禁断のクローンと、歴史から蘇った最凶の参謀たち
「クソッ! クソッ! クソォォォッ!!」
黒鷺のアジトである高級タワーマンションの最上階。
かつてはスタイリッシュだったリビングルームは、今や見る影もなかった。
高級なホログラム発生装置は破壊され、床には引きちぎられたAIロボットの残骸(黒鷺が八つ当たりした結果)が散乱している。
「なぜだ……! なぜ、あのしがないサラリーマン崩れに勝てない!?」
黒鷺は、窓ガラスに自分の顔を押し付けて唸った。
ネズミ講は論破され、ネガキャンは逆効果、フランチャイズ戦略もアトラクション化して失敗。
ことごとく、田中の「昭和の社畜力(と働きたくない精神)」に計算を狂わされてきた。
「私の完璧な計算が……未来の超高度AIが、なぜ通用しない!?
……そうか。分かったぞ」
黒鷺は、血走った目で気づいた。
「この時代の連中は『ピュア』すぎるんだ! AIも『論理的』すぎる!
タナカのような『理不尽で、泥臭くて、カオスな存在』に対抗するには、同じように『人間の業にまみれた悪意』が必要なのだ!」
黒鷺は、部屋の奥にある隠し扉を開いた。
そこは、彼が未来の技術を盗用して作り上げた「違法クローン培養ラボ」だった。
「未来の人間がダメなら、過去から呼び戻すまでだ。
……歴史の闇に葬られた、本物の『悪知恵のスペシャリスト』たちをな!」
黒鷺が操作パネルにデータを入力する。
帝国の歴史データベースから盗み出した、偉人たちのDNA情報と人格データ。
その中から、彼が厳選した「二人の劇薬」が選ばれた。
『クローン生成シークエンス、開始』
『対象A:戦国時代の梟雄』
『対象B:ルネサンス期の冷徹な政治思想家』
ブクブクブク……。
培養液の中で、二つの影が急速に人の形を成していく。
「蘇れ! そして私に知恵を貸せ! タナカを地獄に叩き落とすための、最悪の知恵を!」
ドォォォォン!!!
突然、片方の培養カプセルが内側から爆発した。
煙が晴れると、そこには一人の老人が立っていた。
蓬髪で、眼光は鋭く、なぜか懐に古びた茶釜を抱いている。
「……フン、随分と奇妙な『あの世』だな。信長の野郎がおらんようだが?」
男がニヤリと笑う。
その顔には、主君を裏切り、将軍を暗殺し、東大寺の大仏殿を焼き討ちにしたという、数々の悪行の年輪が刻まれていた。
男の名は、**松永久秀**。
日本の戦国時代が生んだ、裏切りと破壊の芸術家である。
「素晴らしい! 本物の『乱世の悪党』だ!」
黒鷺が歓喜する。
プシューッ……。
もう一つのカプセルが静かに開いた。
そこから現れたのは、中世のローブをまとった、痩せぎすで神経質そうな男だった。
彼は周囲の未来的な機器を見ても動じず、ただ冷徹な目で黒鷺を観察した。
「……興味深い。ここは『天国』というよりは、君主が不在の『空白地帯』のようですね」
男が静かに呟く。
その声には、感情の起伏が一切感じられない。
彼の名は、**ニッコロ・マキャヴェッリ**。
『君主論』の著者であり、「目的のためには手段を選ばない」冷徹な権謀術数の代名詞。
「よもや、歴史の教科書でしか見たことのない偉人たちが、私の目の前に……!」
黒鷺は震えた。
松永久秀が、窓の外に広がる未来都市を見下ろして鼻を鳴らした。
「ケッ、煌びやかだが、腑抜けた街だ。……おい、若造(黒鷺)。この時代には『火薬』より面白い玩具はあるのか?」
黒鷺は、最新鋭のプラズマ爆弾のデータをホログラムで表示した。
「ヒャハハハ! 面白い! 平蜘蛛の茶釜より派手に爆ぜそうだ! 気に入ったぞ、この時代!」
久秀が目を輝かせて笑う。
一方、マキャヴェッリは都市の統治システム(グランド・エンパスAI)のデータを冷静に分析していた。
「……なるほど。この時代の市民は『恐怖』と『疑念』を忘れている。統治者としては扱いやすいが……侵略者にとっては、これほど容易い獲物もいない」
マキャヴェッリが黒鷺に向き直った。
「君主よ。貴方の敵は、その『疑う心』を持った稀有な存在のようですね。ならば、彼を孤立させ、民衆の『愛』を『憎悪』へと反転させるのが定石でしょう」
「おお……! さすがはマキャヴェッリ先生! 私が求めていたのはその冷徹な計算だ!」
黒鷺は確信した。
これだ。
未来のテクノロジーと、過去の悪知恵が融合した、最強の布陣。
* 未来の詐欺師:**黒鷺**(資金力・技術力)
* 戦国の梟雄:**松永久秀**(破壊工作・裏切り)
* 冷徹な参謀:**マキャヴェッリ**(情報操作・心理戦)
時空を超えた最凶チーム「ヴィランズ・リボーン(仮)」が、ここに結成された。
「見ているか、タナカ……」
黒鷺は、遠くに見えるタナカの店(相変わらず行列ができている)を睨みつけた。
「今までの遊び(ゲーム)は終わりだ。ここからは、歴史が証明した『本物の悪』が、貴様を教育してやる」
松永久秀がニヤリと笑い、マキャヴェッリが静かに頷く。
平和ボケした銀河帝国に、かつてない規模の嵐が吹き荒れようとしていた。
一方その頃、田中。
「んぁ〜……今日も平和すぎて眠いな……。エコー、肩揉んでくれ」
「はい、喜んで♡」
迫りくる危機など露知らず、田中は今日もサボっていた。




