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第14話気づかされた想い

  発狂する智史に観念し、蓮は合コンに付き合う羽目になる。

「遅れてごめん……」

「来た来た、蓮」

 みんながセキについて少し経った頃、蓮はいつものように遅れて現れた。

 蓮はいつも合コンに遅れて現れる。

 そして、始まってまだみんながぎこちない時にその場を盛り上げるムードメーカーだった

が、今日の蓮は違った。

 遅れたコトを一言謝ると黙ってセキにつく。

そんな蓮の様子に智史達は顔を見合わせ首をかしげた。

「蓮、みんなもう頼んだからお前もなんか頼めよ」

「あ、うん」

 蓮はメニューを直樹から手渡されると、また黙ってメニューのページをぺらぺらとめくり

始めた。

「どうかしたの、竹下くん?」

 そんないつもとは違う蓮を不思議に思った合コン相手の中のひとり、森本佐奈は声をかけ

た。

「何が?」

「妙に落ち着いてる」

 佐奈は蓮の高校三年生の時の同級生で、当時蓮が付き合っていた彼女の親友だった。

だから蓮のコトは良く知っている。

「そう?」

 冷めた口調で返す蓮。

「この間は一生懸命だったね」

 冷めた口調で返す蓮に、佐奈はニヤリと笑いかけるとコップに手にかけビールを一気に飲

み干した。

 佐奈は昔からこんな感じだった。

 童顔の可愛い顔とは反対に、仕草は男っぽく、時々なにか意味ありげな笑みを浮かべる。

「お前、相変わらずだな。この間ってなんだよ?」

 佐奈が何のコトを言っているのか分からない蓮は鬱陶しそうにムッとすると訊き返した。

「今度は倫を狙ってるんだぁ?なかなか落ちないでしょ?あの子……」

 佐奈はまたコップに並々とビールを注ぐとニヤリと笑った。

「はぁ?」

 何が言いたいんだ?

 いちいち突っかかるようなコトを言う佐奈を、蓮は瞬きひとつせず冷めた目で睨むと、盛

り上がり始める合コンの中、蓮と佐奈の間だけは冷たい空気が流れた。


 合コンが終わり、智史や佐奈の友達は二次会へ行こう!と盛り上がっている。

「蓮と佐奈はどうする?」

 唯一盛り上がっていない二人に直樹が声をかけると「俺はパス」「私もちょっと」と、二

人は返事をした。

「そっか、いしし……」

 この二人の妙なふいんきに智史はいやらしそうに笑いかける。

「……?」

「いやっ、気にしないで、いいよいいよ。お持ち帰りは蓮の定番だもんな。さ、みんな行こ

うぜ!」

 完璧に誤解している智史は蓮の背中を押すとニヤリと手を振り直樹の肩に手をかけ歩き始

めた。

「か、勘違い、してる……」

 蓮はため息をつき、首を左右に振るとタバコに火をつけ、佐奈を気にするコトなく駅に向

かい歩き始めた。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 蓮はタバコを加えたまま、夜のひとけのない商店街のアーケード、駅までの道をスタスタ

と足早に歩き、佐奈は小走りに蓮の後をついて歩く。

 しばらくして蓮はタバコを捨て小さくため息をつき立ち止まり「森本さ、俺に何か用があ

るわけ?」と佐奈の顔ギリギリに自分の顔を近づけた。

「今度は、倫が好きな女の身代わり?」

 佐奈は自分の顔とほんの数十センチも離れていない蓮の顔に少しも動揺することなくまた

意味ありげな笑みを浮かべると訊く。

「は……?」

 佐奈が言ったコトに蓮は佐奈の顔の前から自分の顔を離すと目を大きくし佐奈を見た。

 倫が好きな女の身代わり?

 佐奈がこう言うのには理由がある……。

 昔、蓮と佐奈はお互いに想い合っていた。

でも、蓮は両思いでも本命とは付き合わないというコトは学校内で有名な話だった。

 佐奈の友達は、佐奈が蓮を好きだという気持ちを知ってて佐奈の代わりと承知でそんな蓮と

付き合い始めた。

 倫が身代わり?

 好きな女の代わり?

 自分でも分かっているコトを、人に初めて言われた蓮は戸惑いを覚える。

 黙ったまま考え立っている蓮を、佐奈は愛しそうに見つめた。

 今、目の前には大好きな竹下くんがいる。

 佐奈は、今でも蓮のコトが好き。

 佐奈は蓮が今、金城唯名の代わりにしようと倫を落としていると思っていた。

なら、今度は……。

 大学に入り、ずっと蓮と接することがなかった佐奈は倫のおかげでまた接点を持てたコトに

あるコトを考え、智史に合コンを持ちかけた。

……倫がいないうちに。

 もう、私への気持ちがなくても、私は……欲しい。

 佐奈はドキドキする心臓の上、胸の谷間にぎゅっと握り締めた手をそっと置くと「金城さん

の代わりでもいいから、倫じゃなく私と付き合おう?」とゆっくりと声を出した。

「は?」

 突然の佐奈の告白に驚き佐奈の顔を見る蓮。

「きっと倫は落ちないから、私を金城さんの身代わりにすればいいよ」

 自分でも驚くような大胆な言葉を発した佐奈は背伸びをすると、初めて知る積極的な佐奈に

驚いている蓮にキスをした。

「……」

「森本?」

「別に金城唯名の代わりは倫じゃなくてもいいでしょ?」

 倫は誰かの代わりなんかじゃない?

 そう思って倫に近づいたコトなんか一度もない……。

 ただ倫と一緒にいたいだけ。

 自分でも気づかないうちに倫を探し隣にいた。

俺は……。

 蓮はもう一度キスをしようとする佐奈の肩を手でそっと押し、離すと「ごめん。俺、用事ある

から先帰るわ」とポケットからタバコを取り出し火をつけると、佐奈をその場に残し歩きだした。


 蓮はタバコをくわえ、駅までの道を止まることなく歩く。

 佐奈に言われたコトにショックを受ける蓮。

 佐奈に言われたコトで自分の倫に対する気持ちに、はっきりと気づく。

 自分は倫を恋愛対象に見ていたつもりはなかった。

 気にはなっていたのは事実だけれど、ただ気の合う友達だと思っていた。

 でも会いたくて会いたくて倫のいない毎日が退屈でたまらない……。

それは自分が倫を好きになっていたからだと……今、気づかされた。


 駅につき改札を通り抜け、薄暗い駅のホームの一両目の車両が止まる位置で蓮は立ち止まった。

 油の匂いが生暖かい風と共に蓮の前を通り過ぎていく。

 俺は倫が愛しくてたまらない……。

 俺は、倫を……愛して……いる。





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