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第7話 今宵は皓月でござるよー (本編161話)

「康代さん、先に行きますよ」


『ーー 秀美、待って』


「分かりました。少しですよ」


 せっかちな性格の豊下秀美は、生徒会執務室の廊下で徳田康代大統領を待っていた。

生徒会役員の門田菫恋(かどたすみれ)と 明里光夏(あかりみか)も一緒にいる。


 康代は神さま見習いセリエの神使セリウスと天女天宮静女(あまみやしずめ)にエスコートされて、秀美の前に遅れて現れた。


 静女が康代にウインクで合図を送る。

空間にメラメラした光が溢れ始め、康代たち六名は光を残してその場から消えた。


 康代は背伸びをした振りをして辺りを見渡す。

リニアモノレール宝田劇団劇場前駅の横手に瞬間移動していた。


秀美の心配が一瞬にして杞憂に変わる。


 背後から田沼光博士と若宮咲苗助手が秀美に声を掛けた。


「秀美さん、お早いですね。同じモノレールでしたか」


「私たちは、別ので・・・・・・」


 田沼と若宮は察しが良く静女を見て薄笑いを浮かべていた。

静女は不快な表情を一切見せず悠長に野良猫を眺めている。


「セリエ殿、遅いでござるな」


『静女、セリエさんは次元の歪み問題でお忙しいのよ』


 静女は康代に瞬きを送った。

康代には嫌な予感しかしない。


 瞬間移動した者たちの前に大きな屋根を持つ宝田劇団劇場があった。 

関係者専用通路から康代たちは中に入って行く。


「康代さん、あっという間に当日がやって来ましたね」


『柿落としが終わったら、校内かるた大会よーー 秀美も参加しなさい』


「康代さんが言うと業務命令に聞こえますよ」


『秀美、些末な企図などないわ』


「分かっていますが」




   ⬜︎⬜︎⬜︎




 先に到着していた前畑利恵副大統領と織畑信美首相が朝川夏夜と一緒に顔を出す。


「康代さん、私たちのお席は、こっち側からです」


 真新しいエスカレーターに乗り上の階に到着。

客席係の女性が政府発行の決済カードを読み取り、座席番号が表示された。


 康代たちは二階横の特別席が与えられていた。

朝川は康代たちが座席に着くと「あとで」と一言を残し舞台の裾に消えた。


「朝川さん、康代さんたちは・・・・・・ 」


「もう、あそこの席いるわ」


 朝川は夜神紫依の前で小さな素振りで指先を特別席に向ける。


「本当、みんな着てくれたんだね」


 夜神が声を詰まらせていた。


 柿落としに辿り着くことが出来たのは徳田理事長と徳田康代大統領の協力無ければ出来ないことを一番知っていたからだ。


「鬼の目にも涙ね」


「朝川さん、そのお言葉、そのままお返しするわ」




   ⬜︎⬜︎⬜︎




 特別席で康代はプログラムを確認していた。ペーパーレスの時代において、紙は貴重品だった。


『今日の初日は、羽衣の昇天ね』


「康代さん、古典のあれですか」


『うん、多分、あれじゃないかしら』


「康代さんと違って、古典苦手なんですよーー 物語がよく分からなくて」


『秀美、御伽噺なんだから、ラノベと同じく気軽でいいのよ』


「どうも器用貧乏というか。不器用と言うか。固いと言うか」


『そうね。そんな秀美が私は好きよ』


 秀美は康代に褒められ茹で蛸のように顔を赤くして照れた。




   ⬜︎⬜︎⬜︎




 開演のブザーが劇場内に響き渡った。

僅かな足元灯を残して場内ライトが舞台からゆっくり消え暗くなった。


 朝川夏夜が舞台中央の幕前に立ち照明が女優の顔を浮かび上がらせた。

朝川は短い挨拶を終え舞台の袖に下がる。

ブザーがもう一度鳴り響く。


 舞台の幕が左右に開き、大きな宮廷のセットが現れた。

 静寂が一転して場内から大きな拍手が起き、そして静まった。


 主役の赤城麗華が羽衣の姿で現れ、別れを告げているシーンから、この物語は始まっていた。




   ⬜︎⬜︎⬜︎




 休憩で場内が明るくなり古典ファンの静女がハンカチを目頭に当てていた。


「康代さん、この物語、古典と違うでござるよー 」


『そうね。原作じゃないわね。でも素晴らしいわ』


「そういうものでござるか」


『そうよ。脚本が素晴らしいと感動するわね』


 柿落とし初日の舞台は、大喝采の中で閉幕した。




   ⬜︎⬜︎⬜︎




 神聖女学園かるた会所属の朝川、夜神、赤城、大河原百合、朝霧雫は、徳田理事長の提案で学園都市のビジネスホテルにある宴会場に招待された。


宴会場は貸し切りで宝田劇団の女優と関係者が次々に到着した。


「理事長、康代さんお招き頂きありがとうございます」


「朝川さん、宝田劇団劇場が出来て、嬉しいのは私たち神聖女学園よーー これからもよろしくお願いしますね」


「理事長、とんでもございません」


 大勢の給仕が客席のワイングラスにワインを注ぎ終わった。

徳田理事長が舞台に近いテーブルの前でゆっくり立ち上がり周囲を見回した。


「じゃあ、康代さん、徳田康代大統領に乾杯をお願いしましょう」 


『分かりましたわ。理事長ーー みなさん、宝田劇団劇場の柿落としに乾杯! 』


 康代の大きな声がマイク越しに響き渡った。




   ⬜︎⬜︎⬜︎




 神さま見習いのセリエが康代の前に現れた。


「今、時の女神エルミオさまがにゃーー アカシックレコードの万華鏡の波動の微調整を終えたそうにゃあ」


『セリエさま、よく分からないのですが』


「アカシックレコードにはにゃあ。人間の前世から来世の記録が刻み込まれているにゃあーー そこから逸脱することは不可能にゃあーー だがにゃあ。あの来訪者のアカシックレコードがにゃあーー 何者かの仕業で壊れていたにゃあーー エルミオさまが対応されているにゃあ」


『じゃあ、セリエさま。それが上手く行けば、良いのですね』


「多分、そうなるにゃあ」


 セリエは康代に伝えると消えて光になった。


「セリエさま、お忙しい」 


「セリウス殿も、セリエさまと同じくなるでござるよー 」


「私は、まだまだ下っ端の神使でございます」


 康代はセリウスと静女の会話に苦笑するしかなかった。


「康代殿、今宵は皓月でござるよー 」


『あらそうなの。静女ちゃん』

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三日月未来(みかづきみらい)

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