――貼られた運命――
西暦2149年。
世界から「国境」が消えた。
国家の代わりに誕生したのは、 巨大郵政都市群。
人類は“感情”を圧縮し、 特殊切手として保存する技術を得ていた。
喜び。 怒り。 絶望。 祈り。
その感情を封じた切手は 《聖刻切手》と呼ばれ、 貼ることで超常能力を発動できた。
だが――
人々はまだ知らなかった。
世界最初の切手には、 神を封印する力があったことを。
雨。
錆びた高架下。
少年・神代フミヤは、 郵便廃棄場でアルバイトをしていた。
「……また失敗配達かよ」
水たまりに沈む大量の手紙。
宛先不明。 差出人不明。
世界から忘れられた言葉たち。
フミヤはその中から、 妙に硬い封筒を拾った。
黒い封蝋。
そして中央には、 見たこともない切手。
そこには、 翼を持つ黄金の郵便配達人が描かれていた。
「なんだこれ……」
触れた瞬間。
ブツン。
世界の音が消えた。
次の瞬間、 無数の切手が空中に展開した。
燃える切手。 凍る切手。 血のような赤い切手。
その中央で、 巨大な声が響く。
『適合者確認』
『第88星霊郵便騎士団――起動』
フミヤの左腕に、 焼印のような紋章が浮かび上がった。
「う、あああああッ!!」
激痛。
皮膚が裂け、 光る紙片が噴き出す。
切手だった。
無数の切手が、 腕から羽のように舞い散る。
その時。
高架の上から声が落ちた。
「その切手を捨てろ」
少女だった。
白い外套。
片目を隠す銀髪。
背中には、 巨大な“切手帳”を背負っている。
彼女は静かに言った。
「それは神話級《原初切手》。 貼られた時点で、お前はもう普通の人間じゃない」
「……は?」
「狙われるぞ。 世界中の《郵騎士》に」
次の瞬間。
空が裂けた。
巨大な消印が、 夜空に押し付けられる。
ゴォォォン!!
空間そのものに、 赤黒いスタンプ痕が刻まれる。
そこから現れたのは、 漆黒の鎧を纏う男。
全身が、 破れた封筒のような装甲で覆われている。
肩には、 腐った記念切手が浮いていた。
「発見したぞ……原初切手」
男は笑った。
「俺は冥府郵政所属―― “料金不足のガロ”」
右手を掲げる。
指先に黒い切手。
そこに描かれていたのは、 首無し騎士。
「不足料金切手」
ベチャリ。
切手が空中に貼られた瞬間、 周囲の重力が沈んだ。
アスファルトが陥没する。
フミヤの膝が砕けそうになる。
「ぐっ……!!」
銀髪の少女が舌打ちした。
「最悪だ……いきなり冥府級かよ」
彼女は背中の切手帳を開く。
ページが風でめくれ、 無数の光る切手が浮遊する。
「行くぞ――」
少女の瞳が青く光る。
「速達聖装」
バチィッ!!
彼女の全身に、 青白い航空切手が貼り付いていく。
そして――
羽のような紙装甲が展開した。
それはまるで、 神話の郵便天使だった。
「うおおおおッ!!」
超高速。
音を置き去りにする突進。
ガロの腹に、 切手形の衝撃が炸裂した。
だが。
ガロは笑う。
「遅い」
背後。
黒い消印が現れる。
ドン!!
少女が吹き飛ばされた。
「がはっ……!」
フミヤは震えていた。
意味がわからない。
だが、 わかったことが一つだけある。
この切手は――
人を戦わせる。
その時だった。
フミヤの手の中の黄金切手が、 眩く発光する。
脳内に声。
『継承しますか?』
『YES/NO』
「……なんなんだよ……」
ガロが迫る。
巨大な黒スタンプが振り下ろされる。
死ぬ。
その瞬間。
フミヤは叫んだ。
「YESだぁぁぁぁぁッ!!」
黄金切手が、 額に貼り付いた。
世界が爆発する。
光。
炎。
無数の郵便番号。
そして――
黄金の装甲が、 フミヤの肉体を包み込んだ。
背中には、 六枚羽の切手翼。
胸には、 太陽の消印。
その姿はまるで――
“伝説の神速郵騎士”。
ガロが初めて怯えた。
「まさか…… 失われた《天翔切手》だと……!?」




