暖簾分けの罠と、爆炎のワイルド・ダイニング
「……もうダメだ。体が3つあっても足りない」
「猛毒摂取所(本店)」の裏口で、田中は栄養ドリンクの空き瓶を握り潰していた。
店の評判はとどまる所を知らず、カレンやルミナの接客も相まって、今や「銀河一の観光名所」となっていた。
当然、オーナーである田中の業務量(スープ管理、経理、カレンのメンタルケア)は爆発的に増えていた。
「このままじゃ過労死する。……せっかくの第二の人生が、前世以上のブラック労働で終わるなんてごめんだ」
田中は閃いた。
「そうだ。……**『店舗拡大』**だ」
普通なら、店舗を増やせば忙しくなる。
だが、田中の狙いは逆だった。
「俺の目が届かない『支店』を作り、そこで素人に適当な料理を出させる。
そうすれば『タナカのラーメンは味が落ちた』『支店の接客は最悪だ』という悪評が広まり……結果として本店の客も減る!
ブランド価値を自ら毀損し、俺は自由になるんだ!」
田中はすぐに海賊船長を呼び出した。
「船長。……お前に『タナカ・ホールディングス』のNo.2の座をやる」
「ええっ!? 俺が!?」
「ああ。今日からお前は『2号店』の店長だ。場所はあっちの広場を使え。レシピ? 教えない。お前の『魂』で自由に作れ。俺はいっさい口出ししない(責任も取らない)」
「アニキ……! 俺をそこまで信頼して……!」
船長は男泣きした。
「分かりました! 海賊の誇りにかけて、とびきり『ワイルド』な店にします!」
「おう、期待してるぞ(頼むから失敗してくれよ)。」
田中はほくそ笑んだ。
料理経験ゼロの荒くれ者が店をやれば、ボヤ騒ぎか食中毒で即営業停止だ。
これでやっと休める……。
***
数日後。
田中が悠々と昼寝をしていると、エコーが血相を変えて飛び込んできた。
「店長! 起きて! 2号店が大変なことになってる!」
「んぁ? ……やっと警察沙汰になったか。よし、謝罪会見の準備を……」
「違うの! ホログラムTVをつけて!」
モニターに映し出されたのは、信じられない光景だった。
2号店の厨房(というか野外テント)。
そこでは、海賊たちが上半身裸で暴れ回っていた。
『へいらっしゃい! 野郎ども、気合入れろ!』
『オオオオッ!!』
ドンッ!
海賊の一人が、巨大な肉の塊を放り投げる。
別の海賊が、それを**「海賊剣」**で空中で切り刻む!
ザシュッ! ザシュッ!
「これが俺たちの『乱れ切り』だァァッ!」
さらに、麺を茹でる釜の下にはコンロがない。
代わりに、**「軍用火炎放射器」**を持った部下たちが、釜に向かって炎を噴射している!
ゴオオオオオオッ!!!
「火力最大! 1000度の炎で一気に茹で上げるぞ!」
「湯切りザルなんて女々しいモンはねぇ! 遠心力で飛ばせ!」
ビュンッ!
茹で上がった麺が空を舞い、客の丼にバシィッ!と叩きつけられる。
「……な、なんだあれは」
田中は絶句した。
「調理じゃない……『暴動』だ」
しかし。
客席(ドラム缶)に座る未来人たちは、熱狂していた。
『すげぇ! 目の前で肉が舞っている!』
『火炎放射器で炙ったチャーシュー……焦げ臭いけど、この「野性味」がたまらない!』
『これぞ「サバイバル・ダイニング」! 命の味がする!』
未来の世界では、料理は工場のクリーンルームで作られるのが常識。
汗と炎と暴力にまみれた海賊たちの調理風景は、彼らにとって**「究極のライブ・パフォーマンス」**だったのだ。
『2号店、3時間待ちです! アトラクションとしての評価は星5つ!』
「嘘だろ……」
田中は頭を抱えた。
「味が落ちるとか以前の問題だ。……なんで『火事場』に金払って行列作ってんだよ!」
***
一方、黒鷺。
彼は対抗策として、**『完全衛生チェーン・ピュアフード』**を100店舗同時にオープンさせていた。
「塵ひとつない無菌室で作られた、最も安全な食事」が売りだった。
しかし、客はゼロ。
「なぜだ……! なぜあんな不衛生な『野蛮人の餌』に負ける!?」
黒鷺は、無菌室のガラスを叩き割った。
「私の店は、AIが0.1グラム単位で計量しているんだぞ! なのに……なぜ客は『剣で適当に切った肉』を喜ぶんだ!」
部下が報告する。
「はっ……お客様のレビューによると、『ピュアフードは安全すぎて死んだじいちゃんを思い出す』『海賊ラーメンは、食うか食われるかの緊張感があって興奮する』とのことです……」
「スリルだとォ!?」
黒鷺の「完璧な衛生管理」は、海賊たちの「命がけの不衛生」の前に敗北した。
黒鷺の店は「病院食」というあだ名をつけられ、閑古鳥が鳴く廃墟と化した。
***
その日の夜。
田中の元に、海賊船長が目を輝かせてやってきた。
「アニキ! 2号店は大成功です!」
「……ああ、見たよ。お前ら、よく店を燃やさなかったな」
「へへっ、実は相談がありまして!
次の新メニューなんですが、火炎放射器じゃ火力が物足りないんで、**『戦艦用ビーム・キャノン』**でスープを加熱しようと思うんです!」
「は?」
船長は、下手くそな設計図(落書き)を広げた。
「客席の真ん中をビームが通過して、瞬時に沸騰させる『レーザー・ラーメン』! 絶対ウケますよ!」
「バカ野郎ッ!!」
田中は思わず設計図をひったくった。
「ビームの余波で客が蒸発するわ! お前は『食品衛生法』の前に『ジュネーブ条約』を読め!」
「ええっ!? じゃあどうすれば……」
「貸せ! ここに防護壁を設置して、出力リミッターをかけろ! あと排気ダクトの設計が甘い! これじゃ一酸化炭素中毒になるぞ!」
田中はペンを取り出し、猛烈な勢いで修正案を書き込み始めた。
元・営業マンの悲しい性。
「危険な現場」を見ると、反射的に「安全管理マニュアル」を作ってしまうのだ。
「すげぇ……! さすがアニキ! 『安全かつ過激』なプランになった!」
「いいか、絶対にこの通りにやれよ! 客を殺したら店が潰れるからな!」
船長が帰った後、田中はハッと我に返った。
「……あれ?」
手元には、船長が置いていった「3号店(水中爆破調理案)」と「4号店(無重力バンジージャンプ・ヌードル案)」の企画書が山積みになっている。
「これ全部……俺が安全チェック(監修)するのか……?」
フランチャイズ化して楽をするはずが、いつの間にか**「危険すぎるアトラクション・レストランの総監督(安全責任者)」**という、一番胃が痛くなるポジションに収まってしまっていた。
「働きたくねぇ……! 俺はただ、ネギを育てていたいだけなのにぃぃぃ!!」
田中の叫びと共に、2号店の方角から「ドカーン!」という爆発音(大歓声)が聞こえてきた。




