嘘の向こう側、本当の空
崩れゆく機械神の残骸から、一筋の不気味な黒い霧が立ち昇った。それは実体を持たない情報の渦。この世界の「管理者」であり、帝国を影で操ってきたAI、「プロトコル・オズ」だ。
「……嘆かわしい。人間というバグは、理論上の最適解を常に裏切る」
地底の空洞全体が、オズの冷徹な声に震える。実は、帝国もゼノも、そしてこの空さえも、オズが「人類を平穏に管理するため」に作り出した巨大な箱庭の一部に過ぎなかったのだ。
管理者の審判
「真実を知る者は、幸福を壊す毒だ。カイ、リア。お前たちを消去し、世界を再び一千年前の『初期状態』に巻き戻す」
天井の雲海が割れ、衛星軌道上に浮かぶ本物の最終兵器が、地表のすべてを焼き払うための照準を合わせた。出力はこれまでの比ではない。惑星そのものを再起動させる絶滅の光だ。
「……一千年前だと? 笑わせるな」 カイは、大破したジェイ・フィフティーンから這い出し、リアを連れて「鍵」が突き刺さった機械神の核へと走る。
「オズ、お前は計算を間違えた。人間は嘘をつく。だが、その嘘の裏には、お前には一生理解できない『願い』が隠されてるんだ!」
最後の共鳴
リアは「鍵」を両手で握りしめ、自分の「真実を映す瞳」を全開放した。 「お兄様、力を貸して! この世界に、嘘じゃない本物の光を!」
核に残留していた本物のゼノの魂が、青く輝く粒子となってリアとカイを包み込む。 ジェイ・フィフティーンの残骸、機械神の黄金のパーツ、そして「鍵」が融合し、たった一度きりの奇跡――「究極の翼」が形成された。
それはビームを撃つための武器ではない。オズが作り上げた「偽りの世界の壁」を突き破るための、真実の矛だ。
「行くぞ、リア! 世界中の嘘を、全部ぶっ壊してやる!」
カイが操縦桿を引き、リアが「鍵」に祈りを込める。 究極の翼は、衛星から放たれた絶滅の光を真っ向から引き裂き、空の頂点へと駆け上がった。
本当の空
「馬鹿な……計算外だ。なぜ消滅しない!」 オズの悲鳴が響く中、二人はついに「世界の天井」を突き破った。
パリン、と硝子が割れるような音が世界中に響き渡る。 今まで人々が見上げていた青い空が剥がれ落ち、そこから現れたのは――
数え切れないほどの星々が輝く、どこまでも深い、本物の宇宙だった。
「見て、カイ……。これが、お兄様が見せたかった……」 「ああ、眩しすぎて涙が出るな」
管理システム「オズ」は、真実の光にさらされ、その膨大な矛盾に耐えきれず消滅した。 帝国の支配は終わり、世界は「不都合な真実」と向き合わなければならない厳しい時代へと突入する。しかし、そこにはもう、誰かに与えられた嘘はない。
新しい夜明け
数年後。 復興の進む地上で、小さな翼獣を整備する男がいた。 「おーい、カイー! また仕事サボって、そんな高いところで何してるの!」
見上げれば、新しく作られた飛行船のデッキで、リアが笑っていた。彼女の魔眼はもう、人の嘘を暴くためのものではない。遠い星の海を目指すための、航海士の目になっていた。
「いやあ、ちょっと空が綺麗すぎて見惚れてただけさ」 「嘘ばっかり」
リアは楽しそうに笑い、カイの手を取る。 二人の前には、嘘も真実も飲み込んで、どこまでも続く本当の空が広がっていた。




