第25話出遭った小悪魔
十二月に入るとやたらカップルが増えるような気がする。
倫と蓮は相変わらず大学内では話しかけるコトも目も合わせるコトもしない。
ある日、蓮が一人で大学内を歩いていると
「レーン、いたぁ〜」智史が困った顔で走ってきた。
「何だよ」
また何の騒動だよという感じで返事をする蓮。
「今日の合コン来てくんね?メンツ集まんなくてよぉ」
「えー、嫌だよぉ」
そんな気分じゃない。
「唯名に内緒でさ。なっ、なっ」
智史は必死で蓮を説得するが「パス。俺、あいつ怖いもん」蓮は手を振り歩き出す。
「頼むっうぅ!お前がくれば盛り上がるし……」
涙目で頼む智史。
そんな顔されても……。
「もぉ、仕方ねえな……バレたら責任取れよ、お前」
「さすがっ、蓮!」
智史達と合コンする待ち合わせの居酒屋に蓮はいつものように少し遅れて行った。
ドアを開け、店内の客席を見回し智史達を探す。
「おーい、蓮っ!こっち、こっちぃ〜」
智史が蓮を見つけ大きく手招きをする。
あーもうすでに出来あがってんな、あいつ。
相変わらずのテンションの高い智史。
「おそい〜」
すでに盛り上がっている四人の合コン相手が口を揃え蓮に言う。
「ごめん、ごめん」
謝り空いている座布団に座ろうとしたその時、蓮は四人の中の一人の女と目が合った。
ショートカットの幼い顔の女……。
長身で、少しクールな顔……。
……ホテルの前で別れる二人の姿。
「あ……」
声を揃える二人。
「何、どうしたのまみ?」
「何、二人知り合い?」
「なにぃ?」
口を開けたまま見つめあう二人にみんなが問い詰めると蓮とまみは頷いた。
「そういうコトならお二人さんは隣で……」
いらん気を利かせ、蓮をまみの隣に座らせようとする合コン相手と一緒に
「え、あ、いいよ」と気まずそうな表情を浮かべ困惑する蓮の肩を、
無理矢理智史は押した。
蓮とは違って再会を嬉しそうに「偶然ってあるんですね」と言うまみに
「あ、そうだね」冷めた低い声で返す蓮。
「今日は、いつもとフインキが違いますね」
ビールグラスを片手にまみはニッコリと嬉しそうに微笑んだ。
「そう?」
蓮は気まずかった。
「この前はなんか切なそうだったから彼女と別れたのかな?と思った」
「……」
蓮はまみに言葉にグラスのビールを一気に飲み干し、
冷めた目でまみを睨むと不機嫌そうに「ごめん、智史。やっぱ俺帰るわ」と
五千円札をテーブルの上に置いて立ち上がった。
「えっ、蓮?」
みんなは蓮を見上げる。
「悪いな……」
あまりにも不機嫌そうな蓮を止めることができず
「あ、こっちこそ無理強いしてごめんな」と智史は謝ると
蓮は首を振り「じゃぁ、お先に……」と店を出て行った。
何が起こったか分からないみんなは一斉にまみを見ると、
今度はまみが「ごめんっ!私も帰るぅ!」と
自分が何かいけないコトを言ったんだろうか?と気になり慌てて蓮の後を追って店を出た。
「な、何が……どうしたの?」
「さぁ……」
みんなはそんな二人に呆気に取られしばらく放心状態に落ちた。
まみは店を出ると蓮の姿を探し走って蓮を追いかけた。
「あのっ!」
白い息を何度か吐きまみは蓮の前に立ち塞がる。
「何、なんか用?」
蓮はタバコを加え前髪の隙間からまみを見下ろす。
「あの、私、何か悪いコト言った?言ったなら……謝ります」
詰まった声でまみが言う。
「別に何も言ってないよ」
「じゃぁ、なんで?」
必死な顔で蓮の腕を掴み聞くまみ。
そんなまみの顔を見て蓮は少し微笑み「ただ、帰りたいだけなんだよ」と
まみの手を自分の腕から離し歩き出そうとする。
まみは蓮の横顔を見て初めて会った夜の時のようにまたドキッとする。
この人に抱かれたと思ったらすごく嬉しくなった。
通り過ぎようとする蓮のいい香りがこの間の蓮のあの激しいキスを思い出させる。
アルバイト先で偶然声をかけられ身体を重ね合った。
この人に抱かれた後、もうダメかなと思った彼との別れを選択できた。
お互い名前も知らず会わなくなったこの人とのこの再会はきっと偶然じゃなく運命を感じる。
まみはそう思った。
「私、あなたを好きになったかもしれない……」
まみは蓮の後姿に、すっと告白をした。
「は?」
突然のまみからの告白に驚いた蓮は振り返りまみを見ると
「俺、大切な女、いるから……」とそっと微笑し手を振りまた歩き出した。
まみはそんな蓮の言葉に動じず、
蓮の後姿にニッコリと笑いかけると「絶対、私に振り向かせてあげる」と呟いた。