一人、宗谷岬へ
夏の北の大地。
広がる青空と穏やかな海風が、心を洗い流すように吹き抜ける。
稚内駅での別れを胸に、彼は一人、宗谷岬へと向かう。
旅の終わりではなく、新たな旅の始まりを告げる、静かな朝の物語。
遠くに灯る灯台の光を目指して、北の果ての道が続いていく——。
稚内駅のホームを離れ、僕は重いリュックを背負ってバス乗り場へと向かった。
夏の朝は爽やかで、まだ涼しさを残す風が頬をなでる。
透き通った青空の下、駅前には朝日が優しく差し込み、木々の緑が鮮やかに輝いていた。
バスがやってくると、僕は窓際の席に腰を下ろした。
外には広がる田園風景が一面に広がり、黄色く揺れる花畑や背の高い草が風にそよいでいる。
進むにつれて、街の喧騒は徐々に遠ざかり、川辺や森の緑が増えていく。
川のせせらぎが時折聞こえ、鳥たちのさえずりが心地よく耳を包んだ。
僕の胸には、稚内駅での彼女との別れがほんのりと残っている。
でも、夏の光に照らされた景色を眺めながら、少しずつ気持ちは前を向いていく。
旅人の喫茶店で聞いたマスターの言葉を思い出す。
「旅は目的地だけじゃない。途中の景色や出会いが心に残る」
窓の外の青い空と白い雲。
広がる草原の鮮やかな緑。
遠くに見える海と水平線。
それらすべてが、僕の心を新たにする。
やがてバスは海沿いの道に入り、波の音が聞こえてきた。
青く広がる海は穏やかで、風が心地よく吹き抜ける。
そして、遠くに灯台が見えた。
それは宗谷岬の象徴、静かに夏の光を浴びて佇んでいる。
胸の奥にじんわりと温かいものが広がる。
ここまで辿り着いた自分への誇りと、これから始まる新しい一歩への期待。
「旅は終わらない」
そう心の中でつぶやき、窓の外の景色を深く刻み込んだ。
夏の風が頬を撫で、僕を包み込む。
北の果ての夏は、力強くも優しかった。