#013 鬼斬丸~孫さん
はてさて…
今回の亀組の日常は…
久しぶりの御大将の笑顔は確かに暖かかった。
「みんな本当に大きくなったなぁ~!真太郎っ!ちゃんとご飯食べてるかぁ~?」
「はぁ~い!たべてまぁ~す!」
「そうか~おぉ~宗則~!良く似合うな~その帽子~!」
「うん!ありがとう!園長先生っ!」
そう言いながら御大将は僕と世界遺産を両肩に乗せて、外の「 鬼斬丸 」へと向かって行った。
「せんせいこのバイクのダビットさんかっこいい~」
「なぁ~真太郎、カッコいいだろ~ダビットさんはぁ~!」
「しんちゃん~ダビッドソンだよ~!さんじゃなくて」
「あはははは!どっちでもいいんだよ!ダビットさんでもいいじゃないかぁ~!あはははははっは!でも、ありがとうなぁ~宗則!そうだな、確かにちゃんとした名前で覚えた方が、ダビットさんも嬉しいよな!真太郎っ!今日からダビットさんは、ダビッドソンになるんだ!いいかぁ?」
「はぁ~い!ダビッド・孫~!」
「あははははははははは!その言い方だと、ボストンに留学中の孫悟空の子供の出欠確認みたいだな~!いいなぁ~それにしよう」
「ダビッド・孫~っ!ダビッド・孫~!」
「ダビッド・孫~ダビッド・孫~!」
僕も何だか世界遺産の魔術にはまっていった。
「っあははははっはハーレーが名前で、孫が苗字で、ダビッドがミドルネームだな!あははははははははははっ!」
「ダビッド・ハーレーさん、ダビッド・ハーレーさん!」
現状で、世界遺産に同時に二つの情報を注入するという事は不可能である。伝言ゲームでも二つ以上の言葉が入ってしまうと、全てのシステムがいっせいに機能しなくなってしまう。しかし、その誤作動とでも言うべき一連の動きが僕たちに何とも言えない新世界を見せてくれるのである。
「ハーレーさんハーレーさん!」「ハーレーさんハーレーさん」
いつのまにか、みんなが孫さんのまわりにあつまっていた。
「はあい、みなさん、こちらにならんでください」
優しい声で多恵先生が僕たちを諭すと、全員がきれいに一列に・・・とはいかないが一・三列くらいにならんでいった。
「ようし、じゃあみんな。また来るからね!元気に遊んで、しっかりご飯を食べるんだぞ~!よ~し・・・いくぅぞぉぉぉぉぉ~っ!・・いちっ!にぃっ!さんっ・・・・・っだぁぁぁぁ~っ!」
「だぁぁぁ~!」
どっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっど
「せんせい~またね~!」「せんせ~ぃ!せんせ~ぃ!」
ホナウジーニョ・ガウーショのように親指と小指を立てながら、相棒の「 鬼斬丸 」改め「 孫さん 」またがりながらゆっくりと走り去っていく御大将は、太陽の中にとけていった。
僕と世界遺産は余韻に浸りながら、孫さんの排気ガスの匂いさえ楽しんでいた。別れを惜しむかのように・・・
「・・・くっせ~!っくっせ~!・・」
人は時に自らの判断を過信してしまう。自信が過信になってしまっては決して美しくない。自分がこうであったならば良いだろうという事が、全ての場合において正しくはないのである。親切も、時に迷惑となってしまうのである。
「くっさいねぇ~むねのりくん~!ハーレーさんってくさいね~!」
「ガソリンのにおいなんだよねぇ~!」
「くさいね~ガソリンって!ハーレーさんのガソリンくさーい!ガソリンくさーぃ!ガソリンくさ~ぃ!」
一つの言葉を一度認識すると、それを繰り返してしまう世界遺産の基本性能は決して過信ではなく、自信であった。
「ブルブル・・・ドッドッド・・くっさ~いハーレーさーん!」
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