第29話過去
産まれて初めて口にした。
アイシテル……。
こんなに人を愛するなんて思わなかった。
倫と蓮は今まで口にできなかったぶん、お互いに触れられなかったぶん愛し合った。
それはこの間の激しさとは違う。
幸せな時間……。
倫はベットの中から蓮の部屋を見渡す。
モデルルームの様にセンスがいい広い部屋には、大きなプラズマテレビとローテーブル、パソ
コンデスク、観葉植物だけが置かれている。
「部屋もベットもこんなに広かったんだ……」
「えっ、前に来ただろう?」
蓮はタバコに火をつけ起き上がった。
「あの時はなんだか……」
倫はこの前の激しかった蓮の行動を思い出し、布団で顔を隠した。
「お前、俺が初めてだったんだ」
蓮はタバコをくわえ、布団からはみ出している倫の頭にそっと手をかける。
「蓮くんは?」
起き上がりふくれた顔で倫は蓮を見ると、蓮はタバコの火を灰皿で消しながら平然とした顔で
「違うよ」とあっけらかんに答えた。
分かっていたけどショック……。
「そうだよね」
倫はショックを隠すように少し強気で気に入らないといった様子で言い俯く。
そんな倫の横顔を見て蓮は「好きな女を抱いたのはお前が初めてだよ」と真顔で言った。
倫はその言葉に胸がキュンとなる。
イヤだ……蓮くん。
倫は物凄く恥ずかしくなり話題をそらせようと明るい声で「そうだ、この間ねっ……」と話し
だした時、「俺さ……」蓮は口を開いた。
悲しそうに床を見つめる蓮。
「……」
「うちの両親さ、すごく仲が良かったんだ。小さい頃、母さんがよく『ママとパパは大好き
で大好きで結婚したんだよ。それで産まれたのが、蓮、あなたよ。だから、蓮はママとパパ
にとってかけがえのない大事な宝物なんだよ』って……」
「うん」
「そんなコト、毎日のように俺に言ってた母親がある日学校から帰ってきたら何してたと思う?」
蓮は切なそうな表情を浮かべ倫に訊く。
「……?」
倫は想像がつかず首をかしげた。
「……親父と寝るベットの上で、親父じゃない男と寝てたんだ……」
蓮は悲しそうに苦笑する。
「れ……」
「しかも、親父は親父で秘書とできててさ、わずか六年で家庭崩壊。笑っちゃうだろ?離婚してあ
いつらはすぐお互いの相手と再婚して、俺はじいさんのとこに預けられたんだ……」
「……」
「だから、好きな女と付き合っても、きっとそいつもあいつらのようにいつか俺の前から消えてい
く。親のようにあんなに愛し合っても、いつかは……。だから、好きでもない女と付き合って抱い
て、満足しようとしてた」
「蓮くん」
「サイテーだよな。俺、自分が傷つくことしか考えてない……」
蓮の瞳に薄っすらと涙が浮かぶ。
初めて聞く蓮の過去、初めて見る蓮の涙……。
「そんなコト……ないよ」
倫は裸でいるコトを忘れ、蓮をギュッと抱きしめる。
倫の体温にホッとする蓮。
「お前といるとなんか落ち着いてホッとする……」
蓮も倫の腰に手を回し、ギュッと抱きしめた。
「だからかな?いつもお前に会いたくて、気づくとお前探してた。産まれて初めてお前だけは誰に
も渡したくないって思った」
いつもいい加減に見えた蓮くんは、実は、自分の辛い気持ちを隠そうとしてたんだ……。
好きな人の辛い過去。
倫の目から涙が零れ落ちた。
「愛してるよ、蓮くん」
初めて知った不器用な蓮を愛しいと思う倫。
「倫、愛してる」
蓮は自分の為に涙を流してくれる倫にそっとキスをする。
何度言ってもまだ足りなく感じる。
「「愛してる……」」
二人は見つめ合い、そっと唇を重ねあうとまたお互いを求め合い、そして深い眠りについた……。