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5/17

床が死ぬ

1


洗剤のキャップに指をかけたまま、透真は三秒動かなかった。


三秒。

長い三秒だった。


"開ける"という動作には、三つの代償がある。

音が出る。匂いが出る。そして、"使った"という事実が残る。

残量は有限だ。一度使えば減る。減ったら戻らない。


廊下の奥。爪の音。

一つ、二つ、三つ。

散っている。こちらを探すように、廊下を分かれて動いている。


まだ来ない。でも、来る。

"まだ"は"もうすぐ"の別名だ。


透真はキャップから指を離した。

まだ開けない。開ける場所を、まず決める。


ドローンを持ち上げた。

光は壁に向け、手のひらで半分隠す。もう何度目か数えていない。数えなくても手が動く。


白い文字。


「今いる場所、周りに"落ちる"所ある?」


ユウの問いかけは、いつも短くて具体的だった。

余計な言葉がない。余計な言葉は光の時間を増やすから。


透真は返事をしない。

返事の代わりに、カートを引いて動き出した。


裏動線を二つ曲がる。

天井の配管が低くなり、壁がコンクリート打ちっぱなしに変わる。

その先で、視界が開けた。


吹き抜けの縁。


この階の"飾り"の一つだ。最上階には、来客用の吹き抜けホールがある。

六十二階から下を覗けるガラス張りの手すり。パンフレットには「開放的な空間設計」と書いてある。

透真はこのガラスを月に一度磨いてきた。指紋を消し、埃を取り、誰かの吐息の曇りを拭いてきた。


赤い非常灯に染まるガラス手すりの向こうは、暗い空洞だった。

底が見えない。ただ黒い。

普段は下の階のロビーが見えるはずの場所が、今は何も返さない闇になっている。


透真はガラスの手すりに触れなかった。

触れる前に、足元を見た。


ワックスの重ね塗りで薄く光るリノリウム床。

毎月、透真が自分でワックスをかけてきた。

鬼頭の指示で、古い層を剥がさずに上から重ね塗りした床。


清掃マニュアルには赤字で書いてある。

「ワックス塗布後、完全乾燥まで歩行禁止。濡れた状態での摩擦係数は極めて低くなります」


清掃員なら全員知っている。

ワックス床は、表面を濡らすと信じられないほど滑る。

さらに洗剤で表面の微細な凹凸を「開いて」から洗浄スキルをかけると、凹凸そのものが消える。

不純物も埃も傷も消える。ワックスの表面だけが残る。


純粋なワックス面。摩擦がほぼゼロの、氷のような床。


透真がこの知識を使ったのは、今まで「事故を起こさないため」だった。

今夜、初めて「事故を起こすため」に使う。


透真はドローンに床を映した。


白い文字。


「そこ、滑る?」


透真は頷いた。小さく、一度だけ。


頷いた直後に周囲を見る。

頷く動作は首が動く。動きは視線を呼ぶ。視線は位置を呼ぶ。


爪の音が、さっきより一つ近い方向から聞こえた。


時間がない。


---


2


透真は手順を組み立て始めた。


頭の中ではなく、手で。

考えてから動くのでは間に合わない。手が先に動いて、頭が追いつく。

三年間の清掃がそうだった。手順は身体に入っている。


まず、カートから養生シートを引き出す。

広げない。細長く折ったまま、吹き抜け縁に沿って床に敷く。

手すりと平行に、壁際を通る一本の「道」を作る。


これが、自分だけの「滑らない道」になる。


次に、雑巾を一枚取った。

結露した配管に手袋の指先を押し当てる。冷たい水滴が、布に染みる。

完全には濡らさない。湿る程度。湿った布は床に吸いつく。


透真は刻印板に親指を当てた。


声を出す。息の形にして、声帯の振動を最小にして。


「——接着」


雑巾が、安全靴の底にぴたりと固定された。

繊維と繊維が噛み合うように、布が靴底に張りつく。

透真は足を一度だけ床に置いた。


滑らない。引っかかる。歩ける。


これで、自分の足場は確保した。


次に、視線をガラス手すりに向ける。

透明なパネル。金属のフレーム。ボルトが上下に二本ずつ、計四本。

このボルトの締め具合は知っている。毎月ガラスを磨くとき、フレームのがたつきを確認してきたから。


透真は吹き抜け縁の配置を頭の中で描いた。

パネルは五枚。等間隔。

透真がいる位置から正面——廊下の延長線上にあるのは、左から三枚目のパネル。


廊下をまっすぐ走ってきたものは、三枚目のパネルにぶつかる。


透真はそのパネルの前に立った。


ドローンを伏せ、光を殺す。

爪の音が、一段近づいた気がした。気がしただけかもしれない。でも「気がした」を無視したら死ぬ。


刻印板。息の形。


「——解体」


ボルトが回るのではなく、部品に戻る。

軸とワッシャーと座金が、透真の左手に音もなく収まった。


上の二本だけ外す。

下の二本は残す。

全部外したら、パネルが倒れて音が出る。

上だけ外せば、パネルは立ったまま——だが、強い力がかかれば上部から倒れる。

蝶番のない扉と同じだ。上を留めなければ、押されたら開く。


外したボルトと座金を、ゴミ袋に入れた。

金属同士がビニール越しに触れ合う。かすかな感触。

音は出ていない。でもこの袋を振れば、音は出せる。


WET FLOOR看板を、手すりの手前に立てた。

黄色いプラスチックが、赤い非常灯の中でやけに目立つ。

人間の目にも目立つ。人間でないものの目にも——。


この看板は「ここに何かがある」と宣言する道具だ。

清掃現場では、注意を引くために置く。

今夜は、注意を引くために置く。目的は同じだ。対象が違うだけ。


看板の裏に、ボルト入りのゴミ袋をそっと置いた。


透真はカートの下段から洗剤を取った。

床用。残り四分の一。


キャップを開ける。

最小の動き。親指と人差し指だけ。

キャップの爪が外れるとき、小さな「パチ」という音がする。

透真はその音を、左手で自分の太腿を叩くことで消した。布が鳴る音に紛れさせる。


匂いが立つ前に、モップの先に洗剤を少しだけ含ませた。

ボトルから直接床に撒かない。撒くと「点」になる。匂いの点は、道になる。

モップで「薄く広げる」と、匂いが拡散して境界がぼやける。


透真は床に、一本の帯を描いた。


吹き抜け縁に向かって、まっすぐ。

廊下の中央から、三枚目のガラスパネルへ向かって。

自分が通る養生シートの道からは離して。


「滑る道」と「滑らない道」を、同じ床の上に作る。


モップを引くとき、手首が震えた。

恐怖ではなく、緊張だった。——いや、恐怖だ。恐怖を緊張と呼び替えても、手は震える。


帯を引き終えた。


透真は刻印板に親指を当てた。


ここからが核心だった。


洗剤が表面を「開く」。微細な凹凸に入り込んで、ワックスの地肌を露出させる。

その状態で「洗浄」をかけると、凹凸そのものが消える。

傷も、埃も、不純物も、全部消える。

残るのは、純粋なワックス面だけ。


息の形。


「——洗浄」


掌から光が走った。


床の帯が、変わった。

リノリウムの色は同じ。ワックスの色も同じ。

でも、光の返し方が違う。

さっきまで「艶のある床」だったものが、「鏡」になった。


赤い非常灯の光が、床面で完全に反射している。

乾いているのに、氷よりも滑らかな表面。


透真は帯の端を、足先で一度だけ触れてみた。

雑巾を接着した足でなければ、触れた瞬間に滑る。

摩擦がない。足裏が床を掴めない。


清掃マニュアルの赤字が、頭の中で点滅した。


「歩行禁止」


透真は養生シートの上に退いた。


準備は終わった。


あとは——来るのを待つ。


そのとき、廊下の角の向こうから、爪の音が変わった。

さっきまで散っていた音が、一つに集まった。

方向が定まった。


こちらに来る。


透真は看板の裏のゴミ袋に、足先を伸ばした。


まだ蹴らない。

まだ早い。


---


3


爪の音が、角を曲がった。


赤い光の中に、輪郭が現れた。


四本足。肩が透真の胸の高さ。

黒い毛皮の下に、筋肉が波打っている。

頭部は犬に似ているが、犬ではない。額に小さな角がある。目が赤い。


——大きい。


想像していたより、大きい。

廊下に影が映ったとき「大きいだろう」とは思っていた。

でも実物は、影よりさらに大きかった。


そして——速い。


角を曲がった瞬間、四本の脚が一斉に床を蹴った。

爪が石を削る音。重量が床を叩く振動。

走り出したら、止まる気がない走り方だった。


透真の身体が竦んだ。


一瞬。

一瞬だけ、足が凍った。

頭は「動け」と言っている。身体が聞かない。

恐怖が筋肉を掴んでいる。


ドローンの画面で、白い文字が光った。


「蹴れ」


透真の足が動いた。


看板の裏のゴミ袋を、足先で蹴った。


ビニールの中で金属が鳴る。


カラン。


小さな音。

でもこの静けさの中では、叫びと同じだ。


黄色い看板が視界に入ったのか。音に反応したのか。

魔族の頭が、看板の方へ振れた。


一瞬だけ。進路が、ほんの少しだけ、吹き抜け縁寄りにずれた。


それだけで十分だった。


前脚が、透真の作った「帯」に乗った。


爪が床を掴もうとした。

いつもなら掴めるはずの動作。硬い爪が石を噛む、いつもの動作。


——掴めない。


爪が、ワックス面を引っ掻いた。

甲高い音。黒板を爪で引っ掻く音に似ていた。

掻いても掻いても、何も噛めない。表面が滑る。爪の先が空転する。


後ろ脚も帯に入った。


四本の脚が、全部同時に制動を失った。


透真はその光景を、養生シートの上から見ていた。

動けなかった。——いや、動かなかった。

動けば視線が透真に固定される。固定されたら、あの体が方向を変えようとする。

方向を変える"支点"を与えてはいけない。


何もしない。

何もしないことが、今の最善だった。


魔族の体が横に流れた。

重心が崩れている。立て直そうとしている。

立て直そうとするほど、脚が開く。脚が開くほど、滑る面積が増える。


重いものほど滑る。

速いものほど止まれない。

この魔族は重くて速い。だから、止まれない。


体が吹き抜け縁に向かって流れていく。

真っ直ぐ。透真が引いた帯の方向に。三枚目のガラスパネルへ。


WET FLOOR看板が脚に引っかかり、黄色い板が跳ね上がった。

赤い世界の中で、黄色が回転する。


魔族の肩が、三枚目のガラスパネルに激突した。


ガラスが軋んだ。

金属フレームが悲鳴を上げた。


上のボルトがない。

上を支えるものがない。

下の二本だけが、全重量を受けている。


受けきれない。


ガラスが上部から外れた。

透明なパネルが外側に倒れていく。


魔族の体が、パネルと一緒に傾いた。


前脚が手すりのフレームを掴もうとした。

掴んだ。一瞬だけ、爪が金属に食い込んだ。


透真の心臓が止まりかけた。


——止まる。止まってしまう。


爪が金属を噛んでいる。

体が半分、手すりの外に出ている。

でも前脚が引っかかっている。


一秒。


魔族の赤い目が、透真を見た。


見えていた。

暗闇の中で、養生シートの上に立っている透真を、見ていた。


透真は動けなかった。

目が合った。人間ではないものと、目が合った。

恐怖が、音になる前に喉を塞いだ。


もう一秒。


魔族の爪が、金属の表面を滑った。


洗浄スキルの残滓。

透真が毎月磨いてきた手すりのフレーム。表面が滑らかすぎた。

爪が噛み切れなかった。


前脚が外れた。


魔族の体が、闇の中に落ちた。


音はなかった。


一秒。二秒。三秒。


四秒目に、下のどこかで、重いものが何かに当たる鈍い音がした。


一度だけ。


その後、何も聞こえなくなった。


---


4


透真は養生シートの上に立ったまま、動けなかった。


息を吐こうとした。吐けなかった。

吐くことを、身体が忘れていた。


五秒かかって、息が出た。

出たら、止まらなくなった。

肩が上下する。過呼吸の一歩手前。


透真は膝に手をついた。

手袋越しに、膝が震えているのが分かる。

膝だけじゃない。腿も、背中も、顎も震えていた。


さっきまでは震えを隠せていた。

「手順がある」から。手を動かしていれば、震えは作業に紛れた。


今、手順が終わった。

手が空いた。

空いた手が、震えだけを伝えている。


透真はガラスの手すりの方を見なかった。

近づかなかった。覗かなかった。


清掃の現場でも同じだった。

事故が起きた後、現場を確認しに行くのは上の人間の仕事だ。

清掃員は「処理」をするだけ。

"見る"のは仕事じゃない。


——嘘だ。


見たくないだけだ。


さっき、目が合った。

赤い目。人間ではない目。

でもあの一瞬、あの目の中に何かがあった。

怒りか。恐怖か。驚きか。

分からない。分かりたくない。


透真は洗剤のキャップを閉めた。

指先で、音が出ないように。


閉める動作が、手順に戻る感覚を運んでくれた。

手順があれば、震えは紛れる。

だから、次の手順を探す。


——洗剤の残り。使った分を引いて、四本と少し。

——モップの先を拭く。匂いを消す。

——養生シートを回収する。自分の「道」を消す。

——ゴミ袋を回収する。証拠を消す。


証拠?


透真は自分の考えに、一瞬だけ引っかかった。

何の証拠だ。誰に対する証拠だ。


相手は魔族だ。事故処理に証拠もクレームもない。


でも透真の手は、「現場を元に戻す」手順で動いていた。

三年間、そうしてきたからだ。

掃除して、片付けて、痕跡を消す。

自分がここにいた証拠を、自分で消す。


いつもの仕事だった。


いつもの仕事が、今日は人間を——人間じゃないものを、落とした後の処理になっている。


透真はシートを丸めてカートに押し込んだ。

ゴミ袋を回収した。ボルトの感触が、ビニール越しに指に伝わった。

モップの先を雑巾で拭いた。洗剤の匂いが薄くなる。


全部、いつもの手順。

いつもの手順で、いつもと違うことをした。


透真はカートの取っ手を握り直した。


握り直すとき、手がまだ震えていることに気づいた。


ドローンの画面に、コメント欄が流れていた。

速すぎて読めない。読めないが、流れの色が明るい気がした。


白い文字が、一つだけ重なった。


ユウからの文字。


「一体、処理した」


処理。


その単語を見て、透真の口元が引き結ばれた。


「処理」でいい。

「倒した」でも「殺した」でもなく、「処理」。


清掃員の仕事は処理だ。

今日も、処理をした。


透真はドローンのカメラに、ほんの一瞬だけ目を向けた。


画面の向こう側に、知らない人間がいる。

何百人か、何千人かは分からない。

でもその中の誰かが、今の透真を見ていた。


震えているところも。

息ができなかったところも。

覗けなかったところも。


全部、見られていた。


その事実が、恥ずかしいのか、心強いのか、まだ分からなかった。


---


5


白波ユウの配信画面には、赤い廊下と、割れたガラスの手すりが映っていた。


ユウは、十秒間黙っていた。


配信者にとっての十秒は、永遠だ。

沈黙は事故だ。沈黙は離脱を招く。


でもユウは、十秒間、何も言えなかった。


画面の中で、清掃員が膝に手をついて震えている。

肩が上下している。息が荒い。

さっきまで手順を淡々と組み立てていた人間が、手順が終わった瞬間に崩れている。


ユウは何千時間もダンジョン映像を解析してきた。

探索者が魔物を倒す映像。派手な魔法。歓声。ガッツポーズ。

そういう映像を、何千回も見てきた。


今、画面に映っているものは、そのどれとも違った。


清掃員は吹き抜けの縁に近づかない。

覗かない。確認しない。

倒したかどうかを、見ようとしない。


代わりに、洗剤のキャップを閉めている。

モップを拭いている。

シートを片付けている。


掃除している。


ユウはマイクに向かって、ようやく声を出した。


「……見たか」


コメント欄が、一斉に動いた。


> 見た

> 見た見た見た

> 嘘だろ

> 生活魔法で……?

> 洗浄と接着と解体で……

> 清掃員ニキ……

> 事故処理って言った意味これかよ

> 泣いてる 俺が泣いてる

> 掃除してる 倒した後に掃除してる


ユウは画面を見ながら、自分の指がキーボードの上で止まっていることに気づいた。


何を打てばいい。

「やった」はもう送った。

「すごい」は嘘じゃないが、足りない。


ユウは、十五秒目に、一行だけ送った。


「次が来る。準備しろ」


画面の中で、透真がカートの取っ手を握り直した。

震えている。まだ震えている。

でも、カートを引き始めた。


ユウはその映像を見ながら、配信のタイトルを変更した。


旧:「ダンジョン速報解析#1204」

新:「【生存配信】清掃員、事故処理中」


視聴者数のカウンターが、目に見える速度で回り始めた。


---


6


透真はカートを引いて、裏動線を戻っていた。


さっきと同じ廊下。さっきと同じ赤い光。

でも空気が違う。


一体、落とした。


その事実が、身体の中でまだ整理できていない。

嬉しくない。誇らしくもない。

ただ、「もう一回あれをやれ」と言われたら、できる気がしない。


手はまだ震えている。

震えたまま、カートを引いている。

震えと歩行は共存できる。


角を曲がった。


裏動線の奥。さっきと同じ道。

——のはずだった。


床に、何かが落ちていた。


透真は足を止めた。


赤い非常灯の下で、床に光るもの。

小さい。親指の先ほどの大きさ。


透真はしゃがんで、目を凝らした。


爪だった。


黒い、太い爪が、床に一本だけ落ちている。

さっきの魔族のものか。別の個体のものか。

分からない。


分からないが、一つだけ確かなことがある。


ここを、通ったものがいる。


透真は立ち上がった。


そのとき、廊下の奥で——


カツン。


一つ。


カツン。


二つ。


透真は息を吸った。

吸った息が、肺の底で冷たくなった。


さっき落としたのは、一体だ。

このビルにいるのが一体だけとは、誰も言っていない。


透真はカートの取っ手を握り直した。


手汗が冷たい。手袋がぐっしょりと濡れている。

でも、指は動く。まだ動く。


透真はカートの中を見た。


洗剤、四本と少し。

モップ。テープ。雑巾。看板。シート。ライト。

ドローン。


まだある。

まだ持っている。

まだ、やれることがある。


透真は赤い廊下を、音を殺して進み始めた。


ドローンの画面に、コメントが一つ流れた。


読む暇はなかった。でも、目の端に映った。


> 定時まであと何時間だ


透真は、一瞬だけ口元が緩んだ。


緩んだのは、笑ったからじゃない。

泣きそうだったのを、堪えたからだった。


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