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第21話気持ち

蓮の心の中は複雑でぐちゃぐちゃだった。

 何にも手につかない。

 あの後も、あの女を何度か抱いた。

 けど、倫の肌の温もりを忘れたくて抱いてる女に、ある日、倫を重ねているコトに気づき、

そんな自分に失望する。


「またね」

「ああ……」

 いつもそう言って、ホテルの前で別れる。

 携帯電話の番号も聞かず「名前聞かないの?」「ただヤルだけだから…」「それもいいかも

ね」名前も知らない女。

 他の女を抱くと余計虚しくなる自分がいる……。


 ある日、大学にも来ない、連絡もつかない蓮のコトが気になり直樹がマンションを訪ねてきた。

 チャイムが鳴り、インターフォンのカメラで直樹だと確認し『はい……』蓮はインターフォン

に出る。

『レーン。俺だけど……』

『今、開ける』…………。


「蓮?」

 直樹は玄関ドアを開け、覗き込むように部屋に上がる。

 カチャッ。

 ワンルームのドアを開けた直樹は、自分の目を疑った。

 フローリングの上にはビールの空き缶があちらこちらに転がり、ローテーブルの灰皿にはタバコ

の吸殻で溢れていた。

「うわっ、ど、どうした?」

「……」

 綺麗好きの蓮の部屋が見事にダストボックスの中のように見える。

 その中で、蓮は、無精ひげを生やし生気のない表情で直樹を見た。

「ど……どうした?お前……」

 あまりの光景に言葉を失いそうになる。

「あ、ん?」

「大学にも来ないし、電話にも出ないし……唯名が心配してたぞ」

 足元に転がるビールを片付けながら心配そうに直樹は訊く。

 蓮は、大きくため息をつくと「抱いちまった……」と息を吐くように呟いた。

「抱いちまった?」

「……」

「唯名を……か?」

 蓮は、転がるビールの空き缶を足で転が、し唯名の名前に首を振った。

 唯名じゃない?じゃぁ……。

 直樹は、蓮がまた他の女を抱いて、後悔しているんだと勝手に思う。

「今までのお前知ってて付き合ってるんだから、ばれたって許してくれるだろう?でも、お前、唯

名のコト本当に好きなんだろう?なら、こうなるまで後悔するんなら、もう好きでもない女抱くの

めろよ。じゃないと、いつか本当に唯名のコト失うコトになるぞ」

 直樹は蓮に忠告する。

「……」

 蓮は直樹の忠告に、無言のままタバコに火をつけ、また大きくため息をついた。

「止められないのか?お前……唯名が好きなんだろ?」

 直樹は何も言わない蓮に同じコトをまた訊いてみる。

「……」

「蓮」

 自分の名前を呼ぶ直樹に、蓮は、タバコの煙を天井にスゥーと吐くと、ぼーっと天井を見つめなが

らそっと口を開いた。

「違う……」

「は?」

 直樹は何が違うか分からなかった。

「あいつ、可愛いけどタイプじゃなかったんだ……」

「……」

 は、可愛いけどタイプじゃない?

「どっちかって言うと、つんっとしてる女って苦手で……。だけど、俺、あいつを初めて見て時から

気になってしょうがなくて……」

 蓮は独り言のように話し出すと、悲しそうにそっと微笑む。

 つんっ?

 直樹は首を傾げた。

 つんっイコール無愛想?

 前に蓮の口からそんな言葉を聞いたコトがあるような……気がする。

 直樹は思い出そうと眉間にしわを寄せる。

 あっ!?

 無愛想イコール椎名?

 直樹の回路はやっと倫へとたどり着く。

 これで、蓮が唯名と付き合い始めたのも、この状況にも納得がいく。

「レ……ン。もしかして、それって倫ちゃんのコト?」

「直樹ぃ……こんな時ってどうしたらいい?」

「蓮」

「俺……好きな女抱いたの、はじめてなんだ……」

 倫を想う切なそうで苦しそうな真剣な眼差しで、蓮は直樹に訊く。

 こんな蓮をはじめて見る。

「蓮……なんて言っていいか分かんないけど、自分の気持ちに素直になれよ。もう、失うコトばかり

考えんなよ」

 何度か口にした言葉をまた口にする。

「……今までみたいに他の女を抱いてもダメなんだ……」

 そう言うと蓮はフローリングに寝そべった。

「しっかりしろよぉ、お前。とにかく大学には顔出せよ」

「……」

 蓮は、直樹の言葉に返事をしなかった。


「俺、帰るからな」

「……」

「蓮……」

 直樹は、ため息をつくと部屋を後にした。


 やっと、好きになった女と向き合え、受け入れられるようになったと思っていた蓮は、実はもっと

本当に好きな女を心に受け入れないように、前好きだった女と付き合い始めていた。

「どうすんだよ……蓮」

 直樹は、また、ため息をつくと、蓮の住むマンションを見上げた。

 いつになったら辛い過去から抜け出されるんだよ、蓮。


 

 あの日から蓮くんに一度も会ってない……。

 避けられてるのかな?

 完璧に遊ばれちゃったのかな?

 抱けるまでのゲームをしていたのかな?

 恋愛に疎くても、そういうコトだけは考えられる。

 蓮くんには唯名ちゃんがいる。

 蓮くんはずっと唯名ちゃんが好きで、ずっと二人は両想いだと聞いていた里香ちゃんからの噂。

 男の人は気持ちがなくても女を抱ける。

 気持ちと身体は別だってコトも知ってる。

 でも、自惚れかも知れないけど、あの時の蓮くんの切なそうに見えた顔は、見間違いじゃないよう

な気がする。

 そう思えば……少しは気が楽になるかも?

「忘れなきゃ……」

 忘れないと……。

 でも、何回シャワーを浴びても、どれだけのたくさんの泡で身体を洗っても、蓮くんへの気持ち、

蓮くんの肌の温もりは流れ落ちてはくれない……。

 夜、ベットに入ると想うのは蓮くん。

 胸がギュッと苦しくて、子宮の底から想いが溢れてくる。

 涙が頬をつたう。

 大好き……蓮くんの声、瞳、仕草……肌の温もり……大好き。

 誰かこの想いかき消してくれるといいのに……。

 蓮くん以上の人が今すぐに現れてくればいいのに……。

 そんなコトを思う、苦しくて切ない毎日が続く。


 朝、いつもと同じ電車。お気に入りのトクトウセキ。

 隣には蓮くんじゃない違う人が座ってる。

 倫は、また、いつものようにバックから本を取り出し、読みかけのページを開き、読む。

 そして駅に着き、電車を降りると改札口を出て大学に向かう。

 最近、この道を歩くと泣いてしまいそうになるのは気のせいではないかも……。

 私の恋はどうなるんだろう










 

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