長万部駅の奇跡と北への決意
旅先での小さな出来事が、時に道を変える。
忘れ物に気づき助けられた駅で、偶然再会したあの少女。
彼女の言葉が心に響き、北の大地へと僕の足を導いた。
これは、夏の夕暮れに交差した旅人たちの物語。
それぞれの夢を胸に、まだ見ぬ未来へと続く道。
夕暮れの長万部駅。
オレンジ色の光に包まれたホームで、僕はふと胸がひやりとした。
「あれ……駅弁の包みがない!」
慌てて駅舎に入り、カウンターの駅員さんに声をかけた。
「すみません、駅弁を忘れてしまったかもしれません」
駅員さんは優しく微笑み、慣れた手つきで探してくれた。
数分後、手渡された包みを受け取りながら、僕は胸の中にほっとした温かさを感じた。
「小樽行きの列車は間もなく発車します。気をつけて」
そう言われて改札を抜け、ホームへ向かう。
列車の中、隣の席に見覚えのある少女の姿があった。
彼女は旅の途中で出会ったあの少女。カメラは外されていたが、その瞳は変わらず澄んでいた。
「こんなところで、また会うなんて」
驚きと嬉しさが混ざった声をかけると、彼女は微笑んだ。
「偶然だね。私の最終目的地は礼文島」
彼女が静かに語る。
僕は漠然と日本最北端、宗谷岬を目指そうと思っていた。
でも彼女の言葉が頭に響いた。
「礼文島か……北の島だね」
その夜、札幌に着くと僕は決めた。
急行『利尻』の夜行列車に乗り、まずは稚内へ向かう。
礼文島と少女のことが気になって、自然と足が北へ向いていた。
旅はまだ続く。
見知らぬ誰かとの出会いが、思わぬ道を示してくれることを知りながら。