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第27話隣じゃない違う女(ひと)

あれからまみは帰りの電車の中で蓮を見つけると近づいてくる。

「蓮先輩!」嬉しそうなまみの顔。

「……」蓮の迷惑そうな顔。

「先輩、いっつもそんな顔しないでよ」

また遭遇したと言わんばかりの迷惑そうな蓮の表情にいじけてまみが言う。

「なんだよお前。今日もこっちかよ」ほんとにすごーい嫌そうな顔。

「そう、今日もバイト」まみは嬉しそうにそう言うと蓮の腕にピッタリとひっつく。

高校生並の大胆さ。

「んだー、ひっつくなっ!」

蓮はまみを押し離れると向きを変え手すりに手をかけた。

そんな蓮にまみはぶすっとしふてくされ、今度は「いーでしょ!Hした仲じゃん!」と周りに聞こえる大きな声で言った。

「あー、もぉ」

蓮はそんなあまりにも大胆なまみに困り果て、何てコトと額に手をあて首を左右に振った。

駅に着き、ドアが開くと蓮はそそくさと電車を降り急ぎ足で歩き出す。

「蓮センパーイ」まみは懲りずに急ぎ足で歩く蓮の後をつけて歩き、

両手でしっかりと蓮の腕に自分の腕を絡ませる。

「はぁ……」これ以上かわしてもどんどんまみのペースに巻き込まれるだけだと、蓮は少し観念した様子で呆れ、腕をまみに取られたまま改札口を抜けるとマンションへと向かい歩く。

「先輩の言ってた『大切な女』って、いつも隣にいる金城唯名?」

「……」蓮はタバコに火をつけ加えたまま、まみの質問には答えずにただ歩く。

「あの人、合同祭の時ナンバーワンになった人だよね?」

「……そう」

「綺麗な人だよねぇ。女の私が見ても惚れちゃいそう」

「そうだな」

「いつから付き合ってるの?」

「合同祭の次の日からだよ」こういうまみの質問には淡々と答える蓮。

「ふーん。お互い好きなんだよね?」まみは蓮に不思議な質問をした。

「は?」

蓮は突然変なコトを訊くまみを驚いた様子でタバコを加えながらまみの顔を見た。

「だってさ、彼女と上手くいってそうなのになんで私と寝たの?」まみは不思議に思ったコトを遠慮なしにポンポン訊いてくる。

「……」

「あの時、すごく切なそうだったし。あんな綺麗な彼女がいるならフツウ他の女と寝ないと思うんだけど……」

「……」

自分に対してのまみの質問には一切答えようとはせず蓮は歩いた。

「なんで?」

「さぁ?」意外に鋭いところに突いてくるまみに蓮は少し驚いた。

まみは何事においてもあんまり深くモノを考えてそうには見えない。

どちらかと言えば、智史と一緒でその場のノリやなるようにしかならないといった感じと自分の感情だけで生きているような人間に見えた。

自分に対しての質問には答えずに、さぁ?と交わす蓮にまみは空を見上げると「まぁ、そんなコトどうでもいいや」と案の定その話を終了させた。

やっぱり智史と同じだ。

「そこに辿り着いてくれて光栄だよ」

「え?私は先輩が好きだから、先輩の気持ちも彼女のコトも私には知ったこたぁないから」

「あっそ」

蓮は取り合えず鋭いまみの攻撃がなくなったコトに安堵して、あまり嬉しくはないけどまみの告白を軽く流した。

「あっ!」

安堵して蓮が二本目のタバコを吹かそうとした時、

まみは何を思ったか急に立ち止まり大きな声を出した。

「!?」

突然発したまみの大きな声に蓮は驚き加えてたタバコを地面に落とした。

「びっくりしたなぁ……ったく、ほんとにお前は……急にデカイ声出すなよ」蓮はブツブツと怒りながらタバコを拾う。

「あの店。私、先輩と行きたい」

まみはある店を指差し、蓮はタバコを口にくわえ直すとまみが指す店を見た。

前、倫と入ったパスタの店。

「あの店パスタとケーキが美味しいんだって。先輩、今度行こうよ」

「あー、行ったコトある」

蓮は倫と行った時のコトを思い出し、この間倫と座った窓際の席を見つめた。

あ……。

蓮がじっと見つめた先に倫が里香と楽しそうに話しながらケーキを食べている。

久しぶりに見る倫の姿。

可愛い顔とは正反対な相変わらずなボーイッシュな格好。

蓮はタバコを口から外し微笑する。

「先輩?」

視線をある場所から動かさない蓮を見て、まみはまた自分の腕を蓮の腕に絡ますと蓮の顔を覗き込んだ。

「……」

蓮はまみの呼びかけに気づきもせず、いつも何に対しても冷めた瞳でモノを見ている蓮の見たコトもない

優しい表情をまみは目にする。

「蓮先輩?」

いつもとは違う表情の蓮の視線の先をまみはゆっくりとたどってみた。

二人の女が楽しそうに話しながらケーキを食べている。まみはその二人の女から目線を蓮に移すとムッとする。

すごく優しい表情の蓮。

「あの人達、知り合い?」まみは蓮の腕を抓った。

「いっ……」蓮はその痛さにふと我に返ると「何?」まみの質問を訊き返す。

「あの人達、知り合いなの?」

「あ、ああ」

まみの腕を自分の腕から離すと蓮の態度がなんとなくぎこちなくなる。

何かある……。と睨むまみ。

空気が読めないくせにこういうコトの勘はもの凄く鋭く働く。

女の直感。

まみは里香ではなく栗毛色の髪の長い倫を指差し「あー、あの人もナンパして抱いたんだぁ」と言う。

「……」

「あの人、彼女の金城唯名より良かったの?でも、あの人先輩のタイプとは違うんじゃない?」

勝手なコト言うまみ。

「あのなぁ……。お前には関係ないだろ?」蓮はタバコを地面に落とし靴で火を消す。

「あの人、あんなおとなしそうな顔してて彼女がいる男と寝るんだ」

蓮は倫の悪口を言われイラッとするとまみの肩を押し、真剣な眼差しで倫を見つめると「あいつは俺みたいなバカな男に抱かれるような安い女じゃないし、彼女がいる男と寝るような軽い女じゃない」とまみに言う。

倫を見つめる蓮。

あまりにも真剣に苦しそうで切なそうに見つめる蓮の横顔を見つめまみは気づいた。

「もしかして、大切な人って……?」

「……」

蓮は切なそうに俯く。

誤魔化そうと思えば誤魔化せられるのに……。

「あの人なの?」

いつも隣にいる金城唯名じゃなくて、あの人?

私を抱いた時のあの切ない顔も辛そうな表情も彼女を想ってたの?

先輩の元カノ?でも……。

彼女を忘れたくて私を抱いたの?

でも、どうして?

『あいつは俺みたいなバカな男に抱かれるような安い女じゃない』そう言った先輩。

まみはやるせなかった。

自分も同じだったのに悔しくて苦しい。

私は先輩に抱かれ、成瀬を忘れられた。

先輩の彼女を見る瞳には自分は映らない……。

けど、この気持ちはもう止めるコトができない。

あの人をココロの底から大切に想いながら金城唯名と付き合う先輩。

あんな表情を浮かべるくらいなら……そんなに好きなら手を離さなければいいのに……と思う。

でも、先輩が好きなのが隣にいる金城唯名じゃなく、隣にいるコトがないあの人なら……私は……。

先輩が先に進めないのなら…………。

私はどんな手を使ってでも先輩を手に入れてみせる。

まみは今、そう強く決心する。








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