第16話合同祭の夜
創立記念祭と学園祭の合同祭は、前夜祭と計二日間行われる。
合同祭で一番盛り上がるのが、最後の日の行われる『金城大学ミスコン』
蓮達が大学に入学してからは、言うまでもないけど二年連続唯名がナンバーワンだった。
今年もきっと金城唯名がナンバーワンだと誰もが思う。
コンテストの出場者は、十月の中旬頃に配布される推薦用紙によって推薦され、当日の朝、
大学内推薦された上位十位内の出場者の顔写真などがコンテスト会場に貼り出され、一般客、
学内生の投票によってナンバーワンが決定される。
もちろん蓮達は、配布された推薦用紙に唯名の名前を記入した。
「やっぱり、唯名は貼り出されてるな」
合同祭の当日、コンテスト会場に上位十名の顔写真とプロフィールが貼り出された。
「ま、今年も唯名の優勝が確実だろ?」
「そうだな」
蓮達はそんなことを言いながら出場者面々の写真とプロフィールを見ていく。
「あ……」
先を見ていた直樹の足が止まり、蓮は直樹の顔を見た。
「ん、どうした?」
「ほれ……」
直樹が指差す先を見ると、なんと倫の写真が貼り出されていた。
「……」
写真で見る久しぶりの倫の顔。
蓮はここに倫の写真が貼り出されているコトに驚くよりも、ずっと会いたかった倫の写真に
切なくなる。
……倫。
今にでも憎まれ口を叩かれそうな感じがする。
しばらく立ち止まって倫の写真を見つめる蓮の元に、写真を吟味しつつやっと二人の所に辿
り着いた智史が倫の写真に気づくと指を差し驚きの声を上げた。
「あーぁ、椎名が貼り出されているぅ。蓮、蓮っ。見ろ見ろっ。すげー」
「……」
「初めてだよな?倫ちゃんが貼り出されんの」
意外だと思ったコトに動揺し興奮している智史とは違って落ち着いている二人。
「ああ……」
「蓮、お前推薦したの?」
「ん、いや。してない……」
あ……。
蓮は、図書館で倫のコトをいいと言っていた男の顔を思い出した。
「でもさ……」
興奮していた智史は平静を取り戻し、倫の写真をまじまじ見ると「椎名って可愛いよな?」と
一言。
「そう、倫ちゃんって笑うと可愛いよな、蓮?」
「……」
『お前、笑った方が可愛いと思うよ』
本当ならば、倫の可愛さにみんなが気づいてくれたコトを嬉しいと思うはずなのに、蓮は少し
も嬉しくなかった。
一緒にいるうちにどんどん笑顔になっていく倫。
『お前、笑った方が可愛いと思うよ』……なんて言うんじゃなかったと思う。
みんなに倫の可愛さを気づかれて、なぜだか分からないけど複雑な気持ちが湧いてきた。
倫を独り占めしたい……。
「そうか?どっから見ても無愛想女そのものだ」
「そんなコト言ってんと、また殴られるぞ!」
「いねーから、大丈夫だよ」
「まっ、そうだけど」
「行こうぜ」
そう、倫は今ここにいない。
蓮はバックからタバコを取り出しくわえると火をつけ歩き出した。
夜になると、みんな慌しくバタバタとコンテスト会場に集まりだす。
蓮達も会場へと駆けつけた。
会場は物凄い人だかりと熱気に、夏が戻ってきたんじゃないかと思うほど熱くなっていた。
夜なのに眩しいぐらい明るい会場。
「こんばんは〜」
司会進行役の三年生の男子学生が現れると会場は一段とヒートアップする。
「さー、今年も盛り上がっちゃいましょう……ウダウダ話してると怒られちゃいますのでとっ
とと進行します」
司会者の学生の台詞にどっとする笑い声、軽やかな音楽と共に、貼り出されていた上位十名
の出場者たちが名前を呼ばれると、一人ずつステージに上がり自己紹介を済ませると発表まで
の緊張する時間を待つ。
みんな結果は分かっているけど、この時間が楽しい。
「今年の、ミス金城大はっ……」
いつものお決まりのドラムの音にざわめいていた会場内は一気に静まりみんなゴクンッと息
を飲む。
「金城唯名さんでーす」
予想通りの結果に会場はまたざわめき始め「やっぱ、金城さんよねぇ」「だよな」と言う言
葉で会場は埋め尽くされる。
みんなが認めるナンバーワンの唯名に、直樹達も、うん、うん。と頷く。
「おめでとうございまぁーす」
花束を渡されにっこり微笑む唯名。
「ありがとうございます。嬉しいです。みなさん、ありがとうございました」
「三連勝ですね」
「そう……ですね」
唯名は慣れた口調で次々と質問に答えていく。
「ちなみに二位の方の椎名倫さんとは十票さだったんですが、椎名さんをご存知ですか?」
司会者の言葉に唯名は驚いた表情を見せる。
「おい、マジかよ」
「すげーな、椎名」
直樹と智史も顔を見合わせ驚き感心している。
「……」
蓮は思いもしなかったコトに俯き、込み上げてくるどうしようもない複雑な気持ちをぐっ
とこらえた。
「そうなんですか?友達です」
「そうなんですかぁ。やっぱり類は友を呼ぶんですね。あ、話は変わってこの後はどうされ
ます?」
「今夜、好きな人に告白しようと思ってます」
唯名は倫への気持ちでいっぱいな蓮の俯いた姿をステージの上から見つめる。
「おお〜」
その唯名の堂々とした発言に会場内は驚き、またざわめき始め、司会者はあたふたと戸惑
いだす。
「あわわわ、そ、そうなんですか?」
「はい」
ステージの上での唯名のとんでもない発言に「おい、蓮っ」直樹は俯く蓮の背中を押すが、
周りのざわめきも直樹の呼ぶ声も全く気になってない様子の蓮。
そんな蓮の顔を直樹は覗き込みまた声をかける。
「蓮?」
「あ、何?」
ボーと考え事をする蓮は切なそうな顔で直樹の顔を見た。
「もしかして、今の唯名の言葉聞いてなかった?」
「は?あ、うん」
「あいつ、今夜好きな奴に告白するんだってよ」
「は……?」
唯名が告白する?
誰に?
今はそんなコト、どうでもいい。
「では、がんばってください!!みんなで応援してまーす」
司会者の応援に「ありがとうございます」と笑顔でぺコリとお辞儀をし手を振る唯名。
「ミス金城ナンバーワンは、金城唯名さんでした。みなさん盛大な拍手をぉ」
ミスコンは幕を閉じた。
「おい、どうするんだよ蓮?」
「大丈夫か?」
「えっ、何が?」
他人事のように冷静な蓮に対し、シドロモドロしている直樹と智史。
「何がって……」
「……」
「断るのか、お前?」
「は?」
蓮は唯名の告白話のコトなんか上の空で、それが自分へだと言うコトもすっかり忘れている。
蓮が好きな女とは付き合えないコトを知る二人は、蓮と唯名のこの後の展開に不安を持つ。
まだ冷め切らない熱気に溢れた会場。
「よおっ、蓮」
「おう」
「がんばれよ」
唯名が蓮のコトを好きだというコトも、蓮が唯名を好きだったコトも、二人を知る生徒はみん
な知っている。
「さっきからなんだよな」
「蓮、お前……」
何度かそんな応援言葉を不思議そうに交わしている中、蓮の携帯電話の着信音が……鳴った。