#019 神の意思、荒ぶる四男坊のシンバル
はてさて…
今回の亀組の日常は…
「いち、にっ、さん、はいっ!」
僕はヒスパニックへの例の懐疑心を押し殺しながら、宮川麻耶といっしょにカスタネットを鳴らし始めた。本日のキラキラ星も美しくとはいかないが、決して見れない星ではなかった。大きくミスをしたのは鶴組の「旗本の四男坊」こと徳田丸男であった。お調子者ではあるが、暴れん坊将軍の市中での御名前の徳田の姓を受け継いでいたために、暖かい面も持ち合わせていた。四男坊はシンバルという大役を仰せつかっており、そこには大きすぎる責任が伴っていた。途中と最期の二回だけの登場であるが、そのタイミングは絶対的なものであり、それを逃すという事は部隊全体が全滅してしまうという事である。
ジュワァ~ン・・・・
惜しいという言葉さえ当てはまらない恐ろしいタイミングであった。それは神の意思なのか、四男坊の遊び心なのか、ジャズか、ジャズなのか・・・と思ってしまう程の自由奔放なものであった。キラキラ星は決して堕ちる事無く無事に終了したが、四男坊の脇で笛を吹いていた「係長」こと田村敏は、四男坊の持つ世界時計の様な時空の違いに大いなる驚きと、戸惑いと、かすかな憧れを抱いていた。
ポピッポ~
係長の荒ぶる笛の音が全てを如実に物語っていた。確かに予期せぬタイミングでの至近距離からのシンバル・アタックに驚いただけという見方も存在するが、その音にはそれだけではない何かが吹き込まれていた。
ジュワ~ン!
曲の終わりを告げるシンバルはいつも通りに素晴らしいものであった。
「はい、みなさんよかったですよ。まるお君、きをつけてね!」
ヒスパニックがそう言いながら笛パートと話を始めると、多恵先生が四男坊のそばに寄っていった。
「まるおくん、だいじょうぶだよ。」
「うん、ごめんなさい・・・」
「まちがっちゃったね!」
「うん、ちがうことかんがえてたら・・・わすれちゃった・・・」
「そうか~なにをかんがえていたの?」
「パパがいってたこと・・」
「お父さまがなんていっていたの?」
「{パパのおにいちゃんは、おねえちゃんなんだぁ~}っていってたの~!」
「そっか~」
「せんせい、どういうこと~?」
「まるおくん、そのおじさんにあったことある?」
「うん、たまにこわいけど、とってもやさしくて、いっつもおこづかいくれるんだ!」
「そっか~じゃあそのおじさん、だいすき?」
「うん、すっごくだいすき」
「そのおじさんは、やさしくてきびしくて、まるおくんのおじさんとおばさんとりょうほうなんだよ!だから、おとうさんはそういったんじゃないかな!」
「そっか~りょうほうだ!おっかなくて、やさしくて、りょうほうだ!」
「すごいね~まるおくんのおしさん!」
「ちがうよ!おじさんじゃなくて、おばじさんだよ!」
「そっか、そうだね!おばじさんだね!」
「おばじさん~つえ~!おばじさん、つえ~!」
オナベという言葉を知る必要もない。私達は様々なものを色眼鏡で見てしまう。どのような状況であれ、平らに人を見るという事は決して簡単ではない。しかし、四男坊にとって叔父が叔母であったという過ぎ去った事実は重要ではなく、目の前に居てくれる「おばじさん」が全てである。
「おばじさんチョ~ップ!おばじさんキ~ック!」
「つよいね~おばじさん!」
暖かく優しく四男坊を見守る多恵先生の瞳の奥には、確かに聖観音菩薩の姿が映っていた。
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