第30話ごめんなさい
二人。
お互いの想い合う気持ちはやっと通じ合えた。
通じ合えたその後、倫と蓮にはお互いそれぞれに傷つく人が隣にいる。
孝司と唯名。
倫は朝早く蓮と別れ、いつものように孝司と大学へ行く時間の電車に乗り、
孝司は次の駅でいつものように乗車してくる。
「おはよう、今日も混んでるね」
「おはよう」
昨日何もなかったようなフリをする二人、でもどことなく少しぎこちない。
公園でのコトがお互いの頭をよぎる。
「ごめんね」
孝司は倫にポツリと謝る。
謝らないで……。
倫はそう思った。
「あ、私の方こそ……急に先に帰ってごめんなさい」
いつも心地良かった電車の音が今日はとても居心地悪く感じる。
二人はつり革に手をかけ、黙ったまま大学のある駅まで電車に揺られた。
電車が駅に着く。
電車を降りた倫は、朝からどう孝司に別れをきりだそうかタイミングをみる。
孝司はいつもとは少しフインキが違う倫に、昨日のコトのせいだと少し戸惑ったが、
このまま無言のままで歩くのもなんだと思い「倫ちゃん、あのね……」と口を開いた。
今しかないっ……。
倫は、孝司が自分に声をかけたと同時に顔を上げた。
「先輩っ……」
倫の声と同時に電車が通り過ぎた。
孝司は身動きするコトなく倫を見つめる。
電車の通り過ぎる音で聞こえないのか、
数秒経った後「えっ、何?」と孝司は倫に聞き返した。
聞こえてなかったんだ……。
もう一度、言わなくちゃいけないなんて……イヤだ。
でも…………。
言わないと先には進めない。
倫は目を瞑り、深く息を吸い込み「ごめんなさい。私と別れてください……」
……もう一度、口にする。
孝司は少し怒っているような表情で倫を見つめると、
倫が口に出した言葉に返事もせず振り返ると、倫をその場に残しそそくさと歩き出した。
孝司の背中を見る倫。
何も返事をしてくれない孝司にどうしたらいいのか分からなかった。
でも、倫は孝司を追うコトも孝司の名前を呼ぶこともしなかった。
「ごめんなさい……先輩」
蓮は講義が終わった後、唯名を講堂に呼び出した。
「珍しいね、蓮から私を呼び出すなんて。何かあるの?」
唯名はなんとなく気づいてるよう。
蓮は、唯名の目を真っ直ぐ見ると、迷うコトなくも躊躇するコトもなく
「ごめん、俺と別れてくれ」と言った。
唯名はそんな蓮に微笑し、
「いつもみたいに遊びでもいいじゃない。
蓮、好きな子がいてもいつもそうしてたんでしょ?」と蓮のコートの生地を摘んだ。
唯名の言葉に首を振る蓮。
「もう、自分にも誰にもウソはつかない……ウソはつかないって決めたんだ……」
その蓮の言葉に唯名は悲しそうな表情を浮かべると窓の外を見た。
「あなたが倫ちゃんを好きになっているのはだいぶ前から気づいてた……」
「……」
蓮は驚き唯名の横顔を見た。
「蓮の気持ちが私にはもうないって分かってた。
でも、蓮は好きな子とは付き合うコトができないって直樹から聞いたコトがあったから、
蓮の隣にいれるだけでも良かった」
唯名の頬にそっと涙がつたう。
「唯名……」
「私は蓮が好きだから……」
「……」
唯名は涙で溢れた瞳で蓮の顔を見つめた。
「でも……もうダメみたいね」
こんなに早くダメになるとは思わなかった。
「ごめん……唯名」
「蓮……」
「ん?」
最後にこれだけは蓮の口から聞いておこうと唯名は思う。
「倫ちゃんと出会う前は、私のコト好きだったんだよね?」
蓮は涙を流す唯名に優しく微笑みかけ「ああ……」と頷く。
それだけでも良かったのかな?と唯名は思う。
「よかった……」
鼻をすすり零れ落ちる涙を手で拭い、
唯名はニッコリと微笑んでまた蓮を見つめる。
「……」
「ありがとう。蓮……別れてあげるよ」
「唯名……」
「まぁ、私ぐらいの女なら、蓮よりもっと他にいい男なんかすぐ見つかるだろうしね」
強気で泣き顔で笑ってみせる唯名。
「ああ……」
「また、前のように友達に戻れるよね?」
「ああ……」
「……今までありがとう」
「……」
「じゃぁ……さようなら……蓮」
唯名は手を振ると蓮に背中を向け講堂を後にした。
離したくはない蓮を離したのは、あんな蓮の顔を初めて見たから。
悔しいけど、私じゃ、蓮を変えるコトはできなかった。
私じゃ、ダメ……だと分かってたから……。
蓮、愛してるよ……。
唯名はココロの中で、本当は今でも口に出したい言葉を呟いた。
大学が終わり、蓮は駅のホームで倫を待っている。
「ごめーん。蓮くんっ」
倫は息を切らしながら走ってくる。
「何してたんだよ〜遅いっ!」
蓮は待ちくたびれ、少し不機嫌そうに言うと倫のおでこにデコピンをした。
「もぉ、痛いっ」
倫はブーツのつま先で蓮の足を軽く蹴る。
「あっ、出たな。ほんと、お前気強ぇーな」
「うるさいっ」
倫は膨れ顔で蓮を横目で見ると、蓮はニッコリと笑い返す。
「お前、ほんと可愛いよ」
倫は蓮の言葉に照れ笑いをすると二人は幸せそうに見つめ合った。
「電車、来たね」
「今日、うちでメシ食ってけよ」
「え〜、どうしようかな〜?」
「あっ、そんなコト言うぅ?」
「うそうそ」
そんな幸せそうな倫と蓮の姿を後ろで誰かがじーっと見つめていた。