私のベスト年賀状~あなたからの脅迫状の様な年賀状を~
それは、年末に差し掛かるある日のことでした。
「住所教えて、年賀状送るから」
友人からそんな風に声を掛けられたのです。
今時年賀状なんて珍しいなと思いながらも、面白そうと思って住所を渡したのです。
私は文字を書くのは苦手で嫌いです。けれど、送ってくれるなら、私も挑戦してみようかな?もし送るなら、どんな年賀状を送ろうかな?と思いを馳せていると。
「とびっきり面白いやつを用意してやっからさ、待ってなよ」
それはもう、とてもとても悪戯っぽい良い笑顔でした。
友人のその笑顔の意味をよく考えれば、私は真相に気付けていたのでしょう。
私はそれに気付かぬまま悪戦苦闘の末、乱文乱筆ながらもなんとか年賀状を仕上げ、年末に自分の年賀状を投函したのです。
そうして新年になりました。
家族が駅伝を見ている中、走るのが苦手過ぎて見るのさえ鬱屈とした気分になる私は、席を外して外に出ることにしました。
新年。凍り付く空気を吸い込むと、頭まで冷たく、爽やかな気分になります。これであかぎれがなければ最高の季節なのにと思いながら、自分の白い息を見て、その先にあるポストへ向かいます。
ポストの中、束になった年賀状をトランプのようにペラペラと見ていく。
知らない企業からのもの、姓だけ見たことのある人、親戚、親戚、私の知らない人……
時代は移ろえど、変わらない人の縁はまだまだあるようです。あぁ、あった。
大きく書かれた私の名前。誤字があるけれど、それは許しましょう。
左に友人の名前。こんなに綺麗な字なら、あれこれ言われて厭な気持にならないだろうな、と思いながら、少しだけワクワクしながら裏返したのです。
「あ け ま し て お め で ト う
い い 一 年に シ な ! 」
新聞や雑誌の文字を一文字一文字丁寧に切り抜いて貼り付けた、誘拐犯の要求かひと昔前の脅迫状と紛う様な年賀状が、そこにはあったのです。
「えぇ……」
新年が明けて、その年賀状について触れると笑いながら友人は言いました。
「いやあれ、ホントに面倒くさかったんだ」
自分でやって、少し恨みがましく私を非難する友人に対して、少しだけ感情が揺れ動きましたが、多分許されるでしょう。
あれからどれだけの年月が経ったかは覚えていません。
けれど、私はそのことをよく覚えています。
走馬灯に『年賀状』という項があれば登場するかもしれないそんな一場面。
今になって考えると、笑ってしまうそれを思い出し、私は思うのです。
友人は、息災だろうか、と。
『こんな年賀状送られたのは自分だけだろう』と大笑いする友人から貰ったエピソードを基に書きました(投稿の了承済みです)。
友人の発言に嘘がなければ脅迫状じみた年賀状はノンフィクションということになります。




