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海賊船と土下座外交

エコーと別れた田中は、冷や汗を拭きながらカレン局長の部屋に入った。

部屋の中は、ビービーと警告音が鳴り響いていて、ものすごくうるさい。


「もう! なんで『話し合い』が通じないのよ!?」


カレン局長が机をバンバン叩いて怒鳴っている。

普段は冷静な彼女が、今は髪を振り乱してパニック状態だ。

部屋の大きな窓の外には、サメの絵が描かれたボロボロの宇宙船が張り付いている。どう見ても悪者だ。


「あ、田中! 遅い!」


カレンは田中を見るなり、救世主を見つけたような顔をした。

「見てよあれ! 『宇宙海賊』が来たのよ!」


モニターには、ドクロのマークがついた海賊たちが映っている。彼らは汚い言葉で叫んでいた。


『ガハハ! 俺たちは自由だ! ヘルメットなしで宇宙に出る権利をよこせ!』

『酒を出せ! 豆腐じゃなくて、血のしたたる肉をよこせ!』


この「超ホワイト社会」のエリートたちは、乱暴な海賊にどう対応していいか分からず、オロオロしている。

「局長! あいつら、書類にサインしてくれません!」

「『バカ』って言われました! AIがショックで気絶しました!」


カレンは頭を抱えた。

「信じられない……。こっちがこんなに気を使ってるのに……あれ?」


カレンはふと、田中の方を見た。

そして、手元にある「指名手配書(土下座している男の写真)」と、田中の顔をじっと見比べた。


田中の心臓が止まりそうになった。

バレたか?


「……あなた、いい顔をしてるわね」

「は、はい?」

「その、人生をあきらめたような死んだ魚の目。そして、どんな理不尽も飲み込むヘラヘラした笑い……。あなた、適任だわ」


カレンは田中の胸ぐらをつかみ、窓の外の海賊船を指さした。


「行ってきなさい」

「……はい? どこへ?」

「決まってるでしょ。海賊船よ。あいつらは言葉が通じない野獣よ。だから、あなたみたいに痛みに鈍感な人間が交渉に行くしかないの」


「いやいやいや! 無理です! 『殺され』ますって!」

田中は真っ青になって叫んだ。ブラック企業の飛び込み営業とはわけが違う。命がかかっているのだ。


しかし、カレンはキョトンとして首をかしげた。


「コロサレル? ……なにそれ? 新しいスラング?」


「え?」

田中は絶句した。


「AI、検索して」カレンが命じる。

《検索結果……『殺す』。古代語。物理的な打撃によって、他者の生命活動を強制的に停止させること。きわめて野蛮で不衛生な行為》


「うわ、気持ち悪っ!」

カレンは顔をしかめた。

「生命活動を止める? なんでそんな非効率なことをするの? 普通は『カウンセリング』を受けさせて更生させるでしょ?」


「いや、あいつら海賊なんで! 話通じないんで!」


「だからあなたが『配慮』しに行くのよ!」

カレンは全く話を聞いていない。彼女にとって「死」とは、せいぜいシステムエラー程度の認識なのだ。


「いい? 拒否権はないわ」

カレンは冷たく笑った。

「もし断るなら……この『指名手配犯』の映像、もう一回AIに調べさせようかしら? 今はバグでごまかせてるみたいだけど、私が手動で照合すれば……一発でバレるわよね?」


田中は息を飲んだ。

完全にバレている。いや、彼女は田中を「使える道具」として泳がせていただけなのだ。

行けば海賊(死の危険)、戻ればカレン(社会的抹殺)。

社畜に逃げ場はない。


「……分かりました」

田中はガックリと頭を下げた。

「行ってきます。……ただし、残業代は弾んでくださいよ」


「成功したらね。……その『コロサレル』ことにならなければの話だけど」


数分後。

田中は一人乗りのポッドに乗せられ、海賊船へと発射された。

武器はなし。持っているのは名刺と、日本仕込みの「謝罪スキル」だけ。


プシュー……。

海賊船のドアが開く。

そこには、モヒカン頭や機械の体を持つ、見るからに凶悪なエイリアンたちが待ち構えていた。


『あァ? なんだテメェは。こんなヒョロヒョロのやつが何の用だ』

巨大な斧を持ったトカゲ型の船長が、田中の鼻先に刃を突きつけてくる。


絶体絶命だ。

だが、田中の腹は決まっていた。

彼はゆっくりとスーツのボタンを外し、汚れた床を見つめた。

プライド? そんなものは平成の時代に置いてきた。


田中は膝を折った。

流れるような動きで両手をつき、おでこを冷たい床に叩きつける!


「この度はァァァッ!! 私どもの不手際によりィィィッ!! お客様に多大なご迷惑をおかけしてしまいィィィッ!!」


ドォォォン!!


ものすごい勢いで頭を下げたせいで、海賊船の床が揺れた気がした。

海賊たちが「ビクッ」として後ずさりする。


「ま、誠に申し訳ございませんでしたァァァッ!!!」


必殺技「土下座(DOGEZA)」。

それは、ルールで守られた温室育ちの未来人だけでなく、自由を愛する荒くれ者たちにも通じるのか?

田中の、命を賭けたクレーム処理が始まった。

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