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第31話ありがとう

「りーん」


図書館に向かうガラス張りの渡り廊下で倫は名前を呼ばれ振り返った。


「……」


「図書館行くんでしょ?一緒に行こう、倫」

声をかけたのは佐奈だった。


「佐奈ちゃん」


「発音のコトで聞きたいことがあってさ、教えて?」


「うん、いいよ。がんばってるね、佐奈ちゃん」


「恋愛がダメだから、せめて勉強ぐらいはね」

佐奈はため息混じりに言う。


「佐奈ちゃん、好きな人いるんだ」


「いたけど、失恋かな?」


「えー、佐奈ちゃんでも失恋すんの?その人の目、節穴だね。

こんないい女フルなんて……」倫は佐奈の失恋相手に怒った様子で佐奈の顔を覗きこんだ。


「あはは」

佐奈は自分の顔を覗き込む倫を見て笑った。

まさか、その節穴の目の奴が、当たり前だけど倫は自分の彼氏だとは知らない。


「どうして笑ってるの?」

倫は自分を見て笑う佐奈の顔を見て不思議そうな表情をし、聞く。


「うんん、別に……」


「その人、彼女とかいるの?」

倫は何気なく聞いてみる。


いるよ。


「うん、いるよ。この間、すごく綺麗な彼女フッて、

今度は、可愛いけど無愛想な女と付き合い始めたんだよ」


「えっ?」

倫は佐奈が話す、綺麗な彼女、無愛想な女という言葉に嫌な感じがした。


「あ、そのフラれた綺麗な彼女が前から歩いてくる」

佐奈は図書館からこっちに歩いてくる唯名を見つけると、

あごを上げ、ほらっという素振りをする。


「えっ?」

倫は佐奈と同じ方向を見る。


歩いてくるのは唯名だった。


唯名ちゃん?

唯名は立ち止まることなく倫と佐奈の横を通り過ぎた。

相変わらず歩く姿も何もかも綺麗で、

唯名がいると周りの学生達はうっとりと見入ってしてしまう。

倫は唯名が通り過ぎた後、佐奈の失恋相手が蓮だと知り、驚き、佐奈の顔を見た。


「ごめん、倫。ちょっとあんたに意地悪したくなった」

暗い表情を浮かべ佐奈は倫に謝った。


「佐奈ちゃん」


「悔しかった。竹下くん、なんで倫とは付き合えたんだろうと思って。

でも、なんか分からないけど、倫だからかな?なんて思ったりもして……」


「佐奈ちゃん?」


「金城さんもそう思ったのかな?ね、倫」

佐奈は倫の顔を見て、今度はニッコリと微笑んだ。


「佐奈ちゃん、ごめん。先に行ってて」

倫は佐奈の言うコトに、唯名に言わなくてはいけない言葉があると気づいた。


人を傷つけてまで成した恋だからこそ、ずっと大切にしたい。

でも、このままではいけないと思う。

どんなに酷いコトを言われても、この恋を幸せに前進させるため、

傷ついた人の気持ちを受け止めないといけないと思う。

倫は唯名を追いかけた。


 「唯名ちゃん、あのっ……」

倫の呼びかけに唯名は振り向いた。


「倫ちゃん?」

驚いた様子の唯名。


「あの……ごめんなさい。謝って済むわけじゃないけど……」

倫は唯名に頭を下げた。


「倫ちゃん」


「でも……私、どうしても蓮くんが好きだからっ」

瞳に涙をいっぱい浮かべ倫は唯名に言い放った。


「蓮があなたを好きなコトも、倫ちゃんが蓮のコトを好きなのも、

だいぶ前から気づいてた」唯名も瞳にうっすら涙を浮かべると倫にそっと微笑んだ。


「唯名ちゃん?」


「あなた達、本当に鈍感で不器用なんだもん」


「……」


「カフェテリアで初めて倫ちゃん知った時も、ホームパーティーの時に私といても、

映画に行っても……気づくと蓮はあなたを見てて……ほんと腹が立った。

あなたがフランスに帰った時は、正直、私、二度と帰ってこなければいいのにって……思った」

唯名は早口で言う。


「唯名ちゃん……」


「あなたがいないうちに、もう一度、蓮の気持ちを取り戻そう、

蓮が付き合ってくれるコトは私のコトをもう好きではないってコトだけど、

付き合えばもう一度私のコトを好きになってくれるって、そう思ったけど……無理だった」


「……」


「どうして倫ちゃんは蓮を変えるコトができたんだろう?」

唯名は倫の瞳を見つめた。

純粋な綺麗な大きな瞳で自分を真っ直ぐに見つめる倫。


「……」


「恋愛は理屈じゃないんだって……」


「唯名ちゃん?」


「それは、きっと、倫ちゃんだから……なんだよね?」


「……」


人を好きになるのに理由なんていらないし、あの日がどうなんてそんなコトもいらない……。


「あー、もぉ、何言ってるか分かんない。何が言いたいんだろう?私……」

唯名は首を振った。


倫ちゃんだから……唯名の言葉が、胸の奥深くに、じんわりと響く。

私だから……?

人の彼を取ったこんな私にそんな言葉を言ってくれる唯名ちゃん。


「唯名ちゃん……」


「でも、きっと、相手が倫ちゃんだから蓮を渡せるコトができたんだろうと思うの……」


こんな酷い私に唯名ちゃんは……。


「ごめんなさい」

倫はココロの底からもう一度唯名に謝った。


「謝らないで……。蓮が、私じゃなく本当にココロからあなたと一緒にいたいと思って

倫ちゃんを選んだんだから」


「唯名ちゃん」


「だから、ごめんじゃなくて、渡してくれてありがとうね。で、ね……なんちゃって」

唯名は倫の胸の前にそっと手を差し出した。


「……ありがとう、唯名ちゃん」

差し出された唯名の手を倫はそっと握る。


「どういたしまして」














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