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第23話この人の手を…

どうして苦しいんだろう……。

人を想うってどうしてこんなに苦しいんだろう?

この寒い日、少しでも暖かくなるお日様のように、誰か私のココロを暖めてくれないかな?

倫と蓮は不自然なほど視線も合わせず近づきもせず日々を送っている。

あれほど仲が良かったのに挨拶すらしなくなった二人に、周りは何があったか気にはなったが

里香ですらそのコトを口に出して聞こうとはしなかった。

でも、二人の気持ちには誰もが気づいている。


季節はもうあと少しで十二月になろうとしている。

「椎名さん」孝司はあれからよく倫を見かけると必ず話しかけてくる。

「先輩」

どうしようもない蓮への苦しい気持ちを抱えてる中、声をかけてくれる孝司が倫には救いだったりする。

いつも孝司の顔を見てホッと癒され、ニッコリ微笑む倫。

「あの……」今日はいつもと違って、孝司は何か言いたげに珍しくモゾモゾしている。

「はい?」おとなしそうな顔とは違っていつも意外と積極的な孝司が、口を開けたり閉じたりしているのを見て、倫はどうしたんだろう?と思い首を傾げる。

「ぼ、僕と……」

「僕と?」

「僕と……」

「僕と?」何度か言っては言葉を詰まらせ、先に進まない孝司の言葉を復唱する倫。

孝司は息を大きく吸い、吐いてはまた吸うと、おもいっきり「僕と付き合ってくださいっ!!」と周りにも聞こえる物凄い大きな声で倫に告白をした。

「!?」

この前と同様、いきなりの告白に倫は大きな目をさらに大きく見開いて驚き、頭の中が一瞬空っぽになる。

「あ、あ……」孝司はどうしようとシドロモドロするが、すぐに真剣な表情へと変えていく。

真剣に自分を見つめる孝司に対し簡単に軽く返事をしてはいけないと倫は思う。

倫は小さく一呼吸すると「……あの、気づいてると思うんですけど、私、好きな人がいます」里香にもまだ口にはしていない言葉をゆっくりと吐く。

「知ってるよ」あっさりと答える孝司。

「……」

「それでもいいよ。だって彼には彼女がいるんでしょ?」

倫は小さく頷く。

「なら、この僕と付き合って少しずつでいいから彼のコトを忘れて、少しずつ僕のコトを好きになってくれればいい……」

孝司は、倫を優しく包むような声と表情で話す。

倫は優しく微笑む孝司を見た。

少しずつ蓮くんのコトを忘れて、少しずつ先輩のコトを……好きになればいい……?

暖かそうな目……。この人なら……この人なら、きっと……。蓮くんのコトを忘れさせてくれる……?

倫はコクリと頷いた。

「ほっ、ほんとっ?やったぁ〜!」頷いた倫に、おもわず我を忘れぎゅっと倫を抱きしめる。

「せ、先輩。人が見てる……」真っ赤な顔で恥ずかしそうに言う倫を見て、孝司は辺りを見回すと、他の学生達が二人を見て笑っている。

「ご、ごめん」ぱっと倫を離し、恥ずかしそうに赤面し照れ笑いをしながら頭を掻く孝司。

「い、いえ。先輩ってほんと面白いですね」そんな孝司を見て癒される倫。

「行こ」

「……」孝司は倫の手を優しく握りしめると歩き出した。


 

孝司と蓮は正反対。

ごく普通の真面目な優しい青年といった感じ。

将来はアメリカに渡って、何か自分に合った仕事を見つけたいという夢を持っている。

倫も大学を卒業したら、父のいるフランスへ帰りフランスで仕事を見つけて生活していくつもり。

そういうコトでは、倫と孝司は共通するところがある。

自分の手を優しくしっかりと握り締め、引っ張り歩く孝司の手……。

倫は孝司の背中を見つめる。

この人をどこまで好きになれるだろう?

この人を好きになれたら、きっと……この苦しくて辛い想いは、いつかいい思い出になる……。

私は、この人の手を……。

今、どこにも行き場のない気持ちを抱える倫にとって孝司は救世主のような存在だった。











 

 













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