第28話止まらない気持ち。愛してる
まみの出現で蓮は頭が痛かった。
唯名にも倫にも曖昧なまま日々を送っているというのに、まみまで現れ自分のしたコトに後悔というものをする。
蓮は珍しく一人で買い物に来ていた。
ブラブラとデパートを散策し、蓮はあるジュエリーショップのショーケースに飾られたピンクシェルでできたバラがついたクロスのネックレスを見つけると足を止めた。
いつか唯名の家のホームパーティーでサーモンピンクのサテンのミニドレスを着た倫を思い出す。
透き通るような倫の白い肌に似合いそうなネックレス。
蓮はしばらくの間、立ち止まりそのネックレスを見つめた。
「お出ししましょうか?」あまりにもずっとネックレスを見つめていた蓮にジュエリーショップの店員が声をかけた。
「あ……お願いできますか?」買うつもりはなかったけど、見るだけならと思い蓮は店員に頼んだ。
「はい」店員は、ショーケースの中から丁寧にピンクシェルでできたバラのクロスのネックレスを出す
と蓮の手のひらの上にそっと置いた。
「……」
「このネックレス素敵でしょ、お勧めなんですよ?」店員は蓮の顔を見てニッコリ微笑む。
「はい……」蓮はそっと自分の指にネックレスを通すと、上から照らすスポットライトにネックレスを翳して見た。
倫にすごく似合いそう。
あいついつも男っぽい格好ばかりしているけど……。
「素敵ですね」店員もうっとり見つめながら呟く。
「これ、包んでいただけますか」蓮は買うつもりのなかったネックレスを買うことにした。
「ありがとうございます」店員からショップのネックレスが入った紙袋を手渡されると「ども」と店を後にする。
蓮は、まだ一人のマンションへ帰る気はなく、デパートの近くの公園でベンチに座ってタバコを吸っていた。
もうだいぶ陽は沈んだというのに公園にはまだ親子連れが楽しそうに遊んでいる。
蓮は、まだ両親の仲が良かった頃、よく行っていた公園の風景を思い出した。
ベンチに座りながらニッコリ笑う母親、キャッチボールをしてくれる父親。
楽しかった光景が今でも鮮明に目に焼き付いている。
「もう一度、戻ってみたいな……あの頃に……」蓮は、寂しそうに微笑みそっと呟いた。
「はぁ……」蓮は、ため息をつき、暗くなってきた辺りを見渡し、帰ろうとタバコの火を消し立ち上がろうとした時、向こうのベンチに座っている倫と孝司の姿を見つけた。
二人は何かを楽しそうに話しているよう……。
蓮はずっと倫だけを見ていたが、倫は蓮に気づかない。
楽しそうに話している倫を見て、蓮は胸が締め付けられる思いがした。
もう、これ以上倫の楽しそうな顔を見てはいられない。
そう思い蓮はその場を離れようと歩き出した。
その時、孝司が倫をそっと抱きしめた。
遠くにそれを見る蓮……。
今すぐ二人の元に走っていき二人を引き離してやりたいと蓮は思った……でも、自分にはそんな資格はない。
「先輩……まだ、人がたくさんいるよ」倫は、孝司を押し、離れると立ち上がり歩き出した。
「倫っ」孝司は倫の名前を呼び立ち上がり倫の後をつけた。
「……」
「倫っ」
「……」孝司が呼ぶ声に蓮の声を思い出す。
「倫ちゃん、待って……」孝司の優しい声に少し意地悪にモノを言う蓮を思い出す。
「……」
「ごめん。倫ちゃん」孝司は倫の腕をそっと掴むともう一度倫を優しく抱きしめた。
孝司がする、一つ、一つの仕草、行動さえ蓮を思い出す。
「先輩……」
孝司は、切なそうに倫の顔を見つめると、目を瞑り倫にキスをしようとした。
少しずつ、少しずつ近づく孝司の唇……。
恋人ならこれが当たり前なんだ……倫は、ぼんやりとただそう思い、目を開いたまま孝司の唇を受け入れた。
ただキスをされているという感じ……。
そんな二人のキスシーンを、蓮は立ち止まり見ている。
孝司の唇が倫の唇からそっと離れると、倫の目からは涙が零こぼれ頬をつたう。
蓮とは違う優しいキス。
「倫?」
「あ、ごめんなさい……」倫は謝り、目の下に指をあて涙を受け止めると孝司の顔を見た。
優しすぎる孝司のキスに、激しい蓮のキスを思い出した倫は、急に孝司に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、首を振るとその場から逃げ出した。
「倫っ!」孝司は、倫の名前を呼んだ。
涙の理由は分かっている。
好きな人がいます。そう言う倫に、それでもいいから……と言った自分に腹がたった。
いいわけなんかない。
孝司は握りこぶしを震わせながら倫を追いかけるコトができず、ただ、その場に立ち尽くした。
ずっと二人を見ていた蓮は、孝司の元から走り去った倫を追いかけ後を追った。
倫は、孝司に追いつかれないように全速力で走る。
「倫っ!」倫に追いついた蓮は倫の背中を抱きしめ二人はアスファルトの上に倒れこんだ。
ドスンッ!!。
蓮は自分の上に倫がのっかかるように抱きしめた。
「いってぇ〜」
「はぁ……はぁ……」
倫は、どうして蓮がここにいるのか分からない様子で蓮の上にのったまま大きく呼吸をした。
「ったく。お前、ほんっとうに走るの速いな」蓮は、そう言いながら、自分の顔にかかる倫の柔らかい髪の毛を倫の耳にかけ、息を飲み込みながら微笑んだ。
「っん、ひっく……」
蓮の顔の上に、倫の涙がこぼれ落ちる。
見つめ合う倫と蓮。
……愛しい。
蓮は倫の唇を親指でそっと拭うと、身体を起こし倫に優しくキスをする。
「愛してるよ……倫……」倫の目をじっと見つめ、ずっと言えなかった言葉を口にする。
今度は倫から蓮にそっとキスをした。
「蓮くん、愛してる……」溢れる涙を流しながら、倫は蓮に微笑みかける。
ずっと、倫を見ていたい……蓮は、倫の首筋にキスをした。
「倫……俺、やっぱ、お前が隣にいないとダメだ……」蓮は初めて自分の素直な気持ちを口にする。
私もやっぱり蓮くんしか見れない……。
倫は、蓮の肩をおもいっきり抱きしめた。
「ん……私も……」
今まで抑えてた気持ちが溢れ出すかのように二人は、周りも気にせず何度も何度もキスをした。
……もう……離せない。