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#007 笹岡さん~上様

はてさて…


今回の亀組の日常は…

 デ・ジャビュというのは確かに存在するのだろう。どこかで見たことがある。何だか覚えている。といったものである。それは大脳新皮質の作用なのか、それとも前世の記憶なのか、両方なのか。確かに僕はそんな事を考えていた。


「あら、こんにちはぁ~!今日はあったかいね~!」


 夕日あふれるゴミステーションの前では、まだ犬の散歩の途中の笹岡さんが犬のレディオの糞を取り上げていた。僕はレディオのもとに走りよっていった。


「レディオ~元気ぃ~?」


【はい、元気です。元気は元気なんですが、なにぶん笹岡の姉さんときたら、ダイエットと言いながら毎日三回も四回も散歩をするんですよ~!しかも、あのサングラスでしょう?こっちは疲れるし、恥ずかしいし・・・】


「そっかぁ~元気でよかった~!よしよし」


 僕はレディオとそんな会話ができた気がした。


「じゃあね~むね君っ! どうも~ごめんください!」


 そう言うと笹岡さんとレディオは小走りで角を曲がっていった。僕は犬は大好きであるが、自分で欲しいところまではいかなかった。僕の姉の静子は以前激烈にちわわを欲しがったが、母好江の絶対的反対の前にはその訴えも空しくかわされてしまっていた。僕も、姉静子が犬を欲しがっていた時に毎晩のように


「どうするぅー むねくんー!」


 と言われ、


「ご利用は、計画的にっ」


 と言い返して笑うという反復練習が続いた事を考えると、少し母好江の英断に感謝していた。

 

 家に着くとちょうどヤクルトレディのおばさん、陣野千恵が夕方のヤクルトを配送していたところであった。陣野さんは常に一言多いレディである。決して根が悪いわけではないが、なんせ一言多いのである。なので、僕も家族もそんな陣野さんに対する対応は心得たものである。


「どうも、ごくろうさまでした~。」


「ありがとう~じゃあね~おばさんっ。」


「はい、どうも~」 


見事な親子の連携によって無事に笑顔で陣野さんを送り出すことに成功すると、郵便受けにあった携帯電話会社からの請求書封筒とピザ屋さんのチラシをとって玄関を開け、僕たちは家に入っていった。


「ただいまぁ~」 「おかえり~」


 いつからか幼稚園からの帰省においては、母好江が「ただいま係」、僕が「おかえり係」となっていた。


 スリッパにつまずきそうになりながらも、スタスタと廊下をリビングダイニングのドアの方に向かって歩いていった。僕も小さいスリッパをわざとストスト言わせながら、その後についていった。


 僕の家は決して豪邸ではないが、それなりに広く、部屋数も少なくはない。何よりの自慢であり僕のお気に入りは、リビングダイニングにある暖炉と広く綺麗な庭である。僕の父宗郎と母好江は時間と空間の使い方がとてもうまかった。休日をしっかり満喫したり、家という日常の空間の細部にこだわったりと。出逢いはロンドン、ニューヨークで再会し、挙式はスペインという訳ではないが、そんな匂いを漂わせていた。


 僕は大きくて適度に柔らかいソファーに座ると、テレビのスイッチをいれた。大きな画面には上様が江戸市中で忍びの隼人と密会をしている様子が写されていた。


「これ、いつもやってるわね~」


「うん!」


 確かにそんな感覚におちいってしまうのが時代劇の宿命であろう。水戸黄門であろうが、暴れん坊将軍であろうが、鬼平犯科帳であろうが、全ては時代劇というジャンルの中だけに収まって認識されてしまう。欧米人から見たアジア人のように区別がつかなくなってしまうのであろう。確かに僕たちも、イギリス人とドイツ人、フランス人とリヒテンシュタイン人の区別は簡単にはできない。


 母好江はお茶を入れ、僕のジュースといっしょに持ってきてくれた。僕はそのミカンジュースを飲みながら、上様の暴れん坊ぶりに夢中になっていた。【しかし斬り殺すにも限界があるだろう。いくら悪者とはいえ、斬りかかってくる者どもの大半が無罪である。本当に悪いのは頂点の悪代官や悪商人、悪家老だけである。それ以外の部下20名余りは、むしろ従順な部下であろう。吉宗よっ、暴れすぎだろう。】


「これ斬り過ぎよね~いくらなんでも。」


 親子とは本当に面白いものである。お茶をすする母好江がそうつぶやく頃には、上様は最後に残った悪代官と大坂屋を見つめていた。

次の


エピソードに続きます

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