#009 カレー、辛ぇ~
はてさて…
今回の亀組の日常は…
アッザムという蜘蛛のお化けのようなモビルアーマーのページで、アッザムリーダーについて熟読していると、
「むね君っ、ご飯よ~!」
「はぁぁ~い!」
言われてみれば「お腹と背中がくっつくぞ。」と体が叫んでいた。すでに18時を過ぎ、テレビでは
「最近のこのような問題は、本当に切ないですよね・・・木村さんっ。」
「まず襟を正すのは我々なんでしょうね。何だかんだ言う前に我々自身がまず我々自身の問題として捉えなければならないですね。」
「そうですね~。はい。」
もう木村さんに一言もらっているという事は、最初の大きなニュースは終わってしまっているという事である。僕はテレビもラジオも好きだ。インターネットは嫌いではないが、決して好きでもない。本当に調べたい事がある場合には重宝する。先日もケロロ軍曹について調べたばかりである。
テレビから次のニュースが流れてくるのと同時に、大きなお皿にほど良い量のカレーライスが運ばれてきた。具がたくさんで、全てが食べやすい大きさである。しかし、ここで記述しなければならない大問題が存在する。母好江は素晴らしい女性である。器量も良く、常識と言うものも持ち合わせている。しかし、しかしだ、その反動か、遺伝子レベルでの問題か、前世での習慣か、辛いものに対する判断基準の物差しが、完全にではないにしろ壊滅してしまっているのである。【いや、母好江の中にもまだ人間の部分が残っている。それを僕は信じたいんだ。】ダース・ヴェイダーの中のアナキン・スカイウォーカーを信じるルーク・スカイウォーカーのように、僕は目を閉じた。
「いただきまーす。」「いただきます。」
母好江はカレーに手をつける前に、グラスに注がれたいつものワインを少し口に含んだ。決してがぶ飲みでなく、あくまでもエレガントである。だからこそ、だからこそ僕は信じたかった。
僕は牛乳を少し飲むと、スプーンを持ってカレーとの初顔合わせに挑んだ。もちろん今までに幾度となくカレーは食べていたが、常に初陣の心構えが必要な多彩さを誇っていた。【印度産まれの舞の海やぁ~】
「あっ!」
「どうしたの?むね君?」
「甘い~!このカレー甘いね~!」
「うん。むね君のカレーは甘口にしたの。」
「おいしいよっ!」
本当に驚いた。立会いで様々な技を繰り出してくる技のデパートを予測していたが、普通に取り組みをしてしまっている。本当に美味しいカレーの登場である。
「お母さんのカレーも甘いの?」
「ううん、お母さんのは甘口じゃないよー」
「ひと口ちょうだい~!」
油断大敵、安心感は時に最大の敵となってしまう。僕はなぜそのような冒険を試みたのか分からない。予想に反して美味しい甘口カレー。それで十分良いではないか。美しい妻と、やり甲斐のある仕事、可愛い子供達、暖かい家庭。それだけで十分じゃないか。なぜ人は冒険を始めてしまうのだろうか。
「いいよ~」
「・・・ん、んぐっ。」
「大丈夫~?ちょっと辛いよ~」
「!:‘@#impossible.com&5:*¥!?」
「はいはいお水お水。」
辛さは痛みに変わり、痛みは後悔に続き、後悔は諦めと怒りに分かれる。僕は怒りすらだす気力もなく、全戦闘力を奪われてしまった。口の中の全てをリセットして、やり直したい。心からそう願い、母好江がくれた水をゴクゴクと飲んでいった。【ここでお笑いならば、ただの水じゃなくてタバスコ入りの水とか渡されるんだろうな~】瀕死の状況でもファンクな事を考えるのは血筋であろう。僕も多かれ少なかれどこかの部品が平均値をはるかに越えてしまっているのかもしれない。
「から~っ!から~っ!ひぃ~!」
「ごめんごめん、そんなに辛かった~?いつもと同じはずなんだけどな~!」
ハリウッド・ハルク・ホーガンが中学生の喧嘩に巻き込まれて、本気でやったら、こんな感じになってしまうんだろう。チェ・ホンマンでも良い。(あれ、そんなに痛かった~?)みたいな。
「しんぞっう選手、これからの動向につゅ~もくです。」
スポーツの素晴らしさを決して伝えきれない、男らしい眉毛の元サッカー選手が安藤さん達に暖かく見守られている頃には、僕の口の中もGHQによる戦後統治が終焉をむかえ、自立の道を歩み始めていた。
「ごちそうさまっ。辛かった~でも、おいしかった~!」
ゆっくりとワインを傾けている母好江は笑顔で答えてくれている。僕も残っている牛乳を飲み干して、お皿とコップをキッチンの流しに持っていった。
「ありがとう!むね君!」
自分ができる手伝いはするという事は、桶狭間家においては当たり前の事として捉えられていた。父宗郎も姉静子も同様である。いや、彼らの方がより率先しているのである。
食器洗い乾燥機が静かに大胆な洗い方をし始めると母好江の携帯に静子からのメールが届いた。それによると、静子は友人達と食事をしてくるという事であった。もう、早く言ってよねっ!仕方ないわね!といったような表情で返信文を打つ母好江の携帯のストラップは決してチャラチャラしたものではなく、父宗郎がどこかから買って来た、本革仕様のものである。値段は聞かなかったが、一本一本手作りで裏に22/100というシリアルナンバーが刻まれていた。
完璧の中に存在する遊び、それを浪漫と言うのだろうか。母好江のメールアドレスは、dokigamunemune@となっていた。
お茶目である。
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