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ある竜の友誼

作者: ヒイラギ
掲載日:2026/07/07

「人間の食べ物は旨いのじゃ!」

「もっと持ってくるのじゃ!」

「む、この甘いものは何じゃ?」

「ほう、プリンというのか。よい。実によいぞ」

「人間は弱いくせに、面白いものを作るのう」

「わっはっは!」

「気に入ったぞ!」

「ん?どうしたのじゃ?」

「…………」

「一緒に行かないか、じゃと?」

「ふん!わしの強さにあやかりたいのじゃな!」

「抜け目ないのう!」

「…………」

「違うのか……?」

「ほう」

「一緒にいたら楽しそうだ、と」

「そう言ってくれるのじゃな……」

「わしも、おぬし達といるのは楽しいのじゃ」

「しかし」

「悪いがそれはできぬ」

「おぬし達と共に旅をすることはできぬのじゃ」

「…………」

「うむ、きっと美味しいものも楽しいものもいっぱいあるのじゃろう」

「便利なことも多いじゃろう」

「しかしな」

「人としての暮らしの方が優れている」

「というわけではないのじゃ」

「ドラゴンの暮らしも悪くはないのじゃよ」

「…………」

「こ、これ!」

「浅はかだったなどと、謝るでない!」

「責めてるわけではないのじゃ!」

「この数日が至福の時じゃったのは本当じゃ!」

「……うむ」

「それでよい」

「……もう少し話さぬか?」

「心優しきおぬし達に伝えておきたいことがある」

「わしのように、人の言葉を解し、人に化けられる魔物は他にもいるじゃろう」

「うむ。わしはまだ、ヒトの幼体にしかなれぬのじゃが……」

「今はその話はいいのじゃ!」

「わしが言いたいのは」

「人に化け続けることは精神を摩耗させるということじゃ」

「少なくとも、わしの場合はそうなのじゃ」

「わしの本来の姿を見たじゃろ?」

「今の姿とは、あまりにもかけ離れておる」

「人の姿で笑い、人の言葉で語り、人の食べ物を口にしようとも」

「違和感は拭いきれぬ」

「人はちっさ過ぎるのじゃ」

「ドラゴンなら丸飲みできてしまう大きさじゃぞ」

「……まあ、そういうことなのじゃ」

「化けているだけ」

「人にはなりきれぬ」

「……あと一つだけ、ついていけぬ理由がある」

「これはドラゴンの誇りにも関わるのじゃが」

「人が、魔物を討伐するということじゃ」

「わかっておる」

「人にとって、それは仕方のないこと」

「わしもそこに怒ったりはせぬ」

「じゃが、それは魔物の世界に生きておるからなのじゃ」

「ドラゴンは魔物の頂に立つものじゃ」

「じゃからこそ、秩序を乱さぬように生きておる」

「好き勝手に爪を振るえば、山も街も壊してしまうからの」

「……このまま、魔物として生きるなら」

「おぬし達が魔物を殺すことも」

「弱肉強食として受け入れることができる」

「それが魔物のルールじゃ」

「しかし、人の世で生きるなら」

「わしは人の倫理に従わねばならぬ」

「じゃが、わしは」

「ドラゴンとしての」

「魔物としての、自分を捨てることもできぬ」

「誇りがあるのじゃ」

「そうなれば」

「わしは、魔物でありながら」

「人の倫理に従って、魔物を殺すことになる」

「同胞を殺すことは、おぬしらにとっては罪なのじゃろう?」

「……本当は、おぬし達についていきたい」

「もっと遊びたいのじゃ」

「しかし、これ以上近づくことは」

「どうしても、できぬ」

「…………」

「そう難しい顔をするでない」

「人にも魔物にも、事情があるということじゃ」

「おぬし達が旅をするなら、この先もわしのような魔物に出会うことがあるじゃろう」

「きっと、おぬし達と共にいたいと願う魔物は多い」

「じゃからな」

「わしとは違う選択をする者もおるかもしれん」

「その時は、人と魔物の狭間で揺れるそやつのことを、気にかけてやってくれ」

「…………」

「頼んだのじゃ」

「…………」

「意外とはなんじゃ、意外とは!」

「ドラゴンとしては若いが」

「おぬし達の何倍も生きておるのじゃぞ!」

「ふふん!わしは偉いのじゃ!」

「……では、またなのじゃ」

「共に生きる仲間にはなれぬが」

「友人としてなら」

「おぬし達の力になれることがあるかもしれぬ」

「……じゃから」

「また来るといい」

「珍しいお菓子をたくさん持ってくるのじゃぞ?」

「うむ、約束じゃ」


ドラゴンは、街の入り口で青年たちを見送った。

小さな手を大きく振る幼女の姿に、青年たちは顔を見合わせ、少しだけ笑った。

やがて彼らの背中が街道の向こうに消えると、ドラゴンはゆっくりと手を下ろした。

そして、彼らとは別の方角へ歩き出す。

街を離れ、道を外れ、やがて辺りから人の気配が消えた。そこに、人の姿をした者も、もういなかった。

一頭の竜が、空へ舞い上がる。

大きな翼を広げ、険しい魔の山の頂へ向かって飛んでいく。

その途中で、竜は一度だけ眼下を見下ろした。

遠い街道を歩く冒険者たちを、しばらく静かに見守った。

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