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第11話ごめん

怒り心頭の倫。

そんな倫との約束を忘れ、蓮は図書館で朝から調べ物をしていた。

「おはよう、朝から調べ物?」

「……唯名」

「直樹達は?」

「あいつらが図書館で勉強ができるわけないだろう」

「ふふふ、そうだね」

唯名はテーブルの上にバックを置くと蓮の隣のイスに腰をおろし、本を見てはレポート用紙に何か

を書く蓮の横顔を見つめた。

本を真っ直ぐ見ている蓮の顔が好き。

笑うと軽い感じの蓮も好きだけど、冷めたどことなく寂しそうな蓮の表情も、もっと好き……。

この図書館で偶然隣に座った女好きで軽いという噂とは違う竹下蓮の真っ直ぐ本を見ている

に私は惹かれた。

一年生の時の……ちょうどこの頃。

……晴れた雲ひとつ無い澄み渡る空の日。

「なんか、懐かしいね」

二人でこうしてるの。

「ん?」蓮の目線が本から自分に移ると、唯名はそっと蓮に微笑みかけた。

「初めて会った日もこんな感じだったね?」

「ああ、そうだね」

「蓮、覚えてる?」

「ん?」

「蓮、あまりに熱中しすぎて、消しゴム取ろうとして私の手掴んだの」

「ああ、覚えてるよ。唯名、真っ赤な顔して硬直してたもん」

「あは、私、真っ赤な顔して硬直してたの?」唯名は恥ずかしそうに笑うと、徐々に切なそうな顔

へと表情を変化させる。

あの時、顔を真っ赤にして硬直したた唯名に俺は一目惚れをした。

「ああ」蓮はじっと切なそな表情を浮かばせ自分を見つめる唯名に優しく微笑みかけると、また本

を見始めた。


「うーん」

一時間程して調べ物が終わった蓮は大きく背伸びをすると本を閉じ始めた。

「次の講義受ける?」

「あ、うん」

「じゃぁ、私も行こうかな?」

「うん」蓮は本を重ねバックにレポート用紙をしまおうとしたその時、真面目そうな男子学生が三人、

蓮と唯名が使っているテーブルの隣にバックと本を置き小声で何かを話し始めた。

……倫。今日、図書館に来るかな?」

倫?

苗字は聞き取れなかったが、名前は確かに倫と聞こえた。

一人の男が口にした名前に蓮はその男の顔を見る。

「来るんじゃないか?」

「可愛いよなぁ,椎名倫」

椎名倫。

「あの子可愛いけど、とっつきにくくねぇ?」

「そこがまたいいんじゃん。昨日さ、すっごい可愛いワンピース着てたんだよ」

「孝司、椎名倫にマジ惚れ?」

すっごい可愛いワンピース?

「蓮、行こう」

「あ、うん」

ワンピース?という言葉になにか胸にひっかかった感じがし、考え込む蓮。

「蓮?」

あっ!?

『明日、あのワンピース着て来いよ』『明日ね』駅での倫との会話と約束を思い出す。

「あ〜、バカだ。俺〜」自分の頭をポカッと叩きしゃがみ込む蓮に驚く唯名。

「ど、どうしたの?」

あー、あいつ怒ってるんだろうな?

蓮はガバッと立ち上がると「唯名、俺、次の講義パスッ!」本を持ったまま唯名を置いて走って

行ってしまった。


蓮は、初めて入る人文学部の棟の教室を一つ一つ覗き込んで走った。

「椎名倫いる?」

「ん?」

「椎名倫って子いる?」

「えっ、いえ」

「そう、ありがとう」

法学部の蓮がここにいるコトとあの竹下蓮に話しかけられたと驚き喜ぶ女子学生達で人文学部の

棟はザワザワし始める。

何処にいるんだよ〜あいつ。

どこの教室を覗いてもいない倫。

「はぁ、はぁ……。ねぇ、森本、椎名おらん?」偶然見かけた高校の同級生の森本佐奈に声をかけ

訊いてみる。

「あ、竹下くん。ちょっと待っててね。確か……」

「ああ、ごめん」

走ってきたからすごい汗。

「りーん。竹下くんが呼んでるよ」佐奈が蓮の名前を口に出したのと同時にみんなは教室の隅で

里香と話してる倫を一斉に見る。

えっ、何、なに?

「倫、竹下くんとどうかしたの?」

「知らない」

な、なんで来るのー?もう、話すつもりもない、会うつもりもないのに。

倫はむっとし、ちらっと蓮を見る。

なんだろう?

ドアにもたれ、自分を真っ直ぐ見て待っている蓮の所まで歩く倫。

「ありがとう、佐奈ちゃん」

「森本、ありがとうな」

「じゃぁね、ふふふ」

な、何?佐奈ちゃんの今の笑い。

「な、関係ないからね」

「がんばって」

二人はみんなの視線の中、教室のドアの前で黙ったまま突っ立っている。

みんなが見てる。イヤ〜最近こんなのばっかり。

「ちょっと、来いよ」蓮は誰の視線も気にすることなく倫の手首を掴み歩き出す。

「痛いっ!痛いでしょ、なんでこんなコトするの?」

蓮とは反対にこんな大勢の視線に慣れてない倫は自分の手首を引っ張る手を思いっきり振り

払うと蓮を睨んだ。

もう、話さない。もう会わない……。って決めた。

こんないい加減で……こんな軽い男なんて……大っ……。

「ごめんっ、倫っ」

キラ……ィ。

えっ?

思わなかった。蓮くんの口から……こんな言葉が出るなんて思わなかった。

倫は目を丸め驚きポカンと口を開けたまま顔を上げる。

見上げて見た蓮の顔は汗まみれだった。

私に謝る為に、その言葉を言う為に蓮くん走ってきたの?

「……似合わない」

「は?」

「汗、あなたには似合わないよ」

蓮くんに似合わないよ、その汗。

「何それ?」

「だって似合わないんだもん」

「じゃぁ、似合わないコトしたから許してくれる?」蓮は顔を傾け悪戯っぽい表情でニッと笑う。

「ランチご馳走してくれる?」倫は頬をプーッと膨らませ、生意気そうな顔で蓮の顔を見ると優しく

笑う蓮。

「お安い御用です。倫さま」

「じゃぁ、しょうがないから許してあげるよ」






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