辞儀をすると、

蓮の前で足を止めると蓮の顔を見上げた。

じーっと蓮の顔を見つめるまみ。


なんか嫌な胸騒ぎがする……。

倫と蓮はそう感じる。


「あのね……」

俯くまみ。


「なんだよ?」


「うん、あのね……」


「何だよ?言いたいコトがあるなら早く言えよ」

じらすまみにいつものように少しイラつく蓮。

そんな蓮とまみを、倫は、何だろう?という感じで、

ただ、黙って立って見ている。


「私ね……」


「なんだ……?」

苛立ち腕を組みはじめる蓮にまみは顔を上げると、

「私、先輩の赤ちゃんができちゃった」と告げる。


ドサッ!


倫の手から、雨で濡れたアスファルトの上にバックが落ちた。


「あ……」

お気に入りのバックが……雨に濡れる……。

倫は何が起こったか分からない様子で雨に濡れるバックを見つめる。


「……」

蓮は口を開いたまま、ただ驚いた表情でまみを見ている。


思いもしない、考えもしない……突然の言葉。

三人は沈黙のまま、ただ、ただ……この雨の中立ち尽くしていた。










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