奈落の庭園と硝子の愛
カイの捨て身の「全反射」作戦は成功した。帝国の艦隊は自らのビームで大打撃を受け、撤退を余儀なくされた。しかし、ジェイ・フィフティーンもまた限界だった。機体は炎上し、雲海を貫いて、禁断の「地の底の世界」へと墜落していく。
「カイ!しっかりして!」 意識を失いかけたカイをリアが揺さぶる。激しい衝撃と共に、機体は巨大な地下空洞へと激突した。そこは、地上の喧騒とは無縁の、奇妙なほど美しい世界だった。
偽りの楽園
墜落した先は、発光植物が天井から垂れ下がり、水晶のような花が咲き乱れる、まさに「奈落の庭園」と呼ぶべき場所だった。だが、その美しさはどこか不自然だ。地面には夥しい数の骨が転がり、花びらの奥からは微かな機械音が聞こえる。
「……ここは、かつて地上で廃棄された生命体たちの墓場だ」 目を覚ましたカイが、朦朧としながら呟いた。 「地上の人々が、都合の良い『真実』だけを生きるために、全ての『不都合な真実』をここに捨てたんだ。俺たちが乗ってきた翼獣だって、元は使い捨ての兵器だった」
リアは、その言葉に戦慄する。彼女が「真実を映す瞳」で見たのは、この庭園全体が、死んだ生命体の残骸の上に構築された「巨大な生命維持装置」であるという、おぞましい真実だった。光る花々は、死体から栄養を吸い上げ、機械がそれを循環させていたのだ。
「私たちは……汚れた世界に生きていたの?」
硝子の告白
疲労困憊のカイは、リアの肩にもたれかかり、弱々しく笑った。 「俺は、この世界の『真実』があまりにも脆いことを知っていた。だから、嘘を吐き続けるしかなかったんだ」
その時、リアの瞳が再び「裏切りの黒」を捉えた。カイの心に、まだ何か隠している「嘘」がある。 しかし、それはこれまで感じてきたものとは違う、深い悲しみを帯びた黒だった。
「カイ、あなたは……まだ私に隠していることがあるわね」 「ああ……でも、それは、お前を傷つける」
カイは懐から、あの「世界をリセットする鍵」を取り出した。それは古い方位磁石のように見えたが、よく見ると中心にはリアの瞳と同じ「真実を映す瞳」が彫り込まれていた。
「この鍵は、俺たち一族が代々受け継いできたものだ。……そして、お前の一族も、この鍵の真実を知っていたはずだ」 カイの指が、リアの頬をそっと撫でた。 「俺が裏切ったのは帝国じゃない。この偽りの世界全てだ。そして、俺は……ずっとお前を騙してきた」
カイの瞳は、まるで硝子細工のように繊細な光を宿していた。彼の心に、リアの魔眼が捉える「裏切り」とは全く異なる、純粋な「愛」が揺らめいていることに、リアは初めて気づいた。
「この鍵を使えば、世界は『真実』に戻る。だが、その代償は……」
その時、地底を揺るがす轟音が響き渡った。ゼノ将軍率いる帝国軍が、彼らを追ってこの奈落の庭園にまで到達したのだ。




