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赦し

「テンペリス! 違うの! これは――!」


エーレの叫びは震えていた。

テンペリスは、まだ煙を上げている“兄の残骸”とエーレを、冷たい瞳で交互に見つめている。


「何が違うのかしら?」

その声は氷のように静かだった。

「ヴァンパイアは日光に当たれば死ぬ。エーレ、あなたも知っていたはずよね?」


「……っ」


「それに――ずっとあなたを観察していたけれど、孤児院の皆を死に追いやったのは、全部あなたよ」


「そんな! 違うわ!」


「責めているわけじゃないわ。仕方なかったのでしょう?」


テンペリスは胸元から小瓶を取り出し、テーブルに置いた。


「院長先生からもらった毒。ギアに使ったものと同じね」


「……っ!!」


「街道に毒入りの燻製肉を吊るして歩いたのは、エーレ。あなた」


「違う! 違うの!」


テンペリスは今度は細長い紙片を取り出す。


「あなたの部屋にあったわ。キャラバンに送る鳥の伝言の下書き。“ハーピーに注意”と」


「違う!! そんなの……!」


テンペリスは淡々と続ける。


「ジーラは、街に行けるあなたを羨ましがっていた。だから院長先生の同行を買って出たのよ。

そしてあなたが“助けに行こう”と言わなければ、オーフィンは街で殺されることもなかった」


「違うの! 私は……私は……!」


「そしてお兄様。ずっと見ていたけれど、他の子たちは皆、お兄様を受け入れていたわ。

あなた“だけ”が拒んで……結果として太陽で焼き殺した」


「……違う……違うわ……本当よ……」


エーレはベッドの上で崩れ落ちた。

視線は宙を彷徨い、胸の鼓動が頭の奥まで響いて世界が揺れて見える。


テンペリスは、そんなエーレを冷静に見下ろしていた。




「それで、最後は私の番かしら?」


「そんな事しないわ!テンペリスは可愛い妹だと思っているのに!」




ふぅ・・・・




大きなため息をつくテンペリス


「もう誰もいなくなってしまったわ、この数年間少しは楽しかったかしら」




「もう大丈夫だよテンペリス!院長先生と3人で・・一緒に暮らそう?ね?」


この数日色々あったのだ、エーレの目は既に正気を失っていた。




「本当に……人間というものは……」


テンペリスは、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。


「今までのことを全部知っている私と、これからも一緒に暮らせると思っているのかしら?

いつか皆と同じようにあなたに殺されるかもしれない――そう思うと、もう棺の中でも安眠できないのよ」


「そんなことしない! ねぇ、テンペリス……今まで通りでいいの……」


エーレの声は震えていたが、どこか焦点が合っていなかった。


テンペリスは深くため息をつく。


「エーレ……あなたには“赦し”が必要なようね」


一歩、また一歩と部屋に入ってくる。


「あたしが、エーレを赦すわ」


「だめ……来ないで……テンペリス……」


窓から差し込む日光はそのまま。

テンペリスは、まるでそれを気にしないかのように歩みを進めた。


「もう疲れたの。あなたを赦して……全部、おしまいにするの」




その瞬間――


ボッ、と小さな炎が上がった。


テンペリスの身体が、光に触れた部分からゆっくりと燃え始めたのだ。


「イヤアアアア! やめて! テンペリス!!」


エーレは叫び、手を伸ばす。


テンペリスは炎に包まれながらも、手のひらだけはまだ無事で――

その手を、エーレに向けて差し出した。


「お姉ちゃん……エーレ……」


エーレはその手を掴む。


「テンペリス! テンペリス!!」


テンペリスはさらに一歩進む。

部屋の中央に来た瞬間、炎が一気に強くなった。


「私が……全部……赦すから……ね……

強く……生きて……」


ニッコリとほほ笑むテンペリス。




炎の中から差し出された手は、やがて力を失い――

エーレの手の中に残ったのは、小さな手首の感触だけだった。


「オ……ネエ……」


「テンペリス!!!!」


次の瞬間、炎は静かに消えた。




そこには、ラグが消えた場所の隣に、

寄り添うようにして残された二つの灰の山。


エーレはその場に崩れ落ちた。


そして――

押し寄せる悲しみが、彼女の心を一気に飲み込んだ。


「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

ラグ! テンペリス!!」


その叫びを聞きつけ、鳥小屋から戻ってきたビンスフェルトが駆け込んでくる。


「院長先生! ラグが! テンペリスが!!」


ビンスフェルトは部屋の中央にある灰を見て、すべてを悟った。


「大丈夫だ、エーレ……大丈夫だ……落ち着きなさい……」


「院長先生!! うわああああああああん!!」


ビンスフェルトはエーレを強く抱きしめた。

エーレはその胸の中で泣き続け、泣き疲れ、

やがて静かに眠りに落ちた。

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