帰りのフェリー、波音に包まれて
遠ざかる島影、揺れる波間。
潮風が二人の言葉を運び、未来への想いを静かに織りなす。
別れの瞬間は、同時に新しい旅の始まり。
潮騒の中に交わされる約束が、心に深く刻まれていく――。
朝の礼文島は、静かに眠りから覚めていた。
港に向かう小道を歩くと、潮の香りが肌を包み、草の緑が爽やかに目に映る。
フェリーのデッキに立つと、冷たい海風が顔を撫で、髪を揺らした。
波の音が規則正しく響き、船体がゆっくりと揺れている。
彼女は少し寒そうに肩をすくめながら、目の前の水平線を見つめていた。
僕は隣で手すりに手を置き、遠く離れていく島の風景をじっと見つめる。
しばらくは言葉を交わさず、ただ潮風と波音に包まれていた。
その静かな時間が、僕らの胸の奥に染み込んでいくようだった。
やがて、彼女がそっと話し始めた。
「礼文島に来る前の私と、今の私、何かが変わった気がする」
僕は顔を向け、穏やかに頷いた。
「僕もだ。旅の途中で見たもの、感じたことが、知らない自分を教えてくれた」
彼女は目を細めて笑った。
「写真だけじゃなくて、自分の人生も撮り直すみたいな気持ち」
僕は笑い返しながら言った。
「これから先は、それぞれ違う道を歩くかもしれない。でも、あの丘の上で見た空みたいに、どこかで繋がっていると思う」
潮風が強く吹き、僕たちの言葉を包み込む。
彼女の髪が顔にかかり、彼女は手でそっと払った。
「これが終わりじゃなくて、始まりなんだよね」
僕は深く息を吸い、力強く答えた。
「うん。これからが本当の旅だ」
フェリーは静かに波を切り、島影は徐々に遠ざかっていく。
遠ざかる景色に心を重ねながら、僕らはそれぞれの未来へ歩き出す準備をしていた。
潮の匂いと波の音が、僕たちの約束を静かに見守っているようだった。