手抜き工事の自動化と、予測不能なガチャ麺
「……疲れた」
「猛毒摂取所(ラーメン屋)」の裏にある休憩室。
田中は、山積みになった「感謝スコア(売上)」の通知を通知オフにしながら、深く溜息をついた。
「おかしい。俺はこの世界で『窓際族』のようなスローライフを送るつもりだったんだ。なのに、なんで前世よりも忙しくなってるんだ?」
店は大繁盛。行列は絶えない。
海賊たちは「へいらっしゃい!」と嬉々として働いているが、田中はもう限界だった。
社畜の悲しい性で、ついつい完璧な仕事をしてしまったが、もう十分だ。
「よし、サボろう」
田中は決意した。
「俺はもう現場には立たない。……『自動化』だ。それも、客が愛想を尽かすような、とびきり雑で、心のこもっていない自動調理マシンを導入して、フェードアウトする!」
田中は廃棄区画へ行き、産業廃棄物の中から「故障した溶接用ロボットアーム」と「壊れた洗濯機」を拾ってきた。
そして、それらをガムテープで適当に繋ぎ合わせ、やっつけ仕事でプログラミング(コピペ)した。
「完成だ……名付けて**『ヌードル・マシーン1号(適当くん)』**」
それは、どう見てもただのスクラップの塊だった。
動作テストをすると、アームが痙攣し、湯切りをするたびに熱湯を周囲に撒き散らす欠陥品だった。
「ククク……完璧だ」
田中は邪悪な笑みを浮かべた。
「こんな狂った機械が作ったラーメンなんて、誰も食いたがらないだろう。これで客足は遠のき、俺は悠々自適の隠居生活だ!」
翌日。
田中は店のカウンターにロボットを据え付け、「本日は全自動営業です」という看板を出して、自分は奥で昼寝を始めた。
ガシャン! ガシャン! ウィィィン!
店から凄まじい騒音が聞こえてくる。
(へへっ、客が悲鳴を上げてるな……。その調子だ、二度と来るなよ……)
田中は勝利を確信し、耳栓をして熟睡した。
数時間後。
「て、店長! 起きて! 大変なことになってる!」
エコーに揺り起こされた。
「なんだ、ついに客が暴動を起こしたか? 警察なら勝手に……」
「違うの! お店の前、昨日より行列が増えてる!」
「は?」
田中が慌ててモニターを見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
ロボットアームが、誤作動で麺を天井に叩きつけている。
しかし、客たちはスマホを構えて大歓声を上げていた。
『すげぇ! 見ろよあのアームの動き! 完全にランダムだ!』
『「湯切り」のリズムが暴力的すぎる! まるで前衛芸術だ!』
『キャーッ! 熱湯がかかったわ! 「聖水」よ!』
未来人たちは、AIによる「最適化された動き」に飽き飽きしていた。
そこへ現れた、田中の作ったポンコツロボットの「予測不能な痙攣」や「意味不明な挙動」が、彼らには**『計算を超えた情熱』**として映ってしまったのだ。
さらに、洗濯機を改造したスープ釜が、遠心力で具材を適当に盛り付けるため、人によって「チャーシュー10枚」だったり「ネギだけ」だったりする。
『見て! 私の丼、煮玉子が3つも入ってた! SSRだ!』
『くそっ、俺はメンマのみだ……ハズレだ! もう一杯!』
「……ガチャだ」
田中は膝から崩れ落ちた。
「俺の手抜き料理が……射幸心を煽る『ソシャゲ』みたいになってやがる……!」
こうして、店は「食べるアミューズメントパーク」としてさらに爆発的な人気を獲得してしまった。
田中は寝るどころか、ロボットのメンテナンス(ガムテープの補強)に追われるハメになった。
***
一方その頃。
黒鷺のアジト(高級タワーマンションの最上階)。
「……なぜだ」
黒鷺は、シャンパングラスを握り潰しそうになっていた。
彼もまた、新たなビジネスを展開していたのだ。
それは**『パーフェクト・コンシェルジュ』**。
完璧なマナー、完璧な動作、完璧な気配りをする高級AIロボットを高値で売り出していた。
しかし、売上グラフは急降下していた。
「なぜ私の『完璧なロボット』が売れずに……あんなスクラップの『ポンコツ』がバカ売れしているんだ!?」
部下が恐る恐る報告する。
「はっ……市場調査によると、市民は『完璧さは堅苦しい』と感じているようです。今のトレンドは、タナカ氏の店のような『バグのある可愛げ(ドジっ子属性)』だと……」
「ドジっ子だとォ!?」
黒鷺の完璧なビジネスプランが、田中の「手抜き」によって根本から否定されたのだ。
大量在庫となった高級ロボットたちは、今やタダ同然で叩き売られている。
「タナカ……! おのれ……!」
黒鷺はギリッと歯ぎしりをした。
「私の高度な計算を、貴様は『適当』という名のカオスで破壊する気か……! 許さん、絶対に許さんぞ!」
田中はただサボりたかっただけなのだが、結果として黒鷺に数億円規模(相当のいいね)の大打撃を与えてしまったのである。




